4:旅立ちの前に
「あっ。これ言っちゃいけないことだった?」
意外だった。エマが俺とよく出かけるのは、単に優しいからだと思っていた。まさか、俺のことが好きだっただなんて。
でもそんなこと聞いたら、なおさら行きづらくなる。
「とりあえずよろしくね」
エマの母親は、主人のやつ入るかしらと勝手に寝巻きの準備をし、タオルとともに「はいっ」とがんば。みたいな雰囲気で渡してきた。
絶対怒られるだろ。と思いつつも、俺の事が好きなら大丈夫だろうし、さらに母親から直接言われたのだからと、母公認の肩書きを胸に、裸になり風呂に入る。
「ひゃっ。アレク君!なにしてるの?」
顔に桶が当たる。残念ながらエマは、湯船につかってる状態だった。
豊満な胸がたぷたぷと浮き輪のように浮かんでいる。
「アレク君。せめて隠してよー」
「あっわり」
息子が反応する前に、俺は腰にタオルを巻いた。
「てか、なんで来たのよ。デリカシーってものがないの?」
「お前の母ちゃんが一緒に入ったら?って言って来たし。それに」
俺の事が好きなんだろ?なんてきざな事は言えない。りんごスキルの性で、恋愛経験はゼロ。いや下手したらマイナスだ。
「それななに?」
「小さな頃。一緒に入ってただろ?」
「ちっ小さい頃って、何歳の時よ。今お互いにいろいろと成長したし」
「たしかに、成長したな」
エマの実りをじーっと見る。視線に気づいたエマが顔を赤らめながら氷の壁を作った。
「アレク君は、いま急成長しただけでしょー。アレク君って意外とスケベなのね」
「しかたないだろ。まともな男でも見ちゃうぞ」
「普通の男の人は、風呂には入ってません。私たち、まだ恋人じゃないんだから」
「恋人かー。たしかに。悪かったな。目瞑ってるから、出てくれ。お母さんが、配膳を手伝って欲しいみたいだぞ」
「あっありがとう。でも大丈夫。目を開けても」
エマが湯船から上がる。いつしか氷の壁が無くなっていた。
顔を上げると、氷のドレスがエマを包み込んでいた。
「これなら恥ずかしくないよ。じっと見ていいよ」
思わず可愛いと出そうになったがなんと胸の中に押し込んだ。
エマは俺の反応を見て、少し笑うと風呂を後にした。
風呂がいつもより長くなったことはさておき、風呂から上がると豪勢な料理が出迎えてくれた。肉、魚、野菜とどれも新鮮で手の込んだものばかりだ。
「アレク君。いっぱい食べてちょうだーい」
「いただきます」
お言葉に甘えて俺はむしゃむしゃとご飯を食べた。
「アレク君って、少食のイメージだけど、結構食べるんだね?意外」
りんごをいつも食べているせいなのか、みなから食が細いと言われている。不思議なのは、りんごばかり食べているのに栄養失調になったことはない。さらにりんごは健康にいいようで、風邪が流行った際に俺以外の家族が風邪になったときは、ざまあと思ったりしていた。
「アレク君。そんなに急いで食べるとつまっちゃうよ?」
「大丈夫。大丈夫」
こんなまともな飯は初めてだ。いつも残飯のようなものを食べていた。細かく言えば、いつも回ってくるのはバランの食べ残し。元々食べ方が汚い上に、魚や目玉を残すなど陰湿な嫌がらせをしてくるものもあり、カレー意外はりんごで澄ませていた。
「うっ‥‥」
肉、魚、野菜の全てを一気に食べようとしたのが悪かったみたいだな、盛大にフラグを立てた後、喉を詰まらせた。
「アレク君大丈夫?」
とんとんと背中を叩きエマが介抱をしてくれる。
「アレク君。ゆっくり食べてね。味が混ざって。ママのおいしい料理が台無しになっちゃうよ」
俺はコップを一気飲み込み、親指を立てて
「混ざってても、おいしいです!」
と爽やかに言った。
「あらま。アレク君、おかわりする?」
「はい。ありがとうございます」
おわんを渡すとほかほかの米が補充された。
「エマも食べなさい。冷めない内にね」
「はーい」
エマはやはりお行儀がいい。箸の使い方や。魚のほぐし方、スープの飲み方どれをとっても上品だ。
「アレク君。エマと冒険に出た時は、よろしくね」
「はい。エマに、逆にお世話になると思いますが。俺、りんごスキルなので」
自虐のつもりだったが、嫌味っぽく聞こえしまったのか、エマ母の表情が一瞬固まったきがした。
「りんごスキルね。いいんじゃない?エマ、アレク君のりんごが好きだよね?」
「うん。アレク君のりんごは世界一」
「ならいいわよ気にしなくて、私はこの子が笑顔になってくれればいいわよ。エマを幸せにしてね」
正直ほっとした。エマ母に反対されたらどうしよう。そう思っていたからだ。
それからエマ母の昔の話をよく聞いた。
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