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立志編2


「先輩! 最近やけに羽振り良いっすね!」


 ゆうひの一個下の後輩である瀬戸あかりが高級焼肉店の個室席で黒毛和牛を焼きながら言った。


 あかりは高校時代の剣道部の後輩で当時からゆうひの事を尊敬し慕っていた。


「俺も俺で大変なんだよ」


 烏龍茶を流しこみながらゆうひは答えた。


「今なんかネット通販? やっているんでしたっけ?」


「ああ。頭の弱い騙されやすい人を見つけてゴミを押し付けて大金をせしめる仕事だ」


「ゲスの極みじゃないっすか」


「無能が無駄金抱えてても経済回らないだろ。○○おくれに行政が偽善で与えた金を俺が管理してこういう素晴らしい食品とサービスを提供する優良企業に還元している」


「たしかに言われてみればこの方が世の為になってますね。俺は無料で美味しい物食えて贅沢できるし」


「そうだろ。俺は神になるべき素晴らしい人間なわけだよ」


 テレテテンッ。テレテテンッ。


 ゆうひのスマホの着信音がなる。


 発信元はまいかからだった


「もしもし。ちゃんと今焼肉屋にいるだろ。分かったって終電までには帰るよ。先に寝てていいから」


 ゆうひは一方的に通話を切った。


「そういえばまいかさんと同棲始めたんでしたっけ?」


「ああ。大学の近くのアパートを俺の親名義で借りた。週末や講義のない日、まいかは実家に帰っているから半同棲って感じだけど」


「幸せそうですね」


「でもさっきみたいにいちいち浮気してないかチェック入るのはうざいな」


「それだけ思われているって事じゃないっすか」


「嬉しさもあるけど最近は面倒臭さが上回っているな」


「結婚するんすか?」


「どうだろう。今は教団作りに専念したいし」


「ガチでやってるんすね。新興宗教立ち上げ」


「ああ。今俺が入信している宗教団体で仲良くしているグループの中で教団のやり方に不満を持っている数人を引き連れて独立しようという算段だ」


「へぇ。凄いっすねぇ。俺も手伝わせてもらっていいですか」


「ああ。構わないよ」


 こうして、瀬戸あかりが仲間に加わった。


   ○


 チベット仏教の教えに忠実なアーガマ教では修行によってクンダリーニという覚醒を起こせば超人になれると言われていた。


 アーガマ教の若い信者の中でリーダー的存在であったゆうひは周りの修行仲間と現在のアーガマ教の体制について不満を抱えていた。


 ただひたすら瞑想とヨガをするだけで超人になれる具体的な指導や理論がなかったためだ。


 そんなクンダリーニ(眠っていたエネルギー)の覚醒を早くしたい信者を引き連れてアウム原理教を立ち上げた。


 ゆうひは独学でヨガの研究を始めた。


 ネットショップ運営の時に募った女性達を集めてヨガ教室も開いた。


 最終解脱を達成するためにインドへ修行にも行った。


 最終解脱とは煩悩や苦悩から解き放たれ、輪廻転生からも解放された状態の事である。


 インドで最終解脱を達成したような気がしたゆうひはさっそく信者に伝えた。


 しかし半数の信者はその話に疑問を抱き、教団を出ていってしまった。


 実際のところ最終解脱者というのはあくまで布教のために自称しているのが内実であった。


 最終解脱者である証明をするため信者にシャクティーパットを行った。


 眉間のツボを押さえるとおしりの割れ目の上にある尾てい骨あたりに生命エネルギーがたまり熱くなるというイニシエーションだ。


 イニシエーションとは導師(グル)であるゆうひが持つ霊的な生命エネルギーを注入する事を指す。


 シャクティーパットを受けた信者はプラセボかもしれないが本当に尾てい骨辺りに熱を感じた。


 信者達はイニシエーションでエネルギーを注入された状態で修行に入る。


 まず基本的なヨガの呼吸法であるラプーナマーヤを実践する。


 次にヨガの体操であるアーサナを行う。


 そんな普通のヨガだけでは超人にはなれないとゆうひは説く。


 他に厳しい修行を課した。


「クンバカ」という長い間息を止める修行。


「ガージャガラニー」という塩水を飲んで吐き出し胃を洗う修行。


「ダウティ」という布を飲み込む修行。


「立位礼拝」という「グルとシヴァ大神に帰依し奉ります」などと述べながら五体投地をする修行。


「決意の修行」という決意文を声に出して繰り返し読み上げる修行。


「護摩供養」というキャベツや玉ねぎなどを生で丸ごと食べる修行。


「サーマディ」という土の中で何日間も瞑想する修行。


 チベット仏教の聖者が仮死状態になって何十日も瞑想修行をしたという話に因み、土中で酸素がなくなる時間を過ぎても瞑想を続け、無事に生還することで成就される。


「温熱療法」という高温のLSD(幻覚剤)入りジュースを一リットル飲まされてから四七度~五十度の熱湯に一五分から二十分浸かる修行。


「本のイニシエーション」というゆうひの教えを書いた本を周りに配って布教する修行。


「電流のイニシエーション」という頭にヘッドギアをつけて長時間に渡り電流を流される修行。


 この電流はゆうひの脳波を自分の脳波を同調させるものと謳った。


 このヘッドギアはレンタルは月額10万円、購入の場合100万円かかる。


 ヘッドギアで電流を流されると、ショックで呆然としたり、記憶に欠落ができてしまう。


 そこへLSD(幻覚剤)入りのジュースを飲ませて幻覚を見せる事で信者を洗脳させることができる。


「ナルコイニシエーション」というLSD(幻覚剤)入りジュースを飲まされてから部屋の中で動画を繰り返し二四時間観続ける修行。


 動画およそ3時間ほどの長さであり、映画や事故映像などから編集したと死体や事故や戦争の映像とともにゆうひの説法が流れる。


「人は死ぬ。絶対死ぬ。死は避けられない」など独特なナレーションが延々と続く。


「タントラ」というゆうひと性交をする事でカルマを落とす修行。


 さらに「食生活も気をつけよ」と説いた。


 食事は一日一食。


 雑穀米どんぶり一杯に根菜類を煮て塩をまぶしたものと豆腐や納豆やひじき等の小鉢類が数種類。


 肉や野菜は殺生にあたるので食べない。


 薄味だが醤油などをかける事はしない。


 こういった食事も味への執着を断つための修行なのだ。


 修行の前に飲み物も人を悪い行為に駆り立てる(カルマ)の落としたものを飲むのが良いと説いた。


 粉末のジュースの素にゆうひが唱えた真言(マントラ)を聴かせたサットバジュースを高額で販売した。


 ゆうひが録音した真言(マントラ)を聴かせつつゆうひの生命エネルギーとされる電流を流す装置である「アストラルテレポーター」をかける時間が長ければ長いほどカルマが落ちていると喧伝し高価で売りつけた。


 次に教団の目的を信者に説いた。


 このアウム真理教の最終目標は「日本シャンバラ化計画」である。


 シャンバラとは仏教の世界での理想郷(ユートピア)の世界で、チベットに

伝わるシャンバラ王国では九億六千万の町があり、九六の小王国がある。


 小王たちの上に立つシャンバラ王は王宮カラーパに住んでおり、そこから南の方角には立体型の大きな時輪曼荼羅(カーラチャクラマンダラ)がある。


 そしてシャンバラの人たちは寛容な法の下で健やかに暮らし、善行に勤しんでいる。


 核戦争後の霊的戦争において、神軍を組織して、邪悪な軍団を迎え撃つ。


 キリストや釈迦はシャンバラの使者で、ヒトラーはシャンバラを探究し、超科学によるオカルト兵器を開発した。


 悟りを得た菩薩が5万人いれば、人類は救済されるという。


 さらに超意識の進化も必要であると説いた。


 超能力で頭脳と頭脳が直接交流できれば、誤解のない直接的な精神の交流が可能だ。


 こうして仏教的で民主主義的な完璧な超能力者たちの国を作る。


 その国がシャンバラである。


 そのためにこれから起こる核戦争は選りすぐったレベルの高い遺伝子だけを伝える事ができる浄化の手段だと説いた。


 カルマの多い今の人々からカルマの少ないアウム真理教の信者へ「種の入れ替え」を行う。


 現状では人類全体が自らの霊性のレベルを高め、超人類や神仙民族と呼ばれる存在に進化する「神的人間」と、物質的欲望におぼれ動物化していく「動物的人間」の2種類に大別されており、現在の世界は「動物的人間」がマジョリティを占めており、他方、「神的人間」はマイノリティとして虐げられている。


 この構図を転覆しようというのが、「種の入れ替え」である。


 そのためには修行を重ねていち早く多くの資金を集める必要がある。


 でなければ最終戦争(ハルマゲドン)で人類は滅亡してしまう。


 ゆうひはこういった内容で信者達へ危機感と使命感と選民意識を煽り自分の言う通りに行動するよう支配する事に成功した。


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