3:ビルディング
「起きて。風邪ひいちゃうよ?アレク君?」
エマの声で目を覚ました。目覚めは最高だ。
「あっわり。ちょっと実験をしてて」
「実験?あー。ビルディングスキルのね?んで、なんの実験をしてたの?」
「楽してレベルアップ。コヨーテちゃん使って自動レベルアップしようかと企んでた」
「えっ。そんな事できるの?」
「うん。出来そうなんだけど、HPが足りなくなって倒されちゃうんだ。このリンゴを食べさせれればいいんだけど」
エマにキンキンに冷えたりんごを作って渡す。
「あっありがとう。りんごねー」
りんごを齧りながらエマは、かんがえる。
「回復スキル持ってるモンスターがいればいいんだけど、エマ知らない?」
「回復スキルかー。回復スキルはねー、中級ダンジョンにいかないといないらしいよー。私もみたことないんだよねー」
「中級って何レベくらいだっけ?」
「たしか、30Lvくらいだった気が」
コヨーテを使った戦法だといくら時間がかかるかわからない。
「中級に行くのはさすがに無理だな」
「りんごを食べさせたいならー。ゴブリンとかはどうかな?ゴブリンなら、初級ダンジョンにいるし」
「ゴブリンかー。それいいかもな」
「それじゃあ、冒険者登録しないとね」
ダンジョンに入る為には、役所で冒険者登録する必要がある。基本的に志願すれば冒険者登録することができる。
「冒険者登録かー。登録したら親にばれるっけ?」
「あー。どうだろう。お姉ちゃんが登録した時は、家に郵便が来たな。バラン君は、もうダンジョンに出入りしてるんでしょ?バラン君の時はどうだったんだー」
「郵便物は、見たことない」
「あはは。そうだったんだー。毎日バラン君にこき使われてたもんねー」
エマは苦笑いすると、コヨーテと戯れ始めた。
「いつ冒険者登録するの?」
「今日」
「ええっ!!」
エマが悲鳴のような声を上げた。
「今日って、急すぎない?私、全然準備してないよー。それにアレク君だって、まだ親に言ってないでしょ?」
家族には冒険者になった事は出来ればバレたくはない。馬鹿にされるのは目に見えてるからだ。
「バランにばれるとめんどくさいから、こっそりしたいかや?」
「そっかー。あっ。そうだ!そいえば、お母さんがアレク君に会いたいって言ってたんだ。冒険に出たら会えなくなるから、今日会ってくれない?」
「いいよ」
エマの家でご飯を食べる事になった。
「あらアレク君。久しぶり」
エマの家に着くと、エマの母親が笑顔で出迎えてくれた。いつ見ても美人だ。おそらくエマの美貌は母親譲りだろう。そして唯一俺を馬鹿にしない大人だ。
「すみません。連絡もせず急に来てしまって」
「アレク君。私が誘ったんだからそんな事言わないで。お母さん。大丈夫だよね?」
「ええ。大丈夫よー。いつもエマと二人きりの食事で寂しかったところなのよー」
エマの家系は、村でも有名な冒険者家系だ。父親と姉は有名なギルドに入ってるらしいし、母親も昔はバリバリダンジョン攻略をしていたはしい。
二人きりの食事。その言葉がひっかかった。エマが冒険に出たら一人きりになってしまう。
「それじゃー。エマー。晩御飯まで時間かかるから、リビングでゆっくりしててー」
「はーい。アレク君。おもしろい本があるの。一緒に見よー?」
エマは机の上に置いてある本を取り出すと、得意げにページを開いた。
「ここにある特集なんだけどさ、ここにあるモンスター。アレク君は作れないかな?」
見たことのないモンスターばかりがいる。牛みたいな見た目に、下半身は人間のやつもいれば、ネバネバした液体のやつもいる。
「このネバネバしたやつはなんだ?」
「これはスライムって言うんだよ?まー。コヨーテより少し強いくらいかな?初めて冒険する人がよく倒すみたい」
「これならみたことあるから作れるかも」
「えっ?本当に?いま、作れる?」
「多分できるけど、エマはスライム倒せる?」
「えっ。どうだろう。魔法を使えば倒せるかな?でも家だし」
「最悪眠り草を生成して眠らせるわ」
「おお。さすが」
俺はスライムの写真を眺めると同時に、手に意識を集中させる。
じっくりと初めてスライムに会った時の事を思い出す。
「よしっ。いくぞ」
煙とともに出現したスライムは、なにがなんだがわからず右往左往している。
刹那。スライムの脳天に何かが刺さる。急所をつかれたスライムは、可愛い悲鳴を出しながら消滅した。
包丁が音を立てて、床に落ちる。
「ごめんねー。怪我はない?」
ニコニコとした表情で母親がこちらにやってきた。
あれ?もしかして、これお母様がやったんですか?
「ママ!あぶないよー。もーう、モンスターが出てきたら殺すくせやめなよー」
「うふふごめんなさいね。つい昔の癖で」
可愛い笑顔を探す母親ににやつきながらも、俺はエマの行く末を心配した。もし仮にエマと結婚したら間違いなく鬼嫁になりそうだ。
「ところで、なんでこんな所にスライムが?」
「あのー。それはー‥‥」
エマの方を見ると、俺と同じく表情がひきつっている。
軽率すぎた。
「あっ。アレク君のりんごに釣られてきたのね」
母親は、一人で納得すると鼻歌を歌いながら台所に向かった。
「おいおい。お前の母ちゃんが、あんなにモンスターに敏感なんだって知らなかったぞ」
小声でエマを問い詰める。
「まさかあんなにとは思わなかったわよ。いつもは、ゴキブリを見たら包丁で殺すぐらいで」
「とりあえず、スライムは作れたみたいだな」
「そうだね。モンスター作りは、今日はやめよう」
ひそひそ話を終えた後、俺はモンスターを覚えるべく雑誌を眺め、エマは風呂に入りに行った。
しばらくするとエマの母が大皿を持ってやってきた。
「あれ?エマは?」
「エマならお風呂に入りました」
「えっ。そうなのー。もうすぐでご飯が出来そうなのに。あっそうだ。アレク君。エマを呼んで来てくれない?」
「えっ。でも、年頃だし‥‥いくら俺でも」
「大丈夫大丈夫。エマは、アレク君の事が好きだから」
「へっ?」
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