新たなる力
休養十分となり、来人とユハ、そして護衛のケンタウロスたちがベースキャンプを出た。
地図が出来た事も有り難いが、ケンタウロスたちは基本的にこの大陸の事は色々知っている。
地図自体は読めないようだったが、高空写真の地形を見て、大体どう行けば良いのか分かったようだった。
道案内がいる事で、随分と移動も楽になる。
「基本この辺りには有翼人たちしか居ません」
張遼が伝える。
従って、これを襲う猛獣も今までと大して変わらないそうだ。
つまりはドラゴン、グリフォン、Xコンドル。
単純にドラゴンやグリフォンと呼んでいるが、これらも複数の種類に分かれている。
進路にある浅い川では、リバードラゴンが水浴びをしていた。
この種は地竜と同じで、羽根は有るが短く退化していて空は飛べない。
火とは逆で、氷の吐息を使う。
だが魚食性の大人しい種で、刺激しなければ襲って来る事は無いそうだ。
今までの来人だったら、接近するだけで異世界生物に不快感を与える思念波を無意識に放っていたから、大人しい種でも攻撃をして来た。
それで余計な戦闘が発生していた。
だが訓練でレベルアップした来人からは、そういう不快な念は放たれない。
緊張しつつリバードラゴンの近くを通過するが、ドラゴンはちらりとこちらを見ただけで、あとは何も無いかのように無視をするようになった。
「リバードラゴンは無害なんだね」
「御意。
ドラゴン全てが危険ではありません。
ドラゴンの中には草食のものもおります。
我々は時にそれらを狩って食糧としていました」
この世界の生態系で、ドラゴンとは恐竜のようなものなのだろう。
空、大地、河川、湖沼、海洋とあらゆる地形に住み着いている。
その中で危険なモノは……
「ねえ、ライト……。
『退魔の小剣』がカタカタ鳴っている。
危険が近づいて来ているよ……」
「この辺りは軍隊地竜がいます。
奴等は獰猛です。
我々なら全力で走れば振り切れますが、このように荷物を持っているとなると……」
「よし、戦って追い返そう。
奴等はどんな生物なんだ?」
「はっ!
我が君が使役する四肢竜そっくりで御座います。
あのような強き爪こそ有りませんし、羽根ではなく翼が背に有りますが飛べません。
そして、我が君の四肢竜のように群れで襲って来ます」
集団での狩り型か、厄介だなと感じた。
「戦って、勝てるか?」
「我が君にいただいた力と、この武器が有れば必ずや」
「よし、試してみようか」
こうして来人たち一行は、アーミードラゴンの群れの襲撃から身を守る戦いに入った。
「ガイ、オルガ、アッシュ、頼むぞ」
<任せろ!>
<なんか、前よりも体に力が入る気がするな>
<ああ、なんか確かに自分の存在感が増したような気がする>
召喚した瞬間に、ふっと意識が遠くなるような感覚、それが軽くなったように思う。
「ユハ、君も特訓の成果を試すんだ」
「え? 嫌だ」
この子は相変わらずだ。
「広域を攻撃出来れば、相手を殺さずに追い払えるかもしれないよ」
「そう?
分かった、やってみる」
基本、ユハは殺戮を好まない。
剣の扱い方こそ学んだが、自ら好んでそれをひけらかさない。
ファッションとかは気に入ったらすぐに見せに来るのに、戦闘技法は一切見せたがらなかった。
だからアーミードラゴンを、殺さずに追い返すのならやってみて良いと言う。
「来た!
左に3頭」
「右にも3頭」
「後ろにも3頭、回り込まれていますね」
「我が君、如何なさいますか?」
「多分、前が空いているって事は、前に追い込んでより強力な奴の所に追い込む気だろうね」
「なるほど。
では、前には向かわないと?」
「いや、前に向かうけど、その前に周りのこいつらを片付けよう。
前にいる奴を見てみたいけど、周囲の奴等に囲まれた状態だと厳しいからね」
「分かりました」
「ケンタウロスたちは後ろを頼む」
「御意!」
「ユハは左の3頭を追い返して。
出来るね」
「分かんないけど、やってみる」
「ガイ、オルガ、アッシュ、3頭ずつの戦いだけど、いけるね」
<おいおい、タイマンで俺が負けるわけないだろ>
<やってやるさ>
<終わったら、喰っていいな>
「喰っていいぞ。
喰って力を蓄えな」
<待ってました!>
こうして左右と後方のアーミードラゴンを迎え撃つ。
アーミードラゴンのサイズは、ユタラプトルとほぼ同じくらい。
来人は陣の中央で小銃を握った。
走りながらでもないし、咄嗟の場合でもない。
こういう時は拳銃を使う必要もなく、小銃の方が攻撃力がある。
中央で指揮をしながら、不利な方に加勢する態勢である。
出番は無かった。
ケンタウロスたちは弓矢を雨のように浴びせ、1頭を倒し、残り2頭は追い返した。
この矢は、練習用ではなく実戦用に地球から支給されたアルミ製の矢である。
弓もケンタウロスの腕力に合わせて硬めに弦を張っていた。
異世界では見られない強力な投射攻撃に、先頭を進んだアーミードラゴンはあっさり打ち取られた。
ユハも3頭を簡単に撃退する。
以前のような素人握りではなく、両手持ちで退魔の小剣を高く掲げる。
そこに雷撃が走り、青白く発光した小剣には雷のエネルギーが蓄えられたのがよく分かる。
「えいっ!」
必殺技名は無いようだ。
袈裟懸けに振り下ろした小剣から強化された雷撃がほとばしる。
それはアーミードラゴンに命中はしなかった。
その周囲に着弾し、樹を一本爆音と共に倒す、雷撃が走った場所からは土や草が焼けた臭いと煙を立てさせた。
それを見たアーミードラゴンは、か弱い声を上げながら逃げていった。
ユタラプトル3頭は圧倒的であった。
(あいつら、ほとんどホバー走行のような高速移動だな……)
一蹴りでかなりの速度を出し、地を滑るように走る恐竜たち。
高機動型ユタラプトルに、アーミードラゴンは翻弄される。
<ほらほら、そんなものか?>
<遅いぜ、まるで止まってるようにしか見えないぜ>
<知ってるか、弱いモノはエサになるのがこの世の仕組みなんだぜ>
あっさりアーミードラゴンは倒され、恐竜たちのお食事タイムとなる。
「ユハ……見ない方が良いからね。
で、張遼!」
「はっ、ここに」
「狩ったドラゴンは君たちの食糧になるから、それは良しとして、張遼は俺と一緒に前に来てくれないか?
アーミードラゴンの親玉を見てみたい」
「御意。
ではライシャワー、マックイーン、お前らが群れをまとめろ。
シンボリルとスズカは我と共に来い」
「ははっ!」
「ユハも一緒に来てくれ」
「うん、置いて行かれたら逆に怒っていたよ」
こうして来人、ユハ、ケンタウロスから3頭が前進する。
「居た!」
「凄くカタカタ鳴っている」
「うん、分かるよ。
あれがボスだ」
森を抜けるところに、ちょっと開けた場所が在った。
そこにはさっきまでのアーミードラゴンより2回り程大きなモノが2頭居て、こちらを睨んでいる。
「怒ってるよ」
「そんな感じだね。
俺にも殺気が分かる」
群れを率いるボスだけあって、仲間を殺られた怒りはあるが、怒りに任せて行動せず、こちらの動きを伺っている。
「ちょっと脅してみる」
来人は小銃を撃ってみた。
銃の扱いは相変わらず苦手だが、前よりもずっと落ち着いて操作出来る。
ボスドラゴンの前の岩が弾ける。
発砲の轟音に、後方の森から鳥たちが驚いて飛び立つのが聞こえる。
ボスドラゴンも驚いたようだが、それでも相変わらず殺気を向けてこちらを伺っている。
やがて2頭は左右に分かれ、挟み込むようにこちらににじり寄って来る。
(食事は済んだか?)
放置して本能に任せているユタラプトルたちに思念で話しかける。
<まだだが、ずっと喰っていると1日がかりになるぞ>
(一回、戻って貰っていいか?)
<喰い足りないが、良いだろう。
どうせ喰ったって腹が膨れる訳じゃないしな>
どういう事だろう?
そう思いながら、ユタラプトルたちを化石に戻す。
「こいつを試してみたかった」
そうしてお守りとして持っていたフクイラプトルの化石を放った。
この恐竜に付けた個体名はアレ。
フクイラプトルだけに越前の英雄の名前だ。
「出でよ、宗滴!」
来人の意識が一気に遠ざかる感じがする。
だが、以前と違って持ちこたえられる。
ユタラプトルよりも大型の恐竜が顕現する。
全長はユタラプトルが5~7メートル、アロサウルスの仲間のフクイラプトルの成体は8.5メートル級と変わらないように見えるが、鳥に近く尾が細くて長いドロマエオサウルス科のユタラプトルと違い、フクイラプトルはもっとガッシリした体格である。
より強力な恐竜が姿を現した事で、にじり寄っていたアーミードラゴンのボス2頭は怯む。
<去ね!
主らでは儂に敵わぬと分からぬか?
群れを束ねるモノなら、身の程をわきまえよ>
フクイラプトルのソーテキから思念波が飛ぶ。
アーミードラゴンのボスからも、原始的な感情が出ているのをユハが感じ取った。
「あいつら、足4本はエサだと思っていた。
それなのに、明らかに自分たちより強いから、悔しがっている。
でも勝てないと分かって、……後退するみたい」
アーミードラゴンたちは後ずさり、間合いを取ったのを確認するといっそ清々しいまでに背を向けて全力で走り去っていった。
「ふう~……」
来人は倒れるように座り込む。
以前のように数秒で気を失う事は無かった。
だが、フクイラプトルが存在しているだけで、意識が徐々に遠くなっていくのを感じた。
前よりはマシだが、やはりまだ召喚するには来人のレベルは低いと見える。
光の国から来た銀色の宇宙人と同じくらいの時間、顕現出来たら良いかもしれない。
「でも、あいつらより明らかに強い奴を出して良かった。
戦わずに済ませられた……」
フクイラプトルを元の化石に戻し、回収しながら呟く。
この世界でも、無駄な殺戮をしなくて済むならその方が良い。
この世界の存在であるケンタウロスたちが狩りをするのは良いが、地球から来た生物が異世界の生物を殺すのは、必要が無い限りはしない方が良いだろう。
「2つ試す事が出来た。
今の俺の召喚能力の限界。
そして、明らかに強い奴なら戦わずに済ませられるかの確認。
俺のレベルはまだまだ低い。
もっとレベルアップした方がこの先楽になるだろう」
初めて見つけた化石であるフクイラプトルの牙を握りしめながら、来人はそう思ったのだった。




