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異世界大同盟

 ホーンズ大陸に突如現れた脅威。

 それは泥人形(ゴーレム)を使役し、近代兵器を召喚するジーザスという地球人が、オーガーを突如殺戮し、オーガーがデミローマン大陸に難民として押し寄せた事である。

 長くホーンズ大陸のオーガーや悪魔族(デーモン)と戦って来た四肢動物(テトラポーダ)たちにしたら、まず何よりも蛮地からの難民が問題となる。

 基本的に彼等は粗暴なのだ。

 折角文明化している都市に入れても、住民と仲良く生活していくなんて考えられない。


 ギルドの者たちは、新しく現れた異世界人に、恩人であるエリヤ・ハシェムが殺された事には衝撃を受けていたが、その後のジーザスの振る舞いは、大した脅威と認識していない。

「海向こうの大陸で、害獣オーガーを駆除してくれるのなら、かえって有り難いではないか」

 なんて事すら言っている。

 何が起こったのか知らせる為に連れて来られたオーガーの者が、その発言に激高して暴れそうになった。

 そのまま暴れたら、直ちに身体に取り付けられた魔石を爆発させられ、息絶えていた事だろう。

 そうなる前に、来人が尋ねる。

「あんた、名前は有るかい?」

「俺、ウラという」

温羅(ウラ)か……。

 聞きたいのだが、そいつはどうして君たちに攻撃をして来たんだ?」

「分からない」

「多分、面白半分では無かったか?」

「分からない」

「君たちに心当たりは無いんだろ?」

「俺たち、エリヤ・ハシェム様の説法を聞く為に教会に向かっていただけだった」

「やはり、そこに君たちが居たから、自分の戦闘力を試してみただけだろう。

 面白半分で。

 あいつはそういう奴だ」

「ゴホン。

 あー、ライト殿。

 貴方はその異世界人を知っている、それで間違いないな?」

 ギルドの者が聞いて来た。

 半分「お前も仲間なのではないか?」という疑念混じりなのが感じられる。

「知っているさ。

 この地に一緒に来たし、あっちの大陸に渡る手配をしたのも俺なんだからな」

「手配?」

「ギルドに船の手配を頼んだんだが、知らないのか?」

「ちょっと待って下さいね」

 来人の言った事を確認する。

「ああ、これだ。

 そうか……我々がその者を蛮地に送ったのか」

 またウラがギルドの連中を睨んでいる。

 聖人を殺し、同胞を殺戮した者を送ったのがギルドであると分かり、その者の同郷の存在である来人以上の怒りを感じたのだ。

「しかしライト殿。

 その異世界人はどのような人柄なのですか?」

 来人は説明する。


 既にギルドの者たちは、メユノから地球の負の側面も聞いている。

 少ない資源を巡って戦争が起きている事も。

 宗教や民族の違いによる殺し合いが凄惨な事も。

 だから、来人が突然戦争について語って

「騙していたな、全然理想のような世界じゃないだろ」

 とはならなかった。

 ではあるが、そんな世界であると伝言で聞いていたメユノと違い、実際にそこで生まれ育った来人の話は想像を絶する。

 異世界の住人から見れば、ロンギノスの死霊ローマ軍団ですら破壊神にしか見えない。

 それ程に軍事技術は遅れている。

 そんな連中が、地球の近代兵器の話を聞く。

 一人が下手をしたら部隊を全滅させられる機関銃とか、地竜(アースドラゴン)なんかよりも強固で速く走る戦車、グリフォンよりも高速でドラゴンの火力を持つ戦闘機なんていうものは、おとぎ話にしか聞こえない。

 だから来人は、護身用の拳銃を見せた。

 実際に異世界人にも扱わせてみる。

 反動に腰を抜かし、的に当てられなかったものの、彼等は理解した。

 魔法のように使用者が限られるのではなく、誰でも扱える武器なのだと。


 異世界の戦闘は、一般の者が扱うのは単純な武器しか無い為、魔術師なり特殊技術者が1人いるとそれだけで圧倒的な力となる。

 大軍は意味を持たない。

 ただ食糧を大量消費するだけで、相手の1人の魔術師の攻撃で壊滅してしまう。

 それがこの世界の軍事の発展を止めていた。

 ロンギノスのローマ軍団は確かに脅威であったが、彼は善意の調停者である。

 怒らせなければ干渉をして来る事もない。

 だから部族間、種族間、他大陸間の戦争は優れた術者が抑止力となっている為、小競り合いはともかく、その者が戦場に出て来る前に諍いは終わるのだ。

 術者という「大量破壊兵器」が出て来ると、お互いが無事では済まなくなるのだから。


 しかし地球の戦争は、1人が何人でも殺せる武器を、1人1個ずつ以上持っている。

 それは異世界の魔術師以上の殺傷能力である。

 だから、そういう兵士を多数集めた戦争になる。

 地球の戦争は、異世界からしたら凶悪な破壊能力を持った兵士が多数集まって、その能力を解放し合う恐ろしいものである。

 ジーザスという男は、そんな中で生き抜いて来た。

 一神教を自分なりに解釈し、狂信的になる事で精神の崩壊を防いだのもあるだろう。

 とにかく敵か味方か中立か、そういう世界観であり、一旦敵と見た場合には容赦が無い。

 更に他人を見下していて、長く戦争をしていない日本も、同盟国ながら下に見ている。

 傲岸不遜なのである。

 己の強さにのみ信を置いている。

 その強さのみを信じ、欲に忠実な価値観を持ち、行動している。


 来人がギルドに呼ばれ、そんな話をしている時、難しい話には興味が無いユハは宿舎に籠って出て来ない。

 マイハが修行疲れでグッタリしているから、その世話をしつつ、久々にファッションについてあーでもないこーでもないと女子トークをしていたのだ。

 そんなマイハの「退魔の小剣」がカタカタ鳴り出す。

 こんな街中で?

 警戒するユハ。

 そして男性が部屋の中の転移して来た。


「久々だな、ユハ……いきなり枕を投げつけるとは、酷いではないか」

 そこにはヨハネス・グルーバー族長が立っている。

 顔を確認するより前に、男が女しか居ない部屋に急に現れた事で、ユハはマイハが頭を置いていた枕を思いっ切り投げつけたのだった。

「あ、族長。

 失礼しました。

 で、何の用ですか?

 ここ女の子部屋ですよ、変態……」

「……ユハよ。

 仕方なく追放したとは言え、お前の族長なんだぞ。

 もっと敬意を持って接しても良いのではないか?

 まあ、良い。

 用はな、この世界における危機を感じたから、話をしに来たのだ。

 ライト殿はギルドに居るのだったな?」

「なんで知ってるんですか?」

「そんな事はどうでも良い。

 私をギルド本部に連れて行きなさい。

 大事な用なのですからね」


 こうしてユハは、ヨハネス・グルーバー族長をギルドに連れて行く。

「久しぶりですな、ライト殿。

 早速ですが、この世界における危機について話したい」

 来人はこの有翼人の族長の話をあちこちで聞き、胡散臭さを感じていたが、確かに非常事態なのでそこには敢えて触れない事にした。

「獣の地の有翼人如きが、何を知っているのかね?」

 差別意識丸出しのギルドの者を、高位魔導士のジャクオー師が窘める。

「この人は四神人の一人じゃぞ。

 数百年前に、やはりこの世界を揺るがそうとした邪悪を倒した四種族の戦士。

 その戦士はそれぞれの種族の族長となった。

 その名は、今でも邪悪が蔓延る時にはそれを倒すべく引き継がれておる。

 そうでしたな、ヨハネス族長」

 うむと頷くヨハネス・グルーバー。

 ジャクオー師の言に、ギルドの者たちも無礼を謝し、居ずまいを改める。

(やはりヨハネス族長か。

 グルーバーという名の方は、知らないようだな)

 来人は内心、「グルーバーは知らん」というエリヤ・ハシェムの言葉を思い出していた。


「我々の世界は、度々異世界からの来訪者を迎えている。

 その来訪者の知識が、我々を発展させて来た。

 この世界に住む我々のような知的生命体の数では、本来このような発展はしないのだ」

(確かに、俺が感じた疑問でもある。

 異世界の人口は少な過ぎる。

 地球のように人口爆発が問題になるのも困るが、この世界では種族が多過ぎるし、種族毎の人口は少な過ぎるし、都市への人口集中も起きていない)

 地球の文明は、気候変動に伴い、農耕可能地を求めて大河の周辺に人口が集中した事で発展した、そう来人は高校の世界史で学んだ。

 大河人口集中以外でも、文明の発展は起こり得るのだが、何にせよ自力で文明を発展させるには人口が少な過ぎるように感じる。

 異世界人と呼ばれる地球人が、最初から文明の完成形を持って来て教えるならば、試行錯誤の手間も無く、この地でも文明社会を作り出す事が出来よう。


「その地球という異世界なのだが、ここには魔素が存在しない。

 魔法を全く使えない。

 まあ、ごく一部使えた者は居たようだが、今も存在しているかは知らぬ。

 魔素の無い世界から、我々の世界に来ると、数日以内に皆死んでしまう。

 それが地球による、我々の世界への侵略と支配を防いでいたのだ。

 逆も同じ。

 魔素の無い世界で、我々は生きていく事が出来ぬ。

 2つの世界は魔素の有無で、時に繋がる事が起こっても互いに別個のものとして在り続けた」

(相変わらず何でも知っているなあ。

 俺たちが必死に調べた事を、最初から知っていたようではないか)

 やはりこの男は胡散臭い、来人はヨハネス・グルーバーに対し警戒を強めていた。


「この2つの世界の架け橋となったのが、適応者と呼ばれる存在だ。

 そこのライト殿がそうだ。

 両方の世界で問題無く生きていける。

 その適応者は、我々の世界では固有技能(ユニークスキル)を発現させる。

 エリヤ・ハシェムの泥人形(ゴーレム)創造もそうだ。

 ロンギノスの死霊召喚(ネクロマンシー)もそうだ」

「え?

 ロンギノスの兵は死霊なのですか?」

 ギルドの者たちが驚く。

 彼等は普通の兵士をどこかから召喚する特殊技能(スキル)だと思っていたのだ。

 それがヨハネス・グルーバーは、その正体を知っていた。


「ライト殿、その地球人の能力は何か?」

 ヨハネス・グルーバーへの不審さを増幅させている来人だったが、聞かれた以上答えねばなるまい。

武器召喚(アームズ)でしょうね。

 俺も知らなかったが、泥人形(ゴーレム)使役能力もあるようだ」

「何?

 それは初耳だ。

 如何に適応者と言えど、ユニークスキルは1個しか無い筈だ」

(へえ、この何でも知った感じの男にも、知らない事が有ったのか)

 なにかホッとしたものを感じる。


 ヨハネス・グルーバーは更に、ホーンズ大陸で混乱を起こした人物の能力について深く尋ねる。

 それがどのような事を出来るか、についてである。

 来人は、いくら破壊されても痛みを感じない、裏切る事が無いゴーレムに大量破壊兵器である21世紀地球の武器を持たせた場合、何者も対抗出来ないと答えた。

 対抗可能なのは地球の兵器くらいだろう。

 だが、それを使える者は異世界では長時間活動出来ない。

 その事をジーザスは知っている。

 もしも地球から、ジーザスを追討する兵が送られた場合、ジーザスは逃げ回る。

 そうすれば薬を飲み続けてもいずれ限界が来る地球人は、帰還せざるを得ない。

 更に地球とは異世界の通路は狭く、大型兵器の運搬が出来ない。

 バラして運び込め、異世界で組み立てられる程度のものとなる。

 ところがジーザスは、武器召喚技術によって大型の砲も使う事が出来る。

 制限された中で、彼は無敵の存在と言えた。


 ジーザスは他人の生命なんてどうでも良いと考えている。

 来人の恐竜召喚(ダイナマンシー)でも、自動(オート)モードというのがある。

 召喚した後、指示だけ与えて好きに行動させるものだ。

 ジーザスの場合、ゴーレムに武器を持たせて自動モードで放置すれば、付近の生命を無差別に殺しまくる自動殺戮マシーンが闊歩する事になる。

 例えジーザスに異世界征服の意図が無いとしても、このゴーレムが勝手に攻め込む事を止める訳がない。


「さて、ライト殿。

 その者が元居た世界では、その者の所業を許すだろうか?」

 来人は首を振る。

 命令を逸脱した脱走兵、許す訳がない。

「では、その者の追討に、地球の協力を得られないだろうか?」

「それは出来ると思うが、活動時間に限界があるから追い詰められないかと」

「地球の優れた兵器で良い。

 それを、同じ元地球人のロンギノスに渡して、使い方を覚えて貰うのだ。

 同じ技術体系の世界なら、覚えやすいだろう。

 良いか、皆の衆。

 どうもあの者は、我々の世界だけでなく、地球という世界でも反乱者なようだ。

 私は邪悪を排除する責務を、先祖から負っている。

 だが私だけでは、余りにも進んだ文明の兵士を倒せない。

 ギルドの皆さんの協力と、守護者ロンギノスの戦力、地球からの兵器協力が必要だ。

 どうか全ての勢力が手を組んだ『大同盟』を考えて欲しい」


 こうして異世界大同盟が提唱されたのである。

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