外道編2
アウム原理教の信者、新田ひかりは工学系の大学を卒業し電流のイニシエーションに使うヘッドギア開発部門に配属されていた。
しかしより優秀な工学部を出た信者が来た事により人手不足の出版部門の営業職に左遷されてしまった。
ゆうひの脳波を再現するヘッドギア開発の方が解脱へ向かう徳を積めそうなのに、末端信者でもできる本屋を回って導師の説法をまとめた本を陳列してもらえるよう、カルマに塗れた人間にひたすら頭を下げる仕事ばかり。
こんな事をしていたくないと幹部に相談した。
「それもマハームドラーだよ。やりたくない事を我慢する苦行に耐えるのも立派な修行だ」
「全てそんな言い分で言いくるめようったってされても嫌なものは嫌ですよ。もう家に帰りたいです。家に帰って修行がしたいです」
この訴えを聞いた幹部はゆうひに報告した。
「なんだと。本当にそう言ったのか。どうやら彼女は魔境に入っているようだね」
魔境とはクンダリーニの覚醒時に起こる異次元のエネルギーを受けて精神のコントロールが効かなくなった状態の事を指す。
「彼女に独房修行を課す」
独房修行とは教団施設内の牢獄に閉じ込める修行である。
幹部達はひかりの両手両足を縛りつけ牢獄に監禁した。
しかし、ひかりはこの処遇に納得いかず、教団を抜けたいので牢獄から出してもらうよう檻の中から懇願し朝から晩まで叫び続けた。
このまま脱走されたら警察にこの間殺して埋めた信者の事をバラされるかもしれない。
そう考えたゆうひはひかりをポア(魂の浄化)するよう幹部達に命じた。
幹部達はひかりの牢獄に入り、包帯をひかりの頭に巻きつけ目隠しをした状態で、首にロープを巻きつけ、二人の幹部が互いに反対方向へ綱引きのように思いっきり引っ張った。
「うぐっぐぅゔぅゔゔゔっ……」
ひかりは喉を締め付けられ息苦しさにもがきながらも顔面が鬱血していく。
苦しくてたまらなかった。正気を失い手足をジタバタと動かし抵抗するももう一人の幹部信者に身体を押さえつけられる。
グロッキーな姿と人の首を締め付ける生々しい肉感をロープ越しに感じるのが不快なため幹部信者は早くこのヴァジラヤーナを終わらせようとより強く縄を引っ張った。
「ウグウグウグックハァッ……」
十分後。ひかりはとうとう意識を失い泡をふいて絶命した。
「証拠を残さないようにしろよ」
幹部はゆうひの指示通り遺体をドラム缶に詰め込み、ガソリンをジャブジャブとかけて何時間もかけ燃やして灰と骨だけの状態にした。
その骨を角材で叩いて粉々に砕いて裏山にばら撒いた。
こうなってしまえばもう遺体を見つけ出す事は不可能だ。
「皆良くやった。ひかりは地獄へ堕ちずにシロクマに転生した。今、親子で南極を歩いているよ」
ゆうひはニヤニヤしながら言った。