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01



「ねぇ、西町。明日もし地球が滅亡するって言われたら何する?」



 ――隣の席の美少女、北浜春瑠は様子がおかしい。


「……今授業中なんだけど、それは理解してる?」


「地球が滅亡するなら、授業中だーとか言ってられないよ?」


「そういう意味じゃなくて」


 どうやら北浜さんにとっては、もうすでに話題に入り込んでいるらしい。

 カリカリとチョークの音が響く中、俺は小さく息を吐いて、少し音量を下げて

訊ねる。


「明日地球が滅亡する、だっけ?」


「そうそう。原因は何でもいいよ。隕石が落ちてくるでもいいし、宇宙人が侵略してくるでもいいし。そこは西町のご自由に」


「……そうだな。じゃあ、学校の屋上から愛でも叫ぼうかな」


「あ、愛?」


「そう、愛」


 俺の言葉がおかしかったのか、ぷっと吹き出して転がるように北浜さんが笑う。


「その理由、聞いてもいい?」


「この先誰も俺のことを思い出せないなら、最後の日くらいは俺が絶対しないようなことしてみたいなと思って」


「絶対にしないんだ、屋上で愛の告白」


「俺がすると思う?」


 教室でさえ存在感は微塵もなく、声さえ秒でかき消えるというのに。


「してほしいなとは思うけどね」


「それ回答になってなくない?」


 北浜さんは答えの代わりに、映画のワンシーンみたいな笑顔を返してきた。


 少し開いた窓の隙間から微かにぬくもりを感じる風が吹き込む。

 北浜さんの、肩より少し上で切りそろえられた髪がふわりと揺れた。


「じゃあもし愛の告白をするとして、誰に愛の告白をするの? もしかして、彼女とか?」


「俺に彼女がいないのは北浜さんも知ってるでしょ」


「へぇ、そうなんだ」


「知ってる奴の反応だよ、それ」


 知ってる奴しかできない顔をしていたし。


「まぁそれはともかく」


 何故か自分が蔑ろにされた気がしてむっとするも、北浜さんの声に耳を傾ける。


「で、誰に対しての愛の告白をするんだい、西町よ」


「それはもちろん」


「お、もちろん?」


「地球に」


「スケールでかっ」


 もとより仮定が大きいのだから、これくらい飛躍してもいいだろうに。

 俺は正面を向きながら説明をする。


「だって、地球はこれまでいじめてきた人間を頑張って幸せにしてきたのに、急に滅ぼされる訳でしょ? なんか可哀そうだし、感謝を込めて愛を伝えようかなって」


「ふふっ、何それ。地球に感情移入?」


「まぁね」


「ふふっ、ほんと何それ」


 北浜さんが頬を綻ばせながら、顎に手をついて俺を見る。


「やっぱり、西町って変だよね」


「授業中に、地球が滅亡したらの話をしてくる北浜さんの方が変だと思うけど」


 あと、別に話しても面白くない俺にわざわざ話しかけてくることも変だ。

 そのうえ、ちょっと楽しそうにしていることも。


 やはり、北浜さんは様子がおかしい。










 昼休み。


「授業眠い……五分おきに目覚まし鳴ってほしい」


「うるさくて集中できんでしょ」


「集中できなくてよくない⁉」


「本末転倒……」


 一人黙々と昼食をとる俺に対し、北浜さんは自分の机に身を寄せて、吉永さんと二人で弁当を囲んでいた。


「あ、そういえば最近さ、三組の佐藤さん彼氏できたんだって! しかもお相手は、都内の某有名私大の二年生らしい……」


「結構年上じゃない? というか、女子高校生と大学生(成人)って倫理的にアウトな気がするんだけど、気のせい?」


「これはVARで見てみないと分からないね……」


「ちょっとモニターチェックしようか」


 何言ってんだこの人ら。


「それはそうとさ、ハル、また告白されたんでしょ? しかも今度は三年の道長先輩。すごいねぇーハルは。大モテだ。二年生になってから何人目?」


「うーん……四人目?」


「始まってまだ二週間なのに⁉ ひゃーすごいね! さすがボブ神!」


「どんな神だ」


 ……髪だけに。

 …………カットで。


「そういう夏里奈も三日前に告白されてたでしょ? しかも他校の人に」


「あれはびっくりした!」


「感想小学生?」


「びっくりした!」


「もう分かったから」


 ふと、ラジオ感覚で二人の会話を聞いてしまっていることに気が付く。

 ついテンポがよくて聞き入ってしまっていた。


 それに――


「でも、ハルは全然彼氏さん作らないよね。引く手あまただろうに。どうして? あ、もしかして……実は彼氏さんがもういたりして⁉」


 吉永さんが長い髪をふわりと揺らして、身を乗り出すように食い気味に訊ねる。

 北浜さんは、唇に手を当てて小さく微笑むと、一拍置いて何故か――俺の方を見て言った。




「彼氏はいないよ。今は――ね?」




 ドキリ、と心臓が跳ねる。


 ……いや、なんでそのタイミングで俺の方見るんだよ。



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