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02


 ある日の昼休み。


 せっかく晴れていて気持ちのいい天気だし、これを満喫しないのはもったいない気がして、外で昼ご飯を食べることにする。

 

 この選択はもちろん、教室で一人で昼ご飯を食べることが恥ずかしいとか、そういう後ろ向きな理由じゃない。

 あくまでも前向き。地球との対話。地球への感謝だ。


 いつの間にかめんどくさい地球ニキになっている気がするが、まぁいい。


 そう、そんな些細なことなんて、今はどうだっていいのだ。


「なぁ北浜。俺と付き合えよ」


 ぴっしりと真ん中で分けられた髪を触る男子生徒。

 その正面には北浜さん。

 いつも俺の隣に座っているあの北浜さんだ。


「まずは告白してくれてありがとう」


 まずは、で入ったらそれはもう断る流れで決定なんだよな。


「フッ、感謝されるほどのことでもねーよ」


 なんでお前はそんな満更でもない顔できるんだ。

 もう解は出てるのに。


「でもごめんね? 君と付き合うとかはちょっと難しいかな」


「……うぇ?」


 ほら見ろ。


「ちょ、ちょっと待て。付き合ってる奴いないんだよな? で、なんで?」


 どうして付き合ってる人がいなかったら付き合えるスタンスなんだ。 


 ときに男の自信は、さらけ出した額の面積と比例する。

 どうやらこのセンター分け男、自分に相当自信があるらしい。


「確かに付き合ってる人はいないね」


「だったら……」



「でも、気になってる人はいるんだ」



 北浜さんが人差し指を立てる。


「ど、どいつだ?」


「それは教えられないよ。誰にも言ってないし、ペットの五郎四角にも言ってないからさ」


 五郎四角って。

 

「つーことは、そ、そいつとイイ感じなのか?」


「ううん。全然振り向いてもらえないんだよね」


 北浜さんに好意を寄せられて、振り向かない人がいるのか。

 誰だって北浜さんなら手玉に取ってしまいそうなのに。


「だったら! ……俺と付き合えばいいんじゃね?」


 すごいなコイツ。

 

「えっと……そういうことじゃないと思うんだけど」


 さすがの北浜さんも困惑している。

 しかし、完全にかかっている男子生徒。


「いいだろ? 叶わねー恋より、今すぐ手に入る俺との幸せを取れよ。なぁ、北浜」


 よく歯の浮くようなセリフ、そんなにさらっと言えるな。


「間に合ってるかな」


「うぐっ!」


 さすがの北浜さん。

 容赦をなくせば、発言の攻撃力は相当高い。


「……恋に障壁は付き物、ってな」


 障壁どころじゃないだろ。


「なぁ、北浜!」


「っ!」


 男子生徒が北浜さんの腕を掴む。

 北浜さんは驚き、顔を歪めた。


「いいだろ? 俺と付き合えよ! ぜってー幸せにするからさ!」


「いやいや、さっきからずっと断ってるんだけど」


「俺がそれで諦めるような男に見えるか?」


「諦めるような男として見たいんだけど」


 困惑する北浜さん。

 しかし、それにも気が付かず男子生徒は猪突猛進。


 ……さすがにこれ以上、見ているだけっていうのも申し訳ないな。



「あ、先生。こっちに粘着質なセンター分けがいるんですけど」



 校舎の陰から二人の前に出ていく。


「誰が粘着質なセンター分けだゴラ!」


 ツッコみ、睨まれる。

 が、さすがに先生にこの状況を見られるのはマズいと思ったんだろう。


「チッ。俺は塩顔だっての」


(顔のタイプじゃないだろ)


 悔しそうに立ち去るセンター分け。

 

 ふぅ、と一気に肩の荷が降りる。

 あぁいうタイプほど、臆病だったりするものだ。


「なんで西町がここに?」


「昼ご飯を食べに来たら、たまたま」


「校舎裏で?」


「そうだけど」


「……教室に一人なのが寂しいの?」


「断じて違う。地球との対話をだな……」


「ぷっ。あはははっ! 何それ、変なの」


 クスクスと笑う北浜さん。

 ひとしきり笑い終えると、俺に一歩近づく。


「さっきは助けてくれてありがとね? すごく助かったよ」


「別に。見て見ぬふりをするのはバチが当たると思っただけだよ」


「へぇ、素直じゃないじゃん」


「北浜さんってエスパーなのか?」


「西町限定の」


「それは随分と残念な能力だね」


「そんなこともないけど」


 さっきまでめんどくさいセンター分けに絡まれていたのに、今の北浜さんはやけに上機嫌だ。

 

「でもやっぱり、西町は助けてくれるんだね。今も、昔も」


「昔?」


「そう、昔。ちなみに現世の」


 別に前世とかの可能性は考慮してない。


「あ、ピンと来てない感じだ」


「記憶容量が小さくて」


「えー、普通に傷つくなー」


「わ、悪い」


 人の名前も同じように覚えていられないのだ。


 不機嫌そうに頬をぷくーっと膨らませる北浜さん。

 やがて「そうだ!」と顔を明るくさせる。


「ほんとに悪いと思ってるならさ、一つ質問してもいい?」


「悪いと思ってるけど、一応さっき助け船出したよな?」


「バチが当たるから、なんでしょ?」


「……一つだけだ」


「やったー」


 さすがの北浜さん。

 どこまでも俺より一枚上手だ。


「じゃーあー」


 北浜さんが楽しそうに空を見上げながら、考えた素振りを見せる。

 

 質問が決まったのか「よし」と小さく呟くと、俺をまっすぐ見て訊ねた。



「どうして西町は、彼女さんとか作らないの?」





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