聖地の戦い
とある場所にて。
カーリが死霊召喚術の特訓を受けている。
能力を奪ったが、使いこなせなければ意味が無い。
ヨハネス・グルーバーの指導で、この禁呪法を練習していたのだ。
古代ローマ人のロンギノスが召喚すると、そのモノは古代ローマ人となる。
ダークエルフのカーリが死霊召喚すると、出て来るモノはダークエルフとなった。
ダークエルフは弓の名手である。
しかし召喚されるのはあくまでもダークエルフの形をしたもののみ。
弓は一から作らねばならない。
ここでヨハネス・グルーバーがジーザスから奪った能力の武器召喚が役に立つ。
これは銃や砲を、無限に作り出す事が出来る凶悪なユニークスキルだ。
これを、破壊されてもすぐに復活する死霊ダークエルフに持たせれば、一気に凶悪な兵団が出来上がる。
ロンギノスが危惧したように、地球の兵器はたった一人が使いこなして威力を発揮するものではない。
大軍で使えば、それだけ強くなる。
だからカーリは、より多くを、出来ればロンギノスのように数千の死霊を使役出来るようにしたい。
そして未知の武器を、死霊たちが使えるように、召喚者である彼女自身が体に覚えさせる必要があった。
「ここは自然の魔素が極めて多い。
今の私たち程度の魔素量であれば、あのマイハとかいう女に探知もされないだろう。
安心して鍛えるが良いぞ」
「今の私たち、ね……。
本当にあんたの言う事を聞いていれば、私は強くなれるのだな?
お姉様よりも……」
「そのお姉様こと、メユノとかいう女と同じ方法を使う。
そうだ、これを渡しておこう」
ヨハネス・グルーバーはカーリに「退魔の小剣」を渡す。
「細かい魔力の調整は出来ぬようになったが、膨大な魔素からお前を守る力はまだある。
持っているが良い。
私にも、もうじきに不要となるからな」
やがて2人は、聖地に向かって転移を行った。
だが、ここでも意外な障害にぶつかる。
「む?
私は地下迷宮への転移を行った筈だが、何故中に入れないのだ?」
「それは、わしが止めたからだ」
そこには竜人ゴリアテが立っていた。
「お前は、誰だ?」
「わしを知らぬか。
やはりお主は紛い物の族長、紛い物の魔王よ」
「待て、そうかネブカドネザルの残留思念がざわめいておる。
お前がネブカドネザルを封じる役目を負った竜人の族長か。
名は確かテゴリア……」
「そのように名を書き換えようとしたのか。
残念だな。
わしは最初に名を得てから変えた覚えはないのだ」
「何だと?
その老体、まさか初代なのか?」
「初代も何も、代替わりはしておらん」
「そうか……厄介だな」
「そうさ。
かつての魔王ならばともかく、今のお主ならばわしでも勝てる」
「魔王と分かるのか?」
「その内に宿る魔力、大分弱いものの間違う筈がない。
わしは知っておるのだからな」
「なるほどな。
だが、今の私になら勝てるとは、思い上がりも甚だしいぞ」
「勝てるさ。
この数百年で、大分魔素を失ったようだな。
質はともかく、量の面で話にもならん」
そう言うと、ゴリアテは翼を広げ、飛びながら攻撃を仕掛けて来る。
小転移でこれをかわすと、ヨハネス・グルーバーは鉞に雷撃を纏わせて放つ。
これはヨハネス・グルーバーが、ドワーフの名工の手による「退魔の小剣」を模倣して作った為、同様の魔法増幅効果があった。
強烈な雷撃がゴリアテを直撃する。
だが効果無し。
「雷撃とはこのようにするのじゃ!」
竜人は手に持つ珠に魔力を込める。
すると聖地上空に暗雲が立ち込めて来る。
「それが、かつて魔王を倒した時に使った神具か?」
「紛い物の魔王よ。
やはり知らぬようだな。
そうだ、これは天を操る珠よ。
その真の意味も知らぬまま、我が手で斃れるが良い」
天空から多数の稲妻がヨハネス・グルーバーに襲い掛かる。
一撃一撃がヨハネス・グルーバーの雷撃を、鉞で増幅したもの以上の威力。
しかし、その雷撃を鉞で受けると、
「お返ししよう」
と竜人に撃ち返す。
竜人はその強烈な雷撃を受けるも
「これくらいの魔力でないと、わしも目が覚めんわ」
と全て吸収すると、今まで萎れていた筋肉が盛り上がり、次第に全盛期のようなたくましい身体に戻っていく。
「では、行くぞ」
先程とは違う猛スピードでヨハネス・グルーバーの元に詰めると、転移魔法の為の間を作らせずに強烈な拳での一撃を腹に食らわす。
「グハッ……」
内臓どころか、それを貫いて背骨までも破壊しそうな一撃。
血を吐き、地に落ちる有翼人。
「ふん、やはりすぐに回復しやがったか」
周囲の魔素がどす黒く染まり、ヨハネス・グルーバーの破壊された部分を修復していく。
「その肉体から引き離さねば、魔素がある限り回復し続けるか。
まあ良い。
回復出来なくなるまで倒し続けるまでだ」
ゴリアテは再び攻撃に向かった。
だがそのゴリアテに多数の弾丸が降り注ぐ。
「何だ、これは?」
ブローニングM2重機関銃が出現し、12.7mm機関銃弾を撃ち出し続ける。
一発程度では大した事が無いが、毎分400発以上の弾丸を浴び続けると、さしもの古き竜の鱗も破壊されれしまう。
その高速移動能力でどうにか回避するも、中々の深手を負ってしまった。
重機関銃も、連続で撃ち続ける加熱し過ぎて壊れるのだが、ジーザスから奪った武器召喚のユニークスキルによって、壊れたら次の銃を、弾切れになったら更に新たな銃弾を、無限に産み続ける事が出来る。
「その能力は何なのだ?」
銃弾の暴風雨に、天性の防御力の高さと、皮膚硬化術を使って耐えながら尋ねる。
「全てを教えてやる義理は無い。
だが、一個だけ教えてやろう。
これが今の地球の兵器だ。
エリヤ・ハシェムの時代には無く、誰も想像すらしなかった兵器。
どうだ、絶望し給え。
そして、そんな硬い身体に変化したら、動きも遅くなろう」
見るとヨハネス・グルーバーの手にはロケット砲が出現している。
動きが鈍くなったゴリアテに、対戦車ロケット弾が命中し、その腕を肩から吹き飛ばす。
「どうかね?
これでも今の私になら勝てる、等と寝言を言えるのかね?」
瀕死のゴリアテを馬鹿にした目で見ながら挑発するヨハネス・グルーバー。
「地球の……兵器だと?
どうして……貴様が……そんなものを手に入れたのだ?」
「フフン……。
ロンギノスという男が、変わる事を拒み続けていて、それを小娘に否定されておった。
お前も同じよのお。
古臭い魔法攻撃だけに固執しおって。
そんな頭の固い老人が、地球の事を知ってその文明を取り入れた私にかなう訳が無いのだ」
有翼人は、傷つき倒れ、もう戦闘不能な竜人に向かって勝ち誇る。
「さあて、聖地の守護者は一体どの武器で死にたいかね?
この爆弾を体中に括り付けられて、肉体を四散させてみるかね?」
ヨハネス・グルーバーの手には、多数の手榴弾が出現している。
とどめを刺そうとする有翼人。
しかし手榴弾を持つ手に突風が当たる。
「ここは止めに入らねばなるまい。
ゴリアテ族長よ、誇り高き竜人よ。
貴方の誇りの為に手出しして来ませんでしたが、流石に今は命の危機です。
お助けいたします」
「貴様……、ソムサと言ったな。
何故聖地の塔の門番をせずに、こんな場所に現れた?」
「ソムサね……。
貴様が四腕人の族長の名を書き換えたのだな」
「何の事だ?」
「我が名はサムソン。
それで何が有ったのかを察するが良い」
「そうか、そうか、知ったのか。
ならば仕方が無いな」
四腕人のサムソンに向けて、地球製兵器を向ける。
「そんなしみったれた風魔法で防げると思うな!」
発射される機関銃弾。
しかし、サムソンの手前の土が盛り上がり、防御の土塁が出来てしまう。
「風魔法以外は、基本的には徒手格闘の四腕人が、地の魔法だと?」
見るとサムソンの4本の腕には、独鈷が握られている。
これこそ神具、それぞれ地・水・風・火を司る四元素独鈷。
ほとんど予備動作無しで、大地魔法、氷水魔法、風刃魔法、爆炎魔法を発動出来る。
この猛攻に、ヨハネス・グルーバーも回避で手一杯だ。
「この4本の手からの攻撃、手数において貴様に勝る!」
「確かにな。
では、こちらも手数を増やさせて貰おうか」
ヨハネス・グルーバーはゴーレムを出現させる。
それぞれが米軍のM4カービンやM249軽機関銃を持っており、展開しながら攻撃を加えて来る。
土による防御壁を作り、爆裂魔法や鉄砲水魔法でゴーレムを破壊していくが、これも幾ら破壊しても意味が無い。
次から次へと生産されていく。
最早サムソンも防戦一方となった。
「これがライト殿の世界の武器なのか……」
鉛の暴風の中、防壁の陰で耐えるサムソン。
だが、突如血を吐く。
「なんじゃ、こらぁ?」
腹部に矢が刺さっている。
「あら、余計なお世話だったかしら?」
カーリが矢を放っていた。
銃が鳴らす轟音の中、静かに放たれた矢にサムソンは気付かなかった。
当然ながら、これにも毒が塗られている。
「カーリよ、余計なお世話ではない、よくやってくれた。
こうやって土壁に守られていたら、時間が掛かったからなあ」
「なら良かったわ。
そこの四腕人さん。
貴方が先に、あの竜人との戦いに割って入ったのよ。
私が加勢した事に、何の文句も言えないわよねえ」
そしてカーリが毒を猛毒に変換し、とどめを刺そうとした。
「この空間の揺らぎ……」
来人、ユハ、メユノがマイハの転移魔法で駆け付けて来た。
「魔法を使い過ぎたか……」
「そうだな。
あれだけ馬鹿でかい魔力の波動を出していたら、マイハには察知されるよ。
ユハ、あの竜人を治療して欲しい。
メユノはサムソンの解毒を。
マイハは俺を防御してくれ」
「分かった!」
「仰せのままに!」
「守れば良いのですね」
3人の女性が散開する。
そして
「短期決戦だ。
いけ! ベイダー!!」
地上最強の肉食恐竜ティラノサウルス・レックス、その個体名はベイダー。
皇帝戦士とも呼ばれたパワーファイター。
そしてベイダーには、もう一個「暗黒卿」の名前も意味に含まれている。
(闇堕ちしないでくれよ……。
これ以上強い名前を俺は思いつかなかったから……)
そう願う来人。
どうやらプロレスラーの方に近い自我なのか、思念を返してはくれないが、兎に角意思に従って大暴れしてくれる。
銃撃をスピードでかわし、顎や足や尻尾でゴーレムたちを破壊していく。
「出し惜しみ無し。
頼むぞ、ソーテキ!」
ティラノサウルスよりも小型だが、同じく肉食恐竜フクイラプトルも召喚する。
「ソーテキ、お前はヨハネス・グルーバーを狙ってくれ」
<承知した>
肉食恐竜は有翼人に向かって突進する。
「術者の意識を奪えば、こいつらは形を維持出来んだろうが!」
ソーテキの攻撃をかわしながら、ロケット砲を発射するヨハネス・グルーバー。
斥力防御魔法程度では防ぎ切れないだろう、そんな計算で撃たれた砲弾は、マイハによって弾かれて、明後日の方向で爆発する。
「何だと?
地球の兵器が防がれただと?」
驚くヨハネス・グルーバー。
だが、地球の兵器を防いだのは、地球の知恵であった。
マイハの防御魔法は、これまで相手の攻撃を止めるよう、垂直に壁のように展開していた。
これでは高威力のものには貫通されてしまう。
そこで来人は、曲面状に防御壁を展開させ、さらに受ける時にやや横を向いて、相手の攻撃を受け止めるのではなく、受け流す方法を教えたのだ。
この傾斜装甲型防御魔法と、更に受け流す方向に吹かせる風魔法とを組み合わせた結果、大概の攻撃は逸らせるようになった。
「だが、いつまで防ぎ切れるかな?」
更なる武器を召喚しようとするヨハネス・グルーバー。
だが、その武器に雷撃が命中し、暴発する。
「ユハ殿と言ったな。
助かった。
恩はあの男を助ける事で返すとしよう」
体力と魔力を相当失っているが、吹き飛ばされた腕も結合し、回復したゴリアテが戦線復帰した。
「カーリ、もう止めなさい」
「うるさい、うるさい、うるさい!」
メユノはカーリの召喚する死霊を、取消魔法で消滅させながら追う。
その背後では、解毒が完了したサムソンが再度、四元素独鈷を手にヨハネス・グルーバーを攻める。
「最早これまでじゃ」
ヨハネス・グルーバーはカーリの元に転移する。
「貴様!」
「邪魔だ」
カーリを追っていたメユノに一撃入れると、カーリと共にまた何処かに転移してしまった。
「マイハ、追撃だ!」
「待たれよ……」
竜人が声を掛けて来る。
「追っても無駄じゃ。
今のお主の力では、あの魔王の紛い物に勝つ事は出来ても、滅する事は出来まい。
まずは、奴を倒す力を得ねばなるまいよ」
来人は、初めて会うこの竜人の老人に声を掛けてみた。
「えーと、初めまして。
俺は安鳥ライトと言います。
貴方はどちら様でしょうか?」
竜人は名乗った。
「わしはゴリアテ。
かつてお主と同じ世界の者より名を授かり、魔王を封印した戦士じゃ」
来人は思いもよらず、会いたいと願っていた人物と邂逅した。




