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インナーヒットマン  作者: 太田
プロローグ
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プロローグ

 窓の隙間から射し込む陽の光で目を覚ました。光はあまりにも強烈で、目蓋の裏に焼けつくように沁みわたり、頭痛を誘った。


 視線を持ち上げると、宙に舞った微かな塵が、金粉のように浮遊していた。 枕元の携帯を手に取る。

 

 3月10日 12時34分

 

 そう表示された。

 

 僕、田中初(たなかはじめ)(27歳)は、引きニートである。親の残したお金を切り崩しながら。かれこれ7〜8年ほど自堕落な生活をしている。食っちゃ寝の生活を何年もしている。こんな自堕落な姿をみたら、多分親は、泣くだろう。

 

 自分でも、今の状況は、良くないと思う。しかし、外に出るのがめんどくさいのだ。


 お金には、一人で暮らす分には、困ってないし。何か欲しいものがあったら、通販で配達してもらえばいい。そんな感じで、ヒキニートになったのだ。


 今日も日課のゲームのデイリーミッションをやっていく。どんな不安もゲームやれば払拭できる。それがヒキニートを何年もやって学んだ事である。


 いつものようにゲームと、ログインするとある事に気づく。


───今日もRATがいない…。


 ネット友達のPATがゲームにログインをしていなかったのだ。


 RATさんは、このゲームがサービス開始した時からの知り合いだ。だから……知り合って5年くらい?


 声も顔も知らない。だが、確かに、心の近しい存在だった。


 アニメの感想、くだらない攻略情報、下ネタを含んだ雑談。ボイスチャットを嫌い、決して素顔を晒さなかったが、それでも僕は親しみを抱いていた。


 そんな、RATさんだが、最近このゲームにログインしていないようだった。


──いつもは、この時間にログインしてるのに…。


 ログイン履歴をみるとかれこれ1週間は、ログインしていない。


──仕事とかが忙しいのかな?


 デイリーミッションを終え、冷蔵庫を開く。冷蔵庫の中には、缶やペットボトルがずらりと並んでいた。お茶やコーラ、エナジードリンクなんかもある。


 甘いものが飲みたい気分だったので、コーラを飲むことにした。


 一口。喉を突き刺す炭酸が、痛みに似た爽快を与えた。 


 ネットサーフィンをするためにPCの電源をいれ、ブラウザを開く。ふと、あるネット記事が目に入ってきた。


【大山組惨殺事件 組員全員死亡】


 記事を読んでみると、どうやら大山組と言われる暴力団が襲撃されて組員全員が死亡したらしい。警察は、大山組と敵対関係にあった暴力団を調べていると記事にはある。



───うわ…これ地元じゃないか…。


 どうやら、この事件が起きたのは、僕の住む場所の近くらしい。


───でも外でないし、僕には、関係ないか!


 外に出ない僕にとっては、そのニュースは、全く関係のないものだった。


───よし、別のゲームでもするかな。確か、今日は、特別イベントがあったはず!


 マウスに手を伸ばす。次の瞬間、違和感が走った。


───あ…。

 

 太腿を濡らす感覚。ペットボトルのコーラが横倒しになり、暗い液体がじわじわと広がっていた。その黒い奔流(ほんりゅう)は、よりにもよってキーボードを直撃した。

 

 急いでティッシュで拭いたが、そんな抵抗も虚しく。キーボードは、息を引き取った。


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