子孫ちゃん、狐と会う
うわぁ…妖いっぱいじゃん…
誰もいないことを良いことに心の中だけではなく表情にも出す。
だが、終わるまでは帰れない。だから早く終わるようバシバシ払っていると一人の少女が泣き座っていた。
「君、どうしてこんなところにいるの?」
「……おねえちゃぁぁああん!!」
恐る恐るその少女に声をかけると私を見た少女はホッとしたような顔をして突進してくる。
危なげだがそれを受け止める。あわあわする私に少女はニコニコと笑ってもっとぎゅうっと抱き着いてきた。
「おねえちゃんが助けに来てくれてよかったぁ!間違えて入っちゃって困っていたの。怖くなって動けなくなっただけでちゃあんと帰り道は覚えてるの。だから行こう?」
「……嘘つけ、このチビ狐。」
「きゃっ!?」
抱きつくのをやめ、行こうと笑う少女を私は一瞬で捕縛した。
「な、なんでわたしが狐って分かったのよ!」
「なに簡単な事よ。」
「小さい子は私を見た瞬間泣くのがいつもだから!あんな風に懐くなんて少女の皮を被った妖に違いない!!」
「…かわいそう。」
「憐れむな!…げふんげふん、そんなことはいいの。とりあえず頭はどこにいるの?あなた一人ではないでしょ?」
この大きな建物を覆うほどの妖力はこんな小さい妖では無理だろう。
頭がいるとふんだ私は問い詰めようとするとそれに気が付いた幼い狐は大慌てで逃げて行った。
「あらぁお姉さん、こっちで休憩しない?」
「こっちはどう?おいしいお菓子を用意してるよー!」
「こ、こっちに来て休むのはいかがでしょうか…?膝枕に耳かき、何でもして差し上げます…よ。」
感じる大きな妖力の源に近づこうとすればするほどに最初の小さい少女と同じ顔だが年齢や髪型の違った女たちが絡んで進もうにも進めない。
鬱陶しく退治しようとするとするりと霧のようにすり抜け、きゃあきゃあ甲高い声をしながら逃げられる。
いい加減イライラしてまた来たオドオドとした狐の首をひっつかみ
「いいかげん鬱陶しい、いいからお前らの主を教えやがれ。」
と荒い言葉で脅すとひいぃぃ!!と情けない声を出して壁の中へと入っていくそれを見てその壁に手を当てると壁の感触はなく手は宙をすり抜けた。もう建物自体が妖力に侵され変化しているのだろう。こんな強い力の妖に会ったことのない私はごくりと緊張のため唾を飲みそのまま壁の中に入っていった。
「み、御影さまぁぁ!たすけてくだしゃいーー!!」
「えー、使えない尾っぽ!はぁ…もう良いから戻りなさい。」
追ってきた狐を見つけるとそのまま奥にいた女性に泣きついていて素っ気なくされていた。
思うにこいつが主なのだろう、今までの女性たちの似ている。前髪は明るい太陽のような橙色で長い艶やかな後ろ髪は濡羽色をしていて瞳は太陽のような橙色と逆の月のような淡い光を放つような黄色の瞳。
ぱちくりとした大きな瞳はつり目を更につりあげ、淡い赤の花びらのような小さな唇は嫌そうにへの字をしていた。
そんな不機嫌な主、御影に戻れと言われ、泣きついた狐は一本の光に代わり御影の尻尾へと向かい光が消えたかと思うと本数が増え、妖力も増したように感じた。
あれは尾っぽだったのだろう、ただの配下ではなく御影自身の分身なのだから姿も同じなのは当たり前だ。
「で、貴女が侵入者?随分とわか……い、のね…。」
自信満々な笑みを浮かべこちらを見た瞬間、驚いたようにまん丸の目を更に大きくさせ口をパクパクとさせている。
そんな様子を訝し気に見ていると御影は慎重な面持ちで問いかけた。
「…墨礼?」
「!なぜその名を…。」
一族で禁句になっているような名を言われ今度は私が驚く。
その様子に確信を持ったのか御影は俯いたかと思うといきなりマジで襲い掛かってくる。
「ちょ?」
「言い訳なんて聞かないわよ!何よ、ずっと一緒に居る。君と共に生きていきたいなんて言ったくせに金目のもの持って置手紙もなしに急に消えて!!かと思ったらひょいっと現れるなんて!!ずっと!アンタが一緒に居てくれるっていうから妖化の薬まで用意して待ってたのに…もう効力もなくなっちゃったわよ!」
痛みに耐えようとギュッと目をつむるがいつまで経ってもやってこない。
ぽたぽたと水滴が頬に落ちる感覚に恐る恐る目を開けるとギョッとする。まさか妖怪が泣くなんて思わなかったのだ。
その様子にオロオロとしつつも子供のように私の上で泣く狐を無下にはできず背中をさするとキッと睨まれた。なぜ…。