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ダイナマンサー ~恐竜召喚士の異世界冒険~  作者: ほうこうおんち
異世界と地球に跨る野望の章
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決戦準備

「こいつの名前をどうしよう?」

 来人は最後の切札・ティラノサウルスの名前について悩んでいた。

 強い名前にしようか、扱いやすい名前にしようか。

 パワー型にしようか、スピード型にしようか、防御重視にしようか。

 父親が持っていたから和風の名前にしようか、北米産恐竜だから洋風にしようか。


 その前に現在、死霊召喚術(ネクロマンシー)の特訓をしていた。

恐竜召喚術(ダイナマンシー)の方が高度なんですよね?

 それより下位の死霊召喚術(ネクロマンシー)が、どうしてこうも出来ないのだろう?」

 ボヤく来人にジャクオー師は答える。

「大魚を捕らえ、食する技法と、小魚を捕まえ、料理する技法は異なるもの。

 大魚を捕らえる銛と、小魚を捕まえる網とでは扱い方がまるで違う。

 大魚を切る刃物は、小魚を捌くには大き過ぎる。

 そういうものじゃ」


 苦戦する来人を眺めながら

「私の修行の辛さが理解出来たかしらね」

 と意地悪い事を言うマイハ。

 来人も、当事者となって魔法の練習をすると、全くの劣等生であると分かって恐縮する。

 他人事だと思って、かなり無茶振りをしていたのだなあ、と。


 その頃、来人によって名付けられ、彼に忠誠を誓うケンタウロスの張遼たちは、自分たちの種族の族長サボを探していた。

 自動車道路開通に伴い、地球側との荷物輸送の契約はまだ切れてはいないが、ほぼ仕事としては無くなった。

 そこでかねてより依頼されていた事に取り掛かったのである。


「我々はこの大地の事をよく知っておる。

 だが、あえて行っていない場所が2ヶ所ある。

 南の湿地を超えた先と、北の砂漠を超えた先だ。

 北の方には我が君が居られる。

 ならば、我が群れは南を探そうではないか」

 張遼はそう言って、群れの中から勇士を募り、族長捜索の旅に出た。

 これが来人がジーザスの反乱前後の頃の事である。

 彼等は、食糧も乏しく、危険な魔物が跋扈する湿地帯に踏み込んでいた。

「まったく、血を吸いに来る魚とか、水で攻撃して来る魚とか、電気を発する魚とか、この辺りは地獄だぜ!」

 群れの中でこいつらにやられた者もいる。

 いい加減、群れの中からは

「隊長、帰りましょうぜ。

 こんな酷い場所探したって、ケンタウロスの族長が居る訳ねえですよ。

 俺たちが嫌って事は、他のケンタウロスだって嫌な筈ですぜ」

 と不満の声も出て来ている。

 実際、ケンタウロスの生存には適さない場所なのだが、張遼は帰らない。

 何故なら、他の場所は大体知っているが、この先は知らないからだ。

 ここに居なかったら、改めて自分の知る場所を探せば良い。

 旅をし、自由に居場所を変えるケンタウロス族と言えど、季節によって草や獲物が居る場所が限られる為、そこらに見当をつけて行けば出会える筈だ。

 しかし、今まで族長として伝わる人物に出会った事が無い。

 自我が貧弱で、単なる蛮人だった時代にも、多くの群れに会ったが族長なんかには会っていない。

 子供の頃から族長となっての四十数年ずっとだ。

 という事は、自分の知る範囲には居ないのでは無いだろうか。


 こうして馬体に多くの蟲や怪魚の攻撃により傷を作りながら、湿地を探検していく。

 幾つかの集落を見つけたが、樹上の四腕猿人や地下生四腕人、六肢両生人といったものたちで、お世辞にも知能が高いとは言えないモノたちだった。

 こうして「探したけど、やはりここには居ない」と判断し、次は北の砂漠を超えようかと考え始めた時、仲間が意外な物を発見した。

「隊長、ありゃ何ですかね?」

 それは以前見た「聖地」と似たような建造物である。

 あれ程の拡がりは無いが、主要部である塔はよく似ている。

 張遼はそこに向かう事にした。

 ここに何も無かったら、この地域からは引き返そう。


「隊長、ドラゴンです」

 塔に近づくと、多数のドラゴンが襲って来た。

 それ程大型のものではないが、それでもドラゴンはドラゴンである。

 強力な事に変わりはない。

「全員戦闘!

 我が君から貰った武器の使いどころは今ぞ!

 お前等の強さをわしに見せてみよ」

 地球製鋼材の盾や槍、合成弓による戦闘。

 日本刀と呼ばれる刃物は、使い方が悪いとすぐに刃が欠けてしまうが、上手く使えばドラゴンの硬い皮膚すら斬り裂く。

「隊長、こいつら、やりづらい」

 ドラゴンが強いのはいつもの事だが、確かにこいつらは戦っていて、実にやりにくい。

 連携攻撃をして来る、こちらの攻撃を覚えてその間合いに入ろうとしない。

 まるで知恵でもあるようだ。


『そこまでじゃ。

 武器を収めよ』

 そんな思念が、この場に居た全員に伝わる。

 ドラゴンたちも顔を見合わせて撤収していく。

 その際、傷ついた仲間のドラゴンを、無事なモノが連れて帰るのを見ても、知能がある種族のようだ。


『優れた武器を持つケンタウロスよ。

 一体何をしに来た?

 この地は、お前たちにとって暮らし良い場所では無かろうに』

「我が名は張遼。

 大恩ある主より、この名を賜った。

 その主より、サボ族長を探すよう命じられておる。

 その旅でここに立ち寄ったまで」

 思念にそう回答する。

 すると

『サボ等という名は知らん。

 ケンタウロスの族長は違う名であろう』

 そういう反応が戻って来た。

「ではボアズという名は?」

『ボアズ……我が友ではないか。

 その名なら知っておる』

「サボとはボアズの子孫である」

『それはおかしい。

 我々は代々同じ名を引き継ぐと決めていた。

 名が変わる事は有り得ぬ』

「だが、我々にはサボという名が伝わっておる」

『よく分からぬ。

 直接話を聞きたい。

 ここに来られるが良い』

 すると、鬱蒼とした茂みの中から道が見えて来た。

『普段は幻術によって道を見えなくしておる。

 その道は我が棲み処へと続く道。

 通って来れば早かろう』


 張遼たちは塔の中に招き入れられた。

 そこには老いた竜人が座していた。

「お初にお目にかかる。

 我が名は張遼。

 ケンタウロスの一群を率いる隊長である。

 御名が有るならお聞かせ願いたい」

 竜人は腰を上げると答えた。

「我が名はゴリアテ。

 竜族の族長をしておる」

「失礼ながら、一体何代目のゴリアテ様で御座いますか?」

「何代目も何も、わしが最初のゴリアテで、いまだ次代に名を渡してはおらぬ」

 聞くと、ドラゴンの中には百年以上生きる者もいるそうだ。

 そして力を得たドラゴンであるゴリアテは、既に三百年以上を生きているという。

「わしよりも年長のドラゴンは、あの戦いの時に種族の誇りを賭けて戦って死ぬか、魔王の眷属とされてやはり滅ぼされたかした。

 わしが族長となったのは、その時にわしより相応しい者が居なかったからじゃ」

 竜人は、ドラゴンが自我と膨大な魔素吸収により、姿を変えたものだという。

 名を付けた者の影響を受け、人間のような形になった。

「うすらデカいだけが強さではない。

 魔素を十分に漲らせ、身体の隅々まで制御するのであれば、過剰な身体は不要。

 まあ、その力が有れば、の話だがな」

 張遼にはドラゴンの進化形態の事はよく分からない。

 大事なのは、自分の主君が探している事と、サボというケンタウロスの居場所についてである。


「ゴリアテ殿。

 貴殿の事を我が君が探していました。

 お会い出来て幸いで御座います」

「君の主君?

 族長ではなくてか?

 一体何者かな?」

「異世界のお方で御座います」

「ほお、異世界人か。

 懐かしいな。

 わしに力をくれたのも、名を引き継ぐようにしたのも異世界人なのだ。

 もしや、最近魔素の異常を感じるが、それと何か関係が有るのかな?」

 張遼は、ヨハネス・グルーバーが本性を現す前に旅に出た為、ここ1ヶ月程の事態の急転を知らない。

 ただ、四神人と呼ばれる存在について調べている事のみを告げた。

「何を調べておる?」

「どうも名が違うようなので。

 ケンタウロスの族長はボアズだったのに、今はサボという名です。

 四腕人の族長もサムソンなのに、その名の者が居ないのです。

 これはわしも聖地に行って、聞いております。

 そして有翼人の族長はヨハネスなのに、今はもっと長いヨハネス・グルーバーとなっております」

「ふむ、確かにおかしいのお。

 それで貴殿はサボなる族長を探しておったのか」

「はっ。

 心当たりは御座いませんか?」

「北に居るよ。

 詳しい場所までは知らぬがな」

「何と?」

「聖地と言う場所の北にケンタウロス、南に我こと竜族、東に四腕人、西に有翼人が配されたのだ。

 まあ貴殿たちケンタウロスは旅する種族。

 ずっと北に留まってもいまい。

 しかし、族長ならば恐らく北から動いてはおるまい」

「なんと!

 これは有り難き事をお教えいただいた。

 感謝致しますぞ」

「……わしはあの戦いの後、周囲との付き合いを断っておった。

 ただでさえ強いドラゴン。

 それが更なる力を得て生まれた我等。

 異世界人たちは竜人と呼んでおったが、わしは他よりも圧倒的に強くなった。

 これ以上の力は要らぬと、誰も寄り付かぬ場所でただ生きておったのだが、そうも言ってられぬようになったようだな」

「は?」

「いや、わしも動こうかと思ったまでよ。

 わし以外の族長の名が変わっておる、それも不穏な事であるしな」

「なれば、いつか我が君ともお会いになれますな」

「わしは興味は無いが、もしそのような運命なれば、会えるであろう」

 こうして思いもかけない収穫を得た張遼たち一行は、聖地を模した塔を辞して、北に向かう事とした。




「……で、ジャクオーさんは一体何をしているのですか?

 俺への指導以上にユハへの指導の方が熱心ですよね?」

 死霊召喚術は自習とされ、ジャクオー師は何やらユハに色々教えていて、ユハの方がパニックになっている。

「まあ男を教えるより、異種族でも女の子を教える方が楽しいからのお」

「それは否定しませんが……」

「否定せんか、冗談を分かってくれてありがとうよ。

 実際のところ、お主に死霊召喚の素質は無いからなあ。

 気が済むまで練習してから諦めれば良いと思うな。

 それよりも、この娘の方が来るべき戦では役に立つじゃろう」

「ユハが?」

「ユハが、ではなくて、この子の持っている物が凄まじいのじゃ」

「そのマイク……拡声器がですか?」

「これは神託角笛(ギャラルホルン)という神具(アーティファクト)じゃ。

 人々を鼓舞する、精神支配されていた者の目を覚ます、共感を得るといった事が出来る道具。

 使い方次第では、より強力な精神支配をする事が出来る、恐ろしい代物じゃよ。

 それを使いこなせる方が、お主の出来もせぬ死霊召喚術よりも重要じゃ」

 メユノの持続する魔法効果を打ち消すマジックキャンセルと違い、主に精神に働き掛け、洗脳を解いたり勇気が無い者にも勇気を与える、更に遥か遠くまで行き渡らせる能力がある。

 魔法を使っていない、その場の空気に流されているような者にも、一旦立ち止まらせて考えさせる効能を持っているのだ。

「はあ……。

 俺の死霊召喚術がダメなのは置いときましょう。

 必要なんで、一回で良いから成功させたい。

 それで、ボイストレーニングと活舌の練習は分かります。

 百歩譲って、踊りの練習も分かるとしましょう。

 腹筋トレーニングとか、走り込みとか、暑さに耐える特訓とか、よく分かりません」

「最高の偶像(アイドル)になるには、まず体力からじゃな」

「アイドルですか?

 何で?」

「お主は、このユハに長ったらしい演説が可能と思うかね?」

「微塵も」

 直後、ユハから抗議の雷撃を撃たれてしまう。

 それを笑ってみていたジャクオー師は続ける。

「話を聞いたら、この子は歌って、踊る事に興味があるようじゃ。

 地球の歌手たちに憧れるとか」

(そういやベースキャンプでも磁気テープに落としたアイドルのライブを食い入るように見ていたし、地球に遊びに行っても、地下アイドルとか路上ライブとかを好んでいたなあ)

「ならば、そういった方法でこのギャラルホルンを使いこなすよう、指導しておるのじゃ。

 ギャラルホルンも、この子の意思に反応して、こんな形になったようじゃしな」

(よく分からないなあ。

 神具(アーティファクト)って人に合わせて形が変わるのかよ)

「というわけじゃ。

 これはわしの予感じゃが、そう遠くない時期に使う事になるじゃろう」

「向こうから攻めて来ると?」

 それに対し、ジャクオー師はカラカラと笑う。

「ロンギノスの支配から脱したい、魔王の精神支配などまっぴらごめんだ。

 そう思っておるのは、今のところわしだけじゃ。

 だから、今の段階でいくらロンギノスやヨハネス・グルーバーの脅威を説いてもこの国の者の心に響かん。

 逆に言えば、相手こそロンギノスの力を使って民を動かせる。

 ロンギノスと地球と、どちらが脅威かと言ったらお主たちじゃからな。

 そうして民を動かして来た時、その時こそ反撃の一手が打てる。

 その時の為に、今はこの子をプロデュースしていかねばのお」


 こうしてユハは、どこの肉体派芸能事務所だよ、というスパルタ式歌手育成特訓を施されるのであった。

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