子孫ちゃん、怒る。
家に戻り、一人従者が増えたいことを報告する。
叔母は泡をふいて倒れたが、がしゃがウトウトとしてきたので使用人に任せ離れに帰った。
「人間というのは弱いですねぇ。」
「まぁお前たちのせいでもあるんだからあまり言わないの。強い妖怪が一人増えたんだから心労も増えたんでしょ。」
朝の御影に怯えきった姿を思い出し内心少しスッキリしていたところトントンと控えめな音が鳴る。
「あの、お夜食をお持ちいたしました。」
「ごはん!」
「がしゃ、起きたの。じゃあそこに置いておいて。」
そう、叔母の介抱をお願いした使用人に夜食をお願いしていたのだ。
あたたかいご飯にお腹が空いていたのか起きたがしゃが嬉しそうに駆け寄ろうとするのを抑え、指示をする。
いつもなら置いた瞬間、脱兎のごとく逃げ出すのだが今日は何故か動かない。
「?どうしたの」
「あの!お嬢様はこのお屋敷の状況は理解しておられますか!」
「まぁ…私以外妖怪を祓える者がいなくなって没落した家っていうのは理解しているつもりだよ。」
「な、ならばこの家が3人分の夜食を出すのがどれだけ圧迫するのか理解しているはずでは!?お嬢様だけならまだしも下僕にあげるようなものはここにはございません!」
言ってやったぞ!そんな風にドヤ顔をする使用人。
確か気が強いことで有名だった、だから怖いもの知らずなんだろう。
「…御影、がしゃやめなさい。」
「ひっ…!?」
そんな使用人にやわらかいがどこか鋭い、獣の尾がいつでも絞め殺せるぞと首を絞める。頭には大きな骨の手が今にも握りつぶさんと覆っていた。
ため息をつきつつそれを止める。まったく、昨日の様子を見ていなかったのか。
墨礼に似た私に対する二人の執着は異常といってもいい。そんな二人が私のイラつきを分からないわけがないというのに。
「もう帰って。これ以上なにか言ったりするなら私も止められる自信はないよ。」
「も、申し訳ございません!!」
いつものように脱兎のごとく逃げる使用人。無駄に忠誠心を出さないでこうしていればよかったのに。
見送った私を二人は不思議そうに見ていたのに気が付く。
「…どうしたの?」
「いえ、御主人様は私たちの事を嫌いだと思ってましたから怒るのは意外で…。」
「怒ってくれたの嬉しい!がしゃおねえちゃんのこと大好き!!」
「別に、人間も嫌いだし当然だけど妖怪も好きじゃない。今回は理不尽だって思ったから怒っただけ。妖怪だって霞を食べて生きてるわけじゃないんだし。」
そう、私は理不尽に怒ったのだ。
何も知らない妖怪を悪いと決めつけて一方的に断罪するその姿は、むかし妖怪が見えるだけで石を投げられた自分と重なるから。
「妖怪は好きじゃないと……そんなに人間が嫌いならいっその事こちら側に来てはいかがです?」
「…は?」
「だって妖怪は好きじゃないのに人間は嫌いなのでしょう?もう答えは決まっているのでは?ねぇ、御主人様。」
狐は誘惑する。一本の尻尾で首筋を撫で、別の尾で自分と体を密着させるように引き寄せる。
その姿はまるで古の傾国の美女、妲己のようだった。