6:初級ダンジョン攻略
目の前には初級ダンジョンの「始まりの洞窟」がある。
入り口付近には、何やら冒険者バッチを読み込むような機械が置いてあり、冒険者バッチを読み込むとダンジョン内に入れるようだ。周りには駆け出しの冒険者らしく男女が10人ほど。
「この先がダンジョンか。どんなモンスターがいるんだろう」
「始まりの洞窟には、スライム、ミノタウロス、コヨーテ、吸血蝙蝠がいるよ」
「えっ。すごい。アレク君。まさか、あの短時間で覚えたの?」
エマの家にあった雑誌のなかにある情報をできるだけ詰め込んでおいた。不思議なことにビルディングのスキルを取得してから、記憶力が良くなった気がする。頭の中で写真のように1ページ1ページ克明に想像することができる。
「ビルディングのおかげなのか、記憶力も上がっているんだと思う」
「えー。すごいね。アレク君。本当に神様みたい」
「神様?あなたは神様なのですか?」
後ろから可愛らしい声がした。声の主は、もじもじしながらこちらを見つめている。
「あっ。可愛いい。ここは、ダンジョンだから危ないよー。お母さんと逸れたのかな?」
「お母さん。むむむ。私を子供扱いするな!」
少女は、手のひらからかぜを放出させるとエマを軽く吹き飛ばした。
「いてててて。ごめんねー。可愛らしい見た目してるからてっきり子供かと思っちゃった」
エマが頭を軽く押さえながら苦笑いする。
「何歳なんだ?」
「私は、9歳」
「9歳ってガキもガキじゃねぇか」
「うるさい。確かにガキはガキだが、れっきとした冒険者だぞ!」
少女は誇らしげに冒険者バッチを見せつける。
「えー。すごいね。こんな小さいのに冒険者認定してもらうなんて」
「当たり前だ、こう見えても私は村では有名な魔法使いだからな」
「魔法使い?」
「あっ。そうだった。さっき。この男のことを神様と言ったな。なぜそういうことをいう」
「あー。この人はアレク君っていうの。別に神様ではないのよ?ただの幼馴染」
「ちぇっ。神様じゃないのか」
少女はそこらへんにある小石を蹴った。
「神様じゃなくて悪かったな。ところで名前はなんて言うんだ?」
「なぜお前なんかに教えなければならない。言っておくが、私はそう簡単に仲間なんかにならないぞ」
「クスクス。アレク君。この年頃はみんなそうだから、勘弁してあげてね」
「大丈夫。慣れてるから」
「じゃーあ、私の能力を見てくれたら満足してくれるかな?」
エマは天に手を向けて無数の霰を降らせる。
「なるほど。氷系の魔法か。なかなかの広範囲だが、ちと荒いな。これくらいなら、村の者でもできる」
少女は、息を大きく吸い込み口からかまいたちを発生させる。かまいたちは、氷を綺麗に切り裂き粉々にした。細かく砕けた氷の結晶は太陽光に反射され、宝石のように光り輝いている。
「すっすごい」
エマが少女に抱きつく。
「これこれ。大の大人が抱きつくでない。別に褒められたって嬉しくないぞー」
「だってすごいんだもん」
満更でもなさそうだ。
「名前は?」
「お前には教えん。おねちゃんには教えてあげる」
少女はエマに耳打ちをしながら名前を教える。
「ソニックちゃん。よろしくね!」
「ちょっとまてお前。声がでかいぞ!それではあいつにバレてしまうだろ」
「あっ。ごめんごめん。でもアレク君は優しいから大丈夫。きっと可愛がってもらえるから」
「よろしくな。ソニック」
ソニックの額を人差し指で軽くつつく。
「いたっ。エマのせいでばれてしまってはないか!私はまだ認めてないぞ!この男のことは。それになんだ!子供扱いしやがって」
「どうみても子供だろーか?」
駄々をこねる子供はさておき、ダンジョンの前に立ち、冒険者バッチをかざす。刹那光が体を包み込んだ。
どさっ。雑に投げ出された俺の体は、ダンジョンの土の上にあった。
「いててて。ちょっと雑すぎないか?大丈夫か?エマ」
「うん。私たちは大丈夫。ダンジョンに入れたみたいだけど、純正品じゃないとやっぱり、なんかあるんだね」
「なんだ?アレクのバッチは純正品じゃないのか?ということは」
ダンジョンに入ってきたである冒険者達がこちらを一斉に向く。
「小さい子はこれをつけて黙っていてねー」
おしゃぶりを生成し、ソニックにつける。ついでに、手錠も生成したので、自分で外すことはできない。
「んごっんごんご(お前、なにをしている?)」
「あはは。すいませんね。この子まだちいさいもんで、変なこというんですよー」
「なんだ。子供か」
「最近のガキはついていい嘘と、ついちゃいけない嘘がわからないみたいだな」
こちらに向けられた疑念の視線は完全になくなった。
ソニックは、その様子をみて子供扱いするなー。と手をバタバタとさせている。とりあえず、またなにか喋られたら困るのでそのままにした。
「アレク君。ソニックちゃん大丈夫かな?なんか、すごい怒ってるよー」
「怒らせといた方がいいだろ?強いモンスターが出た時に、代わりに戦ってもらおう」
「むごむごっ。んごんご(お前の為には、戦かわんぞ!)」
「それなら、一生おしゃぶりだな」
俺は鍵を人差し指にかけ、くるくると回しながら横目でソニックを見る。今にも切り掛かってきそうな勢いだったが、自分に部がないことが分かると、拳を握り怒りを抑えた。
「それより、エマ。このダンジョンにはボスがいるんだろ?雑誌には、ボスだけの情報が無くてさ。姉ちゃんからなんか聞いてない?」
「うーん。わからないなー。お姉ちゃん強いからさ、たいしたことなかったー。だけ言われて、なんにも」
とりあえず、前に進んでいる冒険者の跡を追う。
出てくるモンスターは、おしゃぶりの解錠をちらすかせて戦わせた。しばらく進んでいくと、冒険者がなにやら溜まっていた。人をかき分けながら前に進んでみると、なにやら中央で戦いが行われているようだ。
「ったく対したことないなー」
低い声とともに、男が吹き飛ばされた。綺麗に隙間が空いた行列は、男が気絶したことを確認すると再び再形成した。
また一人、また一人、冒険者が飛ばされていく。
数人飛ばされた後に、暴れん坊の姿が見えた。
「ミノタウロス!?なんでしゃべれるの?」
「わからない。レベルが高いとしゃべれるとか?」
「むごっむごっむごごご!」
「はいはい。わかってるよ。戦いたいのはわかるが、勝手に戦ったらおしゃぶりは外さないぞー」
「むごっむごごご(うしろっ。うしろ)」
「アレク君!」
「油断大敵!」
後ろから地面を踏み締める音がする。
振り向いた時にはミノタウロスの拳が、腹をとらえようとしていた。
「アレク君!あぶない!」
ばごっ。鈍い音とともに、ダンジョンの壁に吹き飛ばされる。
砂煙が立ち込めている。
「いってーーー」
声を出したのはアレクではなく、ミノタウロスの方だった。殴った方の拳は潰れ、血が溢れ出ている。
「てめえ。なにをしやがった‥‥」
「別に、なんにもしてないさ」
俺はかっこよく立ち上がり、粉粉に砕けた鉄鉱石を手のひらからさらさらと、落とした。
「ただ、鉄鉱石を作っただけ」
「鉄鉱石?お前、鍛冶屋かなんかか?俺はよー、武器を使うやつが一番嫌いなんだよぉぉ!」
激昂したミノタウロスが、筋力増強スキルを使い鬼の形相で飛び掛かってくる。
「死ねええ!」
ミノタウロスの放った拳は、またしても甲高い牛の鳴き声と共に、虚しくも砕けた散った。
「まったく。なんだってんだよー」
半ばやけくそにラッシュを繰り出した。しかし、全ての攻撃は生成された鉱石を砕くだけで、ダメージを与えることはできない。
「はぁーはぁー」
拳から流れ出る血でHPが減ったのか、ミノタウロスはふらふらとしはじめた。俺はりんごを生成すると、ミノタウロスに投げつける。こつんと頭にりんごが当たると、それを思いっきり踏み潰すと、ミノタウロスは突進の構えをした。
「くっ。貴様、馬鹿にしやがって!」
「むごっむごごごご!」
エマがつららを発生させ、ミノタウロスに浴びさせる。肉を裂き、たしかにだめかを与えているが見向きしない。怒りの眼差しを向けながら、足で土を蹴り、運動エネルギーを溜めている。
殺気を感じる。
「ぶち殺ろす!」
ミノタウロスは、ツノを前に出し信じられないスピードで突っ込んで来た。
「うっ‥‥」
生成した鉄鉱石をツノが貫通し、肉に食い込む。幸い連続的に鉄鉱石を生成することができたので、致命傷にはならなかったがめちゃくちゃ痛い。ミノタウロスは、そのまま力任せに頭を横に振り、反対側の壁まで吹き飛ばすと、再び攻撃対戦に入った。
冒険者達は、悲鳴を上げながら一斉に逃げ始める。
「アレク君!」
「くるな!殺されるぞ!」
俺は、ソニックに手錠の鍵を渡す。
「ソニック。おしゃぶりを外してやるから、戦え!」
「むごむごっむごんご(命令するな)!」
「次は、急所を狙う」
人間の奥底にある野生の感覚が、死を感じとっている。現段階では、鉱石以上に硬いものを作ることはできない。
ミノタウロスが、にやりと汚い歯を見せながらこちらに向かって突進してきた。刹那。二筋の光がミノタウロスの足を裂いた。
その光はやがて一本にらなり、高速な連続的攻撃だったことに気づく。
「なんだ、牛の癖に遅いなー」
ミノタウロスが倒れると同時に、ソニックの憎たらしい声が聞こえた。音速の攻撃。まさにソニックという名前に相応しいスピードだ。アキレス腱を切られたミノタウロスは、むざまに四つん這いになりプルプルと体を震わせている。
「こんやはすき焼きだ」
ソニックは、ミノタウロスに対して全方向から切り付けた。まるで玉ねぎのようにミノタウロスの体が刻まれていく。悲鳴を上げる暇もなく、ミノタウロスは絶命し消滅した。
「ふう。なんだ。やはり初級ダンジョンは、ボスも弱いなー。それに対した金もない」
ソニックが渋い顔をしながらドロップ品を眺める。
「アレク君大丈夫?」
エマが心配そうな顔をしながら駆け寄ってきた。
「大丈夫。りんご食べるから」
りんごを生成し、一口齧る。
「だめだ。痛すぎて、食欲がない」
「そりゃ、そうだよー。街の宿屋さんで、ちゃんと治そ?」
「そっそうだな」
エマの肩に体を預ける。
むにゅっ。柔らかい感覚が顔を包みこむ。エマは気づいていないようだ。俺はさらにもたりかかり、役得に浸る。
「まったくだらしないやつだな。あんだけえばっておいて、あののろい攻撃を受けるとは」
「しかたないだろ。俺、攻撃スキルじゃないから」
「じゃあ、なんのスキルだ?あれか?さっきてから出してたりんごを作るスキルか?」
「違う。まあ、そんなとこかな?」
「あっはははは。かわいそうややつだな。冒険者なのに、やわなやつだ」
「エマ。行こっか」
「おい。無視をするなー!冒険者の世界は、強い者がえらいんだぞ!だから、アレク!うちの言うことを聞けえ!」
うるさい。おそらく親が甘やかした結果だろう。
バランと同じく、能力に恵まれた人間だ。
おしゃぶりを生成して黙らせたいが、あいにくそれほど余裕ない。
最初こそソニックは騒いでいたが、街に着く頃にはすっかり落ち着いていた。とゆうより、疲れたのか俺の肩の上で寝ている。
「なんで俺がこんなクソガキをおんぶしないていけないんだ?」
「あはは。ごめんねーアレク君。子供だから、どうしても見捨てれなくて、それに助けてもらったし」
「そうだな」