子孫ちゃん、家をなくす
やばいやばいやばいやばい!!!
背中がゾワゾワする、体調まで悪くなり始める。こういうことになるのは妖に追われている時はいつも通りだ。
妖。基本的に人には視れず悪さをする存在だ。それは、好奇心だったり恨みだったり様々だ。
妖は視れない存在の為、視れる人に執着するのだ。
そして今の私のようなことが起こる。そう私はその視れる人だ。
一族は妖を視て祓うことを生業としていたが今はもう視れる人もいなくなり今は私のみとなった。
追われることももうそろそろ終わる。
息を切らして精一杯足を動かして限界まで走り、やっとのことで自宅が見え、ぎりぎりで敷地まで入ると、あんなに執念深く追いかけまわしていた妖は壁にぶつかったかのように不自然な状態で止まった。
結界にぶつかったのだ。
小さいころにあまりにも狙われ、このままでは死んでしまう!と恐怖を覚え、家の倉から結界の本を引っ張り出して結界を貼って安心できる空間を確保したのだ。
ホッとしてそのまま家の中に入っていくと人の気配が何もしなかった。
それにまさか!とリビングに行くとまた、置手紙が置いてあった。
可愛い私たちの娘へ
ごめーん!私達お馬さんで負けちゃた。
ずっと勝ってたからいけると思ったんだけどなぁ。
でも大丈夫、このお家と家具とかを売って返したから!これを機に私たちは残ったお金で色々なところを回ってこようと思います!じゃあ体調に気を付けてね。
優しい両親より
…ふざけている。書き口調も内容も何もかもふざけているのだ。いつもこんな感じで両親は私には何も告げずふらっといなくなってふらっと帰ってくるのだ。
だが、家まで売ったりすることはなかった。それほど今回は調子に乗って遊びすぎたのだろう。
両親のクズさは今に始まったこともないし悩んでいても仕方ない。
でも家を借りるなんて未成年じゃ一人ではできないし…。そう悩んでいると電話の着信音が静かなリビングに響き渡った。
「…お久しぶりです。」
「あらぁ!来てくれて嬉しいわ、ここを家と思ってくつろいでね。」
電話をかけてきた相手は本家の叔母だった。
両親は流石に身一つで追い出す真似はしなかったらしい。本家に電話をかけていたらしく家に来ると良いと誘ってきた。
だが、善意でしてくれたものではないだろう。本家の人間も両親に負けず劣らずクズであることは知っていた。
「でも、きっといい子の貴女はタダで住むなんてできないでしょう…だから貴女が何も気にしないで過ごせるようにちょっとした仕事をしてほしいのよ!これは貴女の両親と決めたことなんだけどね。あぁ、ちゃあんと貴女にも報酬は他にはいるようにしているわ。私たちが5割、」
「分かりました。置いてもらう身ですから、きちんとお役に立てるように頑張りますね。」
「良かったわぁ。貴女しかできないことなのだから頷いてくれなかったらどうしようかと思った!……実はね、もう」
まくし立てられた提案に外面は笑顔で了承したが、やはりと心の中でしかめっ面をしてしまった。
ちょっとした仕事というのは家業のことである。とても金になるため、両親も叔母もやらせたがっていたが色々な理由をつけて避けていたのだ。表で学業などの理由で断れば、両親はともかく世間体を気にする叔母は引き下がるしかなかった。
この仕事は周りにできる人はもうできる人はいなくなり、まともにできるのは私だけだ。これは天性のものが必要となり、両親も叔母も本家も全員それを持ち合わせていなかったのだ。
それは…。
「うわ…妖力がもう漏れ出てるじゃん。絶対大物だって…帰りたい……。」
妖を視る力だ。
私の一族はその力で妖を葬る陰陽師のようなことをしていたのだが、徐々に力がなくなってきており私が生まれる数十年前から視る力がある人間が生まれることはなかったのだ。
その間の一族は過去の栄光にすがるような生活で、しかも先祖も一族全員クズしかおらず衰退するばかりで私はそんな姿を見ていたため私はあんな風にはなるまいと固く決意したのだった。
都合よく使われているのは目に見えている。
だから、帰りたくなかったのだがどうしようもない。まぁ昔ならまだしも今はそんなに強い妖なんて見たことないし平気だろうと高を括っていたのだが依頼の場所に着いた私はあまりの妖力に冷や汗をかいた。
その妖がいると言われている建物から漏れ出るほどの妖力は、その妖の強さをものがたっていた。
「運転手も私を連れてきたらすぐ帰っちゃうし…こんな山奥じゃ一人じゃ帰れない…仕方ないか。」
独り言でも言ってなきゃ怖くてやってらんない。
ハァっとため息をついて覚悟を決めて建物に一歩踏み出した。
その姿を一匹の狐が見ているのに気づかずに。
百合小説も手を出し始めました!これから子孫ちゃんがどうなるか…続きを見て頂けたら幸いです!!また良ければ評価してくださっていたら幸いです。