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物資集積地設営

 ユハとマイハを乗せ、来人が操縦する飛行船は、まずは北の第1デポを目指す。

 ここには日本政府と契約したケンタウロスたちが、10トンもの物資を集積させていた。

「我が君!

 どうやら我が君も空を飛べるようになったようで、何よりで御座います」

「うん、機械の力でだけどね」

「それにしてもこの張遼、この先の征旅を共に出来ず、口惜しゅう御座います」

「いや、この物資集積地(デポ)を守るのも大事な事だよ。

 魔獣が食糧を漁りにやって来るだろうし。

 何よりも君たちと同じケンタウロスたちが一番怖いしね」


 ケンタウロスたちの中で、名前と自我を得て、武人のようになった張遼の群れが異質なのだ。

 彼等とてそれ以前は、大陸中を走り回って狩りと略奪を繰り返す蛮族であった。

 日本政府の依頼は、物資の運搬の他に、デポの警備もである。

 1年契約で、金銭の価値が分からないケンタウロスたちであるが、そんな彼等が「こんなに貰って良いのか!?」と思う程の対価が支払われる。


 デポに積まれた物資10トンに対し、飛行船が運べる物資は100kgちょっと。

 小型飛行船であり、多くは搭載出来ない。

 航続距離は、大型のヒンデンブルグ号等は10,000kmに達するが、小型のこの船はその5分の1程度である。

 よって、これから前進する場所に集積地(デポ)を作って、物資を置く必要がある。

 水と食糧は、100kgもあればお釣りが来る程持っていけるが、推進器を回す燃料はそうはいかない。

 燃料やヘリウムガスボンベ等を先々に置いておく。

 そこまで迷わないよう、ビーコンも設置する。

 極地法とはこういうやり方で、最終目的までの間に往復に必要な物資を置いて、それを消費しながら先に進むのだ。

 これを来人1人で行うのだから、大変である。

 如何に身体能力が上がって、荷物の持ち運びが楽になったと言っても、それ以外の負担もある。

 やはりベースキャンプを出た辺りから、見慣れぬ巨大飛行体にドラゴンやグリフォンが攻撃を仕掛けて来る。

 これへの対応も来人が行う。

 地上と違い、空中では強力なユタラプトルやフクイラプトル召喚が出来ない。

 地球で生きていた当時から翼竜なんていうのは、肉食恐竜のような攻撃力は持っていない。

 ユタラプトルたちなら簡単に撃退可能なドラゴンに、結構苦戦する。

 プテラノドンたちは、Xコンドルなら簡単に迎撃可能、グリフォンも互角に戦えるが、ドラゴンくらいの大きさと防御力だと苦戦する。

 そこで来人も小銃を持ち出し、対空砲火として放つ。

 時にはユハにも出て貰い、「退魔の小剣」と雷撃の組み合わせで攻撃して貰う。

 戦闘が長引くほど、来人の精神は消耗してしまう。


 そして地上に降りてデポを作る際も危ない。

 場所が変わると魔獣も変わる。

「悪魔?

 いや、ガーゴイルか?」

 この地の有翼人は、コウモリのような皮膜型の翼を持った奴だ。

 火炎魔法を放ち、一方で口からは氷の吐息(ブレス)を吹く。

 中々強いが、ユタラプトルで倒す事が出来る。

 それでも恐竜の弱点・低温の氷の吐息(ブレス)は浴びると流石のユタラプトルもダメージを受ける。

 戦闘時の来人と恐竜たちは強固な接続をしている為、ダメージは来人にもフィードバックされる。

 意外にこの相手に対し、マイハが強かった。

 空中機動力も高い上に、北の寒冷地から赤道を超える移動をし、上空の寒気にも耐えられる「渡り鳥」は温度の攻撃への耐性が高い。

 今までマイハは、ユハの雷撃や治癒のような魔法を見えていなかった。

 実際、そういう魔法は使えない。

 代わりに彼女たちの種族は、空気の流れをコントロールする魔法を使う。

 長距離移動をする際にごく自然に使っていた能力で、空気抵抗を減らす、自分の周囲に最適化された場を作って揚力を生み出す、空気を後方に押し出す事で加速を行う等を行えた。

「ライトさん、私に任せて」

 と言い出した時には不安を覚えたものだが、いざ戦わせてみると、吐息(ブレス)攻撃は空気の流れを変える能力で完全に無効化してしまう。

 火炎魔法も空気の防壁でかき消す。

 ただし接近戦で銛や鈍器で襲われると弱い。

 そこはユタラプトルがカバーする。

<お嬢さん、力業は男に任せろって事ですよ。

 まあ俺が護ってやるから、安心してくれよな>

 ガイなんかは生き生きと戦っている。


 空・陸と来ると、次は海であろう。

 内海になるから、大物は来ないが、やはり対空攻撃をして来る海の怪物はいる。

 いきなりその一撃を食らったら、飛行船は為す術もなく撃墜されただろう。

 だが対魔レーダーとも言うべき「退魔の小剣」が、接近を知らせてくれる。

 退避行動を行い、高度を上げる。

 これで追って来なければそれで良い。

 それでも追って来る相手には、こちらも「魔王」の名と同義のプテラノドン「ルーデル」さんの出番だ。

 Mk.3手榴弾を持たせ、敵が攻撃する前にこちらから「急降下爆撃」を行う。

 海の魔物も、爆薬の直撃では大ダメージを負う。

 かわしたとしても、至近弾として水中爆発すると、その衝撃波で海棲生物として必要な器官を損傷してしまい、これ以上攻撃して来られなくなる。

 撃って来た水のミサイルは、ユハと「退魔の小剣」の強化雷撃で蒸発させる。

 全部が蒸発しなくても、一部が気化するとその反動で衝突コースから外れる。

 第1デポでは、新戦力の召喚実験を行ってみる。

 こいつは召喚時こそ大量に魔素を消費し、意識を失いかけるも、召喚後は長時間活動させる事が可能であった。

……なぜなら、全く言う事を聞いてくれず、感覚共有も思考リンクも出来ない為、精神を消耗しないからだ。

 こいつの実験でヘロヘロになった時、ユハとマイハは色々と世話をしてくれる。

 どこで覚えたのか、温タオルで目頭の辺りを温めてくれたり、自分たちは飲まないスポーツ飲料を用意してくれたり、椅子を持って来てくれたり。

 

 このような感じで、全くもってユハとマイハがいてくれてありがたい。

 これが一人しか居なかったら、恐竜を召喚し、荷物を運びながら警戒も行い、飛行船の操縦も行いながら対海中戦闘も行う羽目になっただろう。

 運転を交代してくれる人、戦闘補助をしてくれる人、索敵をしてくれる人、休憩中も代わりに監視をしてくれる人……チームというのは実に有難いものだ。


 第1デポから北に真っ直ぐ行った対岸に第2デポを築けた。

 そこから海岸線沿いに北北西に進み、500km離れた場所に第3デポを作る。

 500kmという数字は、飛行船墜落時に最寄りの集積地に辿り着ける事を考えて決められた。

 500kmは歩くには遠いが、来人ならば恐竜召喚によってその上に乗れば、とりあえず1日以内に辿り着ける距離になる。

 ここにまた大量の物資を送って、十分な備蓄が出来たら、その約500km先に第4デポを作る。

 こうして幾つもの中継地を設置し、最終的には第8デポまで設営された。

 第8デポは、ベースキャンプからはおよそ6,000kmも北となった。

 既に赤道も超えている。

 ここはもう北半球である。

「思えば遠くに来たものだ……」

 ここは気候がまるで違う。

 湿潤で森林も多かったベースキャンプ周辺と違い、ここは大分乾燥している。

 大木はなく、草原と少数の樹々がある程度だ。

 飛行船の窓から見たが、西の方には砂漠も広がっている。


 来てみないと分からない事もあるものだ。

 ユハとマイハは

「なんか肌がヒリヒリして痛い」

「眩しくて目が痛い」

 と言っている。

「その服、気に入ってるようだけど、ここは埃が立つから着替えたら?」

 来人がそう言った為、2人はブーブー言いながらも自我が芽生える前の服に着替えた。

 すると、目が痛いとか肌が痛いとか、多分紫外線の問題であろう障害が解消したのだ。

「この服着てると、随分楽になる」

「うん、眩しいのも感じなくなった」

(何事にも理由ってのはあるものだな)

 ずっと疑問を抱いていた。

 自我が無く、恥じらいも無い筈の有翼人が何故服を着ていたのか。

 温度調整や防御の為だとばかり思っていた。

 だがこの服は、自然の猛威から彼女たちを護る魔法の服だったのだ。

 ただの繊維の集合体である地球の衣服と違い、デザインなんてものは無いが、実に異世界に合った服だったのだ。


「それ、どうやって作るの?」

「さあ?」

「気づいたら出来ているよね」

「ああ、そっちもそうなんだ」

「そうそう!」

 どうも、成長に合わせて次第にきつくなる。

 すると羽毛の抜け落ちが激しくなる。

 その羽毛は掃除とかせず、家の中に溜まっていく。

 気づいた時にはその羽毛が集まって、衣服に姿を変えている。

 それは丁度体に合ったサイズとなっているそうだ。

(やはり異世界なんだな。

 地球の別の可能性だとか言われても、俺が生まれた地球とは色々違うんだ)

 改めてそう思わざるを得ない。


 なお、自分の分も作れないか聞いてみたが、そもそもどうやって作られるのか分からないし、自分のサイズの服しか作られないから、無理なようだ。

(俺用の魔法の服とか有ったら、随分便利なように思えるのだが)

 とりあえず彼女たちの抜け落ちた羽毛は、捨てずに貰える事になった。

(なんか、ライトは変態だよね)

(そうそう、女の子の抜け毛を集めてどうするんだろ?)

 ひそひそ話をしてやがる。

 趣味でそうするんじゃないって言いたいが、何か藪蛇になりそうだから黙っておく事にした。


 さて第4デポはサバンナからステップ、砂漠地帯に入った場所に作られたのは確かだ。

 ユハとマイハは魔法によって保護される服に着替えたから良いが、地球人の来人はそうはいかない。

 砂漠用の装備にする必要があるだろう。

 この感じでは水が全然足りない。

 また、魔法の加護が期待出来ない来人は、日焼け止めやサングラスも必要だろう。

 服も日本の日常服ではなく、アラブ人とかベドウィン族が着ているような服が合っているように思える。

 靴も、熱せられた岩砂漠を歩ける、底が厚くて頑丈なものが良い。


「デポ作りという準備は終わった。

 ベースキャンプに戻って、旅の支度を整えるよ」

 来人の言葉に、ユハもマイハも首を傾げる。

「じゅんびって何?」

「今までのは旅じゃなかったの?

 何回も行ったり来たりしていたけど」

「このまま行けばいいんじゃないの?」

「どうして荷物ばっかり運んでいるの?

 行った場所には行った場所なりのものが有るよ」

 どうも往復しまくった事で、もういいんじゃない? 先に進もう! って気分になっている。

 先に進む為の物資集積なのだが……。

 この2人には極地法を説明しても無意味だろうなあ……。

 そこで来人は2人に合った説明をした。


「着替えてもらったし、今の服は便利だけど、別の服も着たくないかい?」

「着たい!」

「もちろん!」

「着替えた服はここの場所に合って無かったよね。

 こっちの場所でも合った服を探してみない?」

「探す!」

「そんなのが有るんだ!

 早く教えて下さいよ~」

 2人はベースキャンプに戻る事を承諾した。

 この2人は群れにはもう戻れない。

 保護しなければ……と思っていたが、異世界の旅で極めて重要なチームメートになってくれた。

 2人の協力がないと、ここまでのデポ設営でも苦労しただろう。

 現地協力者が居ると居ないでは、ここまで進捗に差が出るものか。

 彼女たちに気分良く協力して貰いたい、その打算は確かにある。

 だが来人はそれとは別に、彼女たちに打算無しのお礼、いや堅苦しいな、プレゼントとか楽しい遊びとかをしてみたいと思うようになっていた。


 何にせよ、ベースキャンプに戻って最終的な支度をしよう。




 ベースキャンプ及び第1デポの中間辺りにある有翼人の村。

 そこで瞑想していたヨハネス・グルーバー族長は目を開く。

「しかし、こんな短期間でもうあんな場所まで行けたのか。

 異世界人はやはり恐ろしいな。

 来る度に技術が上がっておる。

 さて、この先如何しようものか……」

 そう呟くと、何処かへ去って行った。

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