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【第二幕:脚本粉砕☆断罪阻止大作戦】

──王子の口上、開始五秒前。


 バイオリンの旋律が優雅に舞い、金色のシャンデリアが光をきらめかせる。  壇上に立つ王太子クラウス・フォン・エルトリシアの後ろで、私──セシリア・ド・ラファエリはそっと、扇を開いた。


(さあ、開幕よ……! 地獄のツッコミ舞踏会のはじまりよ……!)



「皆の者、本日は我が王立リューゼンベルク学園の──」


 王子の冒頭挨拶を、私は見事に遮った。  いや、狙ってやったのだ。拍手の合間に、完璧なタイミングで。


「申し訳ございません、クラウス殿下。その開会宣言、いったんストップで」


 バァン!と舞台中央に立ち、私は“巻物”を広げた。


「ここに! 断罪イベントの! 脚本の原本がありまーす!!」


「原本だと!?」


「それどこから持ってきた!?」「いや存在してるのかそんなもん!?」「マジであったぁぁ!?」


 どよめく会場。上手く乗った。


「まずは証言VTRをご覧ください!」


「……VTRって何だ」


「魔導結晶録画です。ほら、スフィアに投影!」


 天井から降りた謎の球体が光を放ち、ホログラムが再生される。


──そこには、取り巻き令嬢たちが放課後のサロンで優雅に茶を啜りながら、 「セシリア様が何もしてないと困るんですよねぇ」などとしゃべっている様子が……。


「な……ななななんでこんな映像がッ!?」


「奇跡の瞬間☆バッチリ収録。どうぞリピート再生を」



 私は眼鏡(伊達)をかけ、片手に指し棒を持った。  地面に投影される“事件当日の動線マップ”を踏みながら、私は優雅に歩く。


「こちらをご覧ください。これが、私が“暴力事件を起こした”とされるタイムラインです」


 指し棒がカツカツと音を立てる。


「が、その時刻、私は──この図書館にて」


 ピッと指し棒が跳ねる。


「こちらの生徒と共に、『国家形成と魔法制度:基礎理論(改訂第五版)』を読んでいました。こちら、生徒手帳の貸出履歴。インクの鑑定。試験官の証言」


 目撃証言パネル、資料、証拠写真が空中に並ぶ。


「……情報量が多い!!」「お前、裁判か!!」「もはや舞踏会じゃない!!」


 会場からツッコミが飛ぶ。


(いいぞ、盛り上がってきたわ)


「さらに、問題の“暴力事件”の場所。校舎裏庭で、目撃者ゼロ。監視魔法も当時停止中」


 私はニヤリと笑う。


「……なのに、なぜ断罪できるのか。誰か説明をどうぞ」


 王子たちは、そろって顔を見合わせる。


「そ、それは……だな……リリアンが、泣いて……」


「はい! 感情論入りましたーーー!!」


 赤い札を掲げて叫ぶ私。


「異議あり! ってレベルじゃないわ。これはもう、感情が主観を殴り倒してるわよ!!」



 私はさらに畳み掛ける。


「こちら、リリアン嬢が“怪我をした”とされる腕の状態。事件翌日に剣術部で素振りしてます」


「う、うそ……っ」


「しかも握力測定、通常値より高い。おそらく回復魔法か、もしくは最初から怪我なんてなかった!」


「黙りなさいっ、セシリア!! あなたが悪役だから、みんながあなたを責めるのよっ!」


「出た! 脚本に毒されたセリフ!!」


 私は指し棒をブンッと振る。


「この世界では、誰かの“役”に沿って行動すれば、真実はどうでもいいのね?  ならば聞こう。王太子クラウス殿下。あなたは私が“悪役令嬢”という役だから罰したのですか?  それとも、本当に私を“人”として裁いたのですか?」


 クラウスが言葉を詰まらせる。


「私は……それは……」


「さぁさぁ! 王子様、答えて!! この“脚本”から自立できるのか!!」



「……くっ……わからない……っ! 俺は、何をしていたんだ……?」


 観客がどよめく中、クラウスが膝をつく。


 その瞬間、背後から声が響く。


「セシリア様……ッ! 我々も、申し訳ありませんでした!!」


 攻略対象その2、賢者アーサーがど派手に土下座。


「ちょっ、何やってんの!?」「アーサー!?」「この人、地面に額めり込んでる!?」


「すみません! 脚本に従って、何も考えず悪役扱いしてましたァ!!」


「反省が派手すぎる! 誰か止めてあげて!!」


 その場にいた攻略対象たち、取り巻き、教師陣すら、次々と“土下座の連鎖”。


「やめろ! 舞踏会の床が土下座祭りになってる!!」


 私はスカートを翻し、すべてを見下ろして言う。


「台本どおりの断罪など、いらない。私は“真実”のために、この舞台に立ったのです」



 リリアンが震えながら立ち上がる。


「……セシリア様……なぜ……優しくしてくれたのに……どうして、こんな……」


 私は一歩だけ彼女に近づいて、静かに言う。


「それは、あなたがヒロインだったからじゃない。私はね、リリアン。あなたの“中にいる誰か”にムカついてたの」


「……なかに、いる……?」


「そうよ。あなたの背中に寄生してる“台本”。あなたが無意識に従っていた、“キャラ設定”。  それが、全部──うざかったの」


 観客の誰かが、ぱち、と拍手をした。


 そして──拍手は徐々に広がり、会場中を包み込む。


「……舞踏会……じゃないよね、これ」「いやでも、ちょっとスッキリした」「セシリア様が主人公で良くない?」


 私は静かに一礼する。


「ありがとう。でも私は、主人公になんてなりたくないの。せいぜい、物語を“終わらせる役”くらいがちょうどいいわ」


 会場が、静まり返る。


 空気が、変わる。


 それは、喜劇の終幕。役者の退場。


 私は踵を返し、幕の向こうへと歩いていった。


(──さようなら、クソみたいな物語)

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