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謎の遺跡

 物資を補充し、来人たち一行は西に向かった。

 地図情報が完全ではない為、途中迂回ルートも取るが、基本的には真西に進路を取る。

 以前にプテラノドンの飛行で撮影した限界まで行き、そこに中間基地を作って、改めて新大陸への道を探る。

「行ってみれば知っているかもしれない」

 とはケンタウロスたちの言である。

 まずは西へ西へ進んで行こう。


 この道は、北へ調査していた時と大して変わらない。

 出て来る魔獣もドラゴン類、グリフォン類、Xコンドル類、他のケンタウロス族、他の有翼人たちと見慣れたものばかりだ。

 森では魔蟲をよく見かけたが、ユハが族長から貰った「退魔の小剣」が虫よけの効果も発揮し、蟲の煩わしさとは無縁であった。

 サソリとか毒アリといった、地球でもよく知られた虫がいる為、こいつらに刺されないだけでも十分有り難い。


「ユハ?」

「……何ですか?」

 心なしか顔色が悪いユハ。

「具合が悪いのか?」

「ううん」

「何か悪い気配でも感じるのか?」

「ううん」

 両方否定する。

 それにしては、西に進むのを望んでいないようだ。

「どうしたんだ?」

「分からない。

 どうしても頭の奥の方で、行ってはいけないって声がして、気持ち悪い。

 なんだろう、いけない事をしている気分で……」

 後ろめたいという感覚はまだ分からないようだ。

 有翼人は皆そうなのか?

 マイハに聞いてみる。

「マイハは西に進むと、何か不安とか変な感じを覚える?」

「え?

 何も感じませんよ」

 どうもユハたち、この辺一帯の有翼人のみの問題かもしれない。

 そう言えば、西に進む程、有翼人の姿を見なくなっている。


「張遼」

「はっ、何用でしょうか、我が君」

「ケンタウロスたちも、この先に何も感じないんだよね?」

「はっ、別段何も」

「この先って何か在るの?」

「さて?

 森林や草原や岩山が広がるのみ。

 別段変わった物は無いかと存じます」

「ふー-ん……。

 張遼、君はユハだけがこの先を嫌がる事についてどう思う?」

「さて、わしは有翼人ではありませぬゆえ、よく分かりませんが」

「何か、ユハだけでなくこの一帯の有翼人のみ嫌がっているように思えるんだけど」

 ここまで言うと、張遼は少し考える。

 そして口を開いた。

「もしや、精神支配の影響ではありませぬか?」

「精神支配?」

 張遼の概念を、来人の脳が翻訳するとそうなった。

 張遼が説明を続ける。

「我等、群れで生きるモノには長の命令は絶対です。

 しかし、時としてはぐれた個体が、己の判断で動かざるを得ない時が御座います。

 その時に、やってはならぬ事、こうすべきだという事を、予め共有しておきます」

 それは幼き子であっても同様。

 例えば、尾を上げている毒虫には近づいてはならぬ事。

 例えば、泡の立つ泥には足を踏み入れてはならぬ事。

 例えば、敵に追われた時はあえて崖を飛んだり下ったりして逃げる事。

 これはその種族の本能ではない。

 それぞれの集団で、文化のように伝わっている。

 文字や口頭での教育が存在しない彼等は、それを思念で共有する。

 その最上位の支配者が、その群れの長という事になる。


「という事は、上の存在が西には行ってはならない、と禁じたから皆それに従っていると」

「御意」

「じゃあ、ユハはかなり苦痛なんだろうね」

「恐れながら我が君。

 わしもそうなのですが、自我を得ると比較的それからは自由になります。

 だからこそ、名付けによる自我の目覚めは統制に不要だと、今になってそう思います。

 ユハ殿はその点、もう族長の支配からは逃れているはずです。

 しかし、今でもあのように嫌悪感を持つというのは、余程強力な支配であったのか……。

 それと、支配はその群れのみに及ぶものです。

 この辺一帯の有翼人全てに影響するというのも、中々有り得ない事です」

 来人は、ユハのかつての長であった、ヨハネス・グルーバーという有翼人の事を思い出していた。

 異世界人の中で、異常とも言える知識の持ち主。

 今まで見て来た中で、あの人だけ明らかに異質。

 ユハに与えた「退魔の小剣」というアイテムも、ちょっと不可思議だ。

 どうやって作った?

 この異世界で、あのような武器を持つ者に今まで遭った事がない。

 新大陸には居るのか?

 疑問は尽きない。


 やがて一行は、最初の目的地に到着する。

 ここはベースキャンプから翼竜の高速飛行で半日の距離、つまり上空調査の限界点である。

 空からは半日で行けたが、原付バイクで10日程かかった。

 信号は無いが、代わりに整備された道も無い。

 日本製の、東南アジア諸国でも使用されているタイプの、異常なまでに走破性の良い原付バイクだから故障もせずにここまで来られたようなものだ。

 一まずここに中間基地を作る。

 中間基地といっても、テントだ。

 一旦ここに留まり、次の道を探そう。

 原付バイクは、帰りの燃料と共にここに置いて行く事にする。


「ルーデル、ハルトマン、マルセイユ!」

 プテラノドン3羽を同時に召喚。

「偵察を頼む。

 それぞれ別方向に飛んで欲しい」

<はっ>

<了解>

<拝命します>

 3羽は飛び立つ。

 感覚共有をしているから、1時間したら引き返させる必要がある。

 3羽同時の感覚共有は相当な負担だ。

「マイハ」

「はい」

「君にも偵察を頼みたいけど、大丈夫?」

「はい、行きます!」

「ユハは……」

「ごめんなさい。

 やっぱり気持ちがモヤモヤしてダメ……」

「分かった、無理強いはしないから。

 張遼」

「はっ」

「陸上からもこの辺り一帯を調べて欲しい。

 何か分かったらすぐに知らせて下さい」

「御意!」

 こうして中間基地から調査隊が放たれた。


(距離にして東京から広島までに相当。

 日本に居た時だって、広島なんて行った事が無い。

 どこに何があるか分からない。

 この先、地図も無いし、調べない事には何も出来ない)

 来人はテントの中で横になった。

 感覚共有のせいで、黙っていても結構精神が削られる感じがする。

 ちょっとでも長持ちさせる為に、寝転がって楽な態勢でいたい。


 やがて、プテラノドンの行動半径ギリギリの所から、遠くに海と地峡が見えた。

 そこしか西に進む道が無い。

 こうして1日進んでは空と陸から偵察を出して進路を確認し、西へ西へと進んでいく。

 そうして出発から1ヶ月をかけて、かなりの距離を走破した。

「この大陸はやはり相当に広い」

 ここまでにして一旦ベースキャンプに戻ろうか。

 そう考えていたある日、視覚共有している上空のプテラノドンの視界に不可解なモノが見えた。

 それは、最初は岩山かと思われた。

 しかし、どうもそれは人工物のようである。

 感じとしては、カンボジアのアンコールワットに似ている。

 アンコールワット同様、密林に隠れていた。


 その日、偵察隊が全員戻って来た後で、報告を聞く。

 誰もこの近辺でおかしなものを見ていない。

 となると、プテラノドンが見つけた、謎の人工物が唯一の不審物だ。

 来人はその事を話すが、誰もそんな人工物について知らなかった。

「ここから西? ちょっと北だから西北西、に60から100km程離れた場所だ」

 張遼が難しい顔をする。

「我が君。

 そこは難しいかと」

「どうして?」

「まず、密林が危険なのです。

 樹上より猛獣が襲って来ます」

 きっとこの異世界の事だから、六本足のジャガーのようなのが棲んでいるのだろう。

「そして、実は我々もそちらに行った事はあるのですが、濃い霧のせいで深入りはしませんでした。

 いつ行っても深い霧に包まれていて、我々はそこが世界の終わりだと思っておりました」

 だが、謎の人工物は確かに存在する。

 この自然の中で野営するより、その人工物の方が中間基地として向いているかもしれない。

 文明に慣れ親しんだ来人はそう考え、移動する事に決めた。


「どうも危険みたいだし、気乗りしないなら、無理に着いて来いとか言わないよ」

 気を使ってそう言ったが、案の定逆効果となる。

「臆したと思われるのは心外。

 この張遼、我が君のお供仕る」

「ライトから離れる方がもっと嫌だからね!

 私はライトが嫌だって言っても着いて行く」

「私は特に何も感じないし、はぐれるのも嫌だから一緒に行きますわ」

 ケンタウロスの群れの中からは戦士のみが付き従い、残りは中間基地周辺で野営して留守を任せる事にした。

 こうして密林を進む。

(異世界で身体能力が異常向上していなければ、とても先には進めないな……)

 そう感じる道なき道であり、走破性が高くなった自分の身体と、ユハの敵を感知する「退魔の小剣」とで樹上の猛獣を察知しながらでなければ、とても困難であっただろう。

 適度に開けた場所ではケンタウロスに乗せて貰い、高速で移動する。

 急な崖や沼地なんかは、ケンタウロスを下りて慎重に進む。

 やはり居た、六肢の猛獣は鉄砲の音で威嚇し、追い払う。

 この地にはヒルも多数いるが、「退魔の小剣」の効果か近づくと逃げ出していった。

 3日程密林を進む。

 そして、やはり張遼が言っていた霧がかかる場所まで到達した。


「こういう時は私の出番ね」

 マイハが霧の上に出て、一行を誘導する。

 来人は護衛にプテラノドンをつけてやった。

「私を守ってね!」

<それが任務だ。

 任せるが良い>

「堅苦しいわねえ」

 段々とマイハも女性らしさというか、チャラい感じに変わって来た。

 仕事ぶりは変わらないから、それでも何の問題も無いが。


 はぐれないようにしながら、一行は霧の中を進む。

 やがて霧の立ち込める一帯を抜けると、人工物は肉眼でも見えるようになっていた。

「あれが……」

「不覚にも、わしはあのような場所に、あのような物が在ったと知らなかった……」

「何だろう?

 確かに嫌な感じは抜けないんだけど、何か別な感じもする。

 何と言うか、ママ……いやおばさん?

 いや、何か知っている人がそこに居るような感じ」

「よく分からんけど、やはりあの遺跡には何かが有るようだね」


 遺跡と口にした。

 横の広がりはアンコールワット、中央部の高いものはメキシコのピラミッドのようである。

 ハッキリ分かった。

 人工物と言って問題無い。

 来人は写真撮影をする。

 そして中に入ろうと歩を進めた。


「待って!」

 ユハが制止する。

 彼女のレーダーである「退魔の小剣」が、言わずとも分かるくらい鳴っていた。

 敵が居る!!


「不届き者め。

 何人もこの聖地に立ち入る事を許さん!」

 その声の先を見る。


 人類?

 いや、腕が四本ある。


「我が名はソムサ。

 聖地の守護者である。

 どうやってここが分かったのか知らぬが、そこの四肢動物(テトラポーダ)よ、黙って帰ればそれで良し。

 さもなければ命を貰う」

 来た甲斐があったようだ。

 明らかに知的生命体。

 しかも名持ちで自我もある。

 敵意を向けて来ているから、それをどうにかしないと。


 来人はこの四腕人と交渉をしてみる事にした。

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