8:迷宮ダンジョンその2
かれこれ迷宮で迷い始めてから、12時間くらい経っている。その間、冒険者がちらほら攻略に訪れたが、曲がり角を4回ほど曲がったところでアイテムを使ってダンジョンから脱出した。
「アレク。このダンジョンで直さない?」
ソニックが俺が作ったぬいぐるみを切り刻みながら言う。
まったく野蛮な遊びをしている。
「だめだ。ここで抜け出しても意味がない」
「アレク君。私、お風呂とか入りたいかな?」
「風呂かー。たしかに。お前らお腹は大丈夫か?」
ビルディング能力は、生成する時にものすごくマナを消費する。
彼女達の腹事情に問題がない事を確認すると、風呂を想像する。
熱いお湯。四角色のバスタブ。外壁は石で生成し、熱を逃さないような作りで。その風呂に入るのは、エマ。
エマはバスタオルをせずにはいり、その体を氷で隠すだろう。
ん?エマ。いかんいかん。邪気を払わねえば。
想像が直接生成物に影響する。
熱いお湯。四角色の外壁。そしてエマ。
エマ???
だめだ、もう一回。
熱いエマ‥‥。
ちょっとまて、熱いエマってなんだ?
よからぬ妄想をしているせいか、頭が一時的に猿になっているようだ。
「すまん。風呂は無理かも」
「そうだよねー。風呂って地味に構造難しいそうだし、想像するのも結構時間かかりそうだね。私は我慢するから、ダンジョン攻略をもう少しがんばろー」
「いや、想像力は足りてました」
「ん?」
エマが聞き返す。
「いや、なんでもないカッ
「あー。暇だ暇だひまだー」
ぬいぐるみを破壊し終えたソニックがまた駄々をこね始めた。これで13回目だ。一時間おきに赤子の夜泣きのように発作を起こす。
「じゃあ、これでも狩ってみるか?」
俺はコヨーテを出現させる。
「おっ。よくやった。ちょうど退屈していたところだ」
ソニックは嬉しそうに短剣を出すと、コヨーテに向かって飛びかかった。コヨーテは瞬殺されたため、今度は頑張って10匹ほど出した。
これならさすがのソニックも遊ぶのにはこと足りるだろ。
「くっ。いたっ」
コヨーテの連携攻撃に苦戦しているようだ。
「アレク。手伝ってくれ」
「ぬいぐるみよりおもしろいだろ?」
「まあ、そうだが。おっとあぶない。っち、一気に肩を片づけるしかないな」
ソニックは高速移動しながら、コヨーテの腱を切りまくる。なんとも言えないコヨーテの無数の叫びが、反響してダンジョン内に響く。
息を切らしながらソニックが出方を伺う。
前のダンジョンのミノタウロス戦で戦ったことでレベルアップの影響もあり、生成したコヨーテはソニックの軽い攻撃ではびくともしなかった。
「なあ。アレク。これ、どうすればいい?さすがに10体は厳しい」
「出すのは簡単だが、自分では消せない。一応倒せば消える」
「なんだよその無責任な発言」
「ソニックちゃん。手伝ってあげるから下がってー」
エマは目を瞑り突き出した両手から無数の凍りを発現させる。その氷はやがてやいば隣、拳ぐらいの大きさとなりコヨーテ達につきささる。よろめいたコヨーテにソニックがすかさず、疾風斬りにする。
次々とコヨーテが倒れていく。その間エマがコヨーテに攻撃されそうになったため、鉱石を作って守ってあげた。もちろんソニックは、守らない。
「っはあーはあー。ていうか、なんでエマちゃんだけ助けるんだよー」
「幼馴染だから」
「おかしいだろー。普通は子供を助けるだろー。これは虐待だぞ虐待」
ソニックが耳元まで音速でやってきて、さらに声を大にして言ってきた。
「虐待反対!虐待反対!虐待反対!」
手拍子を始めたソニックに便乗したのか、なぜからエマま
「虐待反対!虐待反対!虐待反対!」
とコールをし始めた。
「あー。うるさいうるさい。なんでエマまで便乗すんだよー」
おしゃぶりをふたつ生成し、それぞれエマとソニックにつける。
「むむむみ(おしゃぶりはやめろー!」
「むむむごごご(アレク君。恥ずかしーよー)」
顔を赤らめる二人。
「エマは可愛いのに、なんでソニックは可愛くないんだ?」
「むむむむむ(なんていうことをいうだ。たしかにエマちゃんは可愛いが、うちよりはだぞー)」
「むごむごむご(アレン君はずしてー)」
「よーし。外したければ俺にお願いをしてみろ」
「むむむむむ(お願いなんて)」
ソニックが渋ってる横で、エマがボタンを外し谷間を露わにする。
「ばぶばぶばぶー(外してーアレク君)」
性癖が歪みそうになる。というより、性癖が曲がる。よく金持ちの性癖が曲がるという話があるが、こんな感覚なんだろう。力を持つものが節度を持たないでどうする。
「よし。エマのは外してやる」
「ちょっと、アレク君。最近能力を悪用しすぎだよー。それに‥‥こんなにエッチだなんて知らなかった」
文字文字とするエマに、羨望と汚れた感情で見た後、平胸のソニックを見る。
「むごむごご(まさか、うちにもそんなことをさせるのか?犯罪じゃぞ犯罪)」
「んなことしないよ。外してやる」
おしゃぶりを外す。
「長い間休憩してたからちょっと暇だったんだ」
「ていうか、アレク。このコヨーテ倒しても、経験値すらならなかったぞー」
「たしかに、ドロップ品とかもないね」
生成したモンスターを倒しても、どうやら経験値は入らないらしい。あくまでも自分のみに対して有利に働く能力のようだ。
「あっ。でもお金がある」
ダンジョンの側溝にはまりそうなコインをソニックがとる。
「ちぇっ。あんだけ倒したのに、200Gかよ」
「200ゴールド?ちょっと待て、その金」
俺は急いで巾着袋の中身を確認する。
ない。持っていたはずの200gがない。
「まてそれは俺の200Gだ。返せ!ダンジョン終わりに、喫茶店でケーキを食べる予定だったんだ」
「返せって、これ‥コヨーテがドロップしたお金だぞー。それにケーキなら自分で作ればいいじゃないか」
ソニックは急いで獲得したゴールドを使う。
能力は万能ではなかった。モンスターは見張り役などに使えるなーなんて思っていたが、使う際には注意が必要だ。お金はこまめに銀行に預けるとしよう。