9:迷宮ダンジョンその3
ダンジョン攻略の糸口は突然訪れた。
ついに我慢の限界がきたソニックが壁めがけて猛烈なラッシュをした。それがなにかのギミックを作動させたのか、左右の壁が崩れて広い空間が姿を現した。
壁を壊した当人はまさか壊れるなんてと思っていたらしく、攻撃ポーズのまましばし固まっていた。砕けた破片を触ってみる。見た目は岩のような質感がありが、触ってみると紙のようにぱさぱさしていて、簡単に手で破ることができた。
破壊された壁は数秒経つと、また元の形になりビニールハウスほどの大きさになる。
「とりあえずあんな狭いところからは抜け出せたってことだな。あと少しで閉所恐怖症になるところだったぜ」
空間の広さに浸かっているのも束の間、部屋にある四つの部屋からモンスターが次々と姿を現した。スライム、ミノタウロス、コヨーテが五体ずつ。
「結構な数だな。誰が誰を倒す?」
「そうだなー。うちは、コヨーテがいい。アレクに散々戦わされたからな」
「じゃあ、私はミノタウロスかな。ソニックちゃん。終わったら手伝って?たぶん一番手強いから」
「というと俺はスライムだな」
各自がそれぞれのモンスターを攻撃し始める。ソニックは音速の五月雨斬り。エマ広範囲の氷系魔法。そして俺はりんご。
スライムくらいならコヨーテを生成すればなんてことないが、仲間以外がいる可能性がある場所では、りんごやろうを演じる他ない。
「スライムってりんご食べるかな?」
毒りんごをスライムに投げつけると、スライムが臭いを嗅ぎ始めた。一定の時間興味を示した後、食べれないとわかったのかこちらに体当たりをする。が、まったく痛くない。
さすが最弱モンスターのスライム。
こちらもりんごを、投げつけてみるが、まったく効かない。
さすが、最弱冒険者アレク。
最弱通しの無意味な争いが始まった。初めこそはお互いに攻撃し合っていたが、勝負が終わらない事を悟ると何にもしなくなった。
ついに暇になった俺達は、ソニックとエマの戦いを眺める。
途中喉が渇いたのでオレンジジュースを生成した。
スライムが物干しそうにしていたため、人数分のオレンジジュースを用意した。
ソニックはコヨーテ達に対して高速攻撃をしかけている。スピードに追いつけないコヨーテがたじろぎながら、ソニックの残像に攻撃をしている。
エマは攻撃力の高いミノタウロスの足を凍らせて足止めしながら、ちょびちょび攻撃をしているが油断はできない。力のあるミノタウロスが、凍りを力まかせに砕き攻撃をしかけてくる。消耗戦になれば、ミノタウロスに武がありそうだ。スライム達も、お互いの予想に話を弾ませているようだ。
ソニックはコヨーテ達を倒し、エマの手助けを始めた。音速五月雨斬りで、腕を切りつけている最中にエマが体を凍らせていく。
あいかわらず、残像を必死に斬るモンスターを見るのは滑稽だ。
スライム達もその光景を見てツボって大笑いしている。
ミノタウロスは、エマによって完全に凍らされた後ソニックの斬撃によって粉々に砕け散った。
『アレクのレベが5から6レベ上がりました。
能力の変化はありません。』
「おっレベルが上がった』
「おい。アレク。なにしてるんだ?」
ソニックが眉を顰めながらこちらにやってきた。
「アレク君?一人だけサボっているのかな?」
普段穏やかなエマもいささか穏やかではないようだ。
「これはだな、倒せなかったからだ」
「スライムを倒せないとは、まるで使えんなー」
ソニックがスライムに素早く切りつける。
スライムはたやすく一掃された。
「とりあえず、モンスターはいなくなった見たいね」
エマがため息をつきながら、腰をかける。
「アレクはわけがわからんやつだな。まるで冒険者の資質がない」
「俺は戦うことが苦手なんだ。まあ、いうなればサポート役だ」
「サポート役かー。なら、戦闘をしたうちらを労ってもらわないとな」
「そうだねー。さすがに今回のは、少しいらってきたかなー。あははは」
引き攣ったエマのエミに身震いしながら俺は生唾を飲んだ?
「なにを、すればいいのでしょうか?」
ゴマスリは昔から慣れている。
「そうだなー。肩を揉んで欲しいかな?魔法を使ってたくさん凝っちゃった」
エマが肩を出しコリの部分を手でつまむ。
「うちは、ジュースをたくさん飲みたいかなー」
「はい」
「サンキュー。あとおかしもほしーいなー」
「ケーキでわかったと思うが、食べ物系はあんま期待できないぞ?」
「ソニックちゃん。アレク君は、りんご系の食べ物ならおいしいと思うよー。よくりんご料理作ってくれたし。そうだ、アップルパイ久しぶりに食べたいかも」
「了解いたしました」
俺がアップルパイを作るために想像をしていると、手が止まっていたようで、エマに可愛く睨まれた。
アップルパイができると二人とも喜んで食べてくれた。
「そういえば、アレクとエマちゃんは幼馴染かなんかか?」
「うんそうだよ。小さい頃から一緒にいるの」
「そうか。なんだが羨ましいな。うちは、生まれた頃から一人だった」
性にもなくソニックが悲しくぼやいた。人間は急に不安に襲われる時がある。その不安は日々蓄積され、ふとした時に急に現れたかのように人の心を押し潰す。
「そっかー。ソニックちゃん大変なんだね。はい。少しだけだけどあげる」
エマは残りのアップルパイも半分にしてソニックに渡す。
「ありがとう」
「ソニック。まだ欲しいなら作ってやるぞ?流石に2回目だから、有料になるが」
また可愛いくエマに睨まれた。
「ううん。大丈夫。うちはこっちのほうがいいから」
「なあ、エマちゃん。友達になってくれないか?」
「友達?もちろん!」
「ありがとう」
照れているのか、ソニックはアップルパイを少しだけゆっくりと食べている。
「俺も友達になってやってもいいぞ?」
「お前とは絶対にならん!雑魚とは連まん」
「このガキー」
「まあまあ、アレク君。子供だから」
残したら許さないからなと、そういいながら俺はあつあつのアップルパイもさらに一つ振る舞った。