表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/90

異世界の歩き方

 地球の人類である安鳥(あんどり)来人(くると)は、地球から見れば異世界にあたるこの地で、初めてまともに意思疎通が出来る有翼少女のユハと出会った。

 ユハと名付けて、やっと意思疎通が出来るようになったのであるが。

 このユハは、その羽根と足に傷を負っていて、移動が出来ない。

 この子を仲間たちの元に送り届けなければならないなあ、来人はそう思った。

(だが、知恵の実を食べてしまったこの子は、もう仲間たちと一緒には居られないかもしれないなあ)

 不安はある。

 だが、来人の世界では中学生から高校生くらいの少女を連れ回すとか、ドラゴンに襲われた場所に放置とかも問題がある。

 まずは仲間たちの元に連れて行こう。

 何かあっても、それからだ。


 来人は戦闘用の恐竜であるユタラプトルの3頭を元の化石に戻した。

 ダイナマンサーの能力には制限がある。

 一度に召喚出来るのは3頭までである。

 召喚している間、意識が遠くなるような感覚に捕らわれ、限界を過ぎると気を失ってしまう。

 気を失うと、召喚している恐竜も消滅する。

 大型の恐竜ほど、精神力を消耗してしまい、長時間維持出来ない。

 以前、依頼主である日本政府の伝手でティラノサウルスを召喚しようとしたが、出来なかった。

 大型になり過ぎると、現時点では召喚・使役が出来ない。

 まあ将来は分からないが。

 3頭よりも1頭の方が長時間顕現出来る。

 恐竜の中でも、賢いと言われる種の方が意思疎通しやすい。

 だから高度な戦術を使う場合は、ユタラプトルなんかを召喚するが、人を運ぶなら左程頭が良くなくても良い。

 来人はプロトケラトプスを召喚した。


 トリケラトプスも召喚可能なのだが、現状のレベルでは3分しか顕現出来ない。

 それでは移動用に使役するには難がある。

 そこで見た目的にはそっくりだが、全長12メートルのトリケラトプスに対し、2メートルと小柄なトゥラノケラトプスの化石を借りて来ている。

 この恐竜を召喚し、ユハを乗せてくれないかと頼んでみた。

「ああ……はい……」

 従順なのだが、反応的には面白くは無い。

 個体名をプリウスとしたから、乗り物的な感情になってしまったのかどうか。

 とりあえず温厚だし、低燃費で輸送出来るから重宝する恐竜である。


 その道すがら、来人はユハと会話をする。

 来人はこの世界で活動可能な、現在唯一の人類であった。

 どうもユハの世界の生物が、来人たちの世界に行くと数秒で死んでしまう。

 逆に来人たちの世界の生物が、ユハの世界に行くと数日で死んでしまう。

 とりあえず数日は生きられるようなので、人類は様々な装備で長期間活動可能にならないか試してみた。

 だがダメだった。

 分かったのは、ユハの世界に来ると細胞の活動が異常に活発化し、筋力が増強する事である。

 それで心臓の脈動も強くなり、結果血圧が異常に上がる。

 それで早ければ数時間で脳出血を起こしてしまうようだ。

 これは対放射線の防護服を着たりしても防げない。

 ただ一人、来人だけが体調に一切の異変なく行動出来たのだ。


 細胞の活性化とそれをもたらす何かは、良い影響も与えている。

 この環境に適応している来人に限らず、来た者は全て一様に身体能力が上がるのだ。

 来人は地球上ではごく平凡な二十歳の男性である。

 あらゆる身体能力は平均程度であった。

 それがこの世界では、オリンピック金メダルを通り越し、ちょっと到達出来ない数字を叩き出している。

 100メートル走では7.8秒であった。

 人により得意不得意があるが、大体50%はプラスになっているようだ。

 だが、持久系は問題が出る。

 適応している来人以外は血圧が上がり過ぎてしまい、かえって持続時間が減ってしまう。

 来人の場合、心肺能力も強化されたのか、スタミナも増えた。

 その上、細胞活性の恩恵か疲労や傷の回復も早くなっている。


 だからだろう。

 使役する恐竜も、地球上で生きていた時代よりも恐らく大幅に能力が上がっている。

 ユタラプトルたちも、本来なら羽ばたき、上空から火を吐くドラゴンを攻撃出来なかっただろう。

 だが驚異的な身体能力向上で、信じられない程の跳躍を行い、空にいるドラゴンを上から襲ったのだ。

 身体能力の飛躍的向上をもたらす「何か」は、この世界の生物にも恩恵を与えている。

 ユハにしても、倒したドラゴンにしても、これまでに遭遇した他の飛行生物たちも、地球上では到底空を飛ぶ事なんて出来ない大きさの翼であった。

 重力はやや小さく、気圧は少しだけ高いが、地球と大きくは違わない。

 それでも飛行出来るのは、非常に軽いからだ。

 ユハを助けた時に体を持ち上げたが、栄養失調かと思うくらい軽かった。

 ゆえに翼を羽ばたかせる筋肉も少ない。

 筋肉の出力効率が良いのだから、マッチョにならずに空を飛ぶくらいの羽ばたきが出来るのだろう。

 筋肉が少なく、軽量である。

 これは弱点としては、防御力の無さに繋がる。

 本来、ドラゴンなんていうのは物凄く頑丈な肉体で、恐竜の鉤爪で倒せるかは疑問であった。

 しかしこの世界のドラゴンは、地球からの訪問者・来人から見たら弱い。

 鱗は割と強靭なようだが、それを貫いた先は弱いようだ。

 軽量な為に骨も弱く、恐竜の顎の力、それも増強されたものなら噛み砕ける。

 まあ、地球から来た存在基準だとそうなのだが、こちらの世界の生物からしたら、恐らく生態系の頂点の方に君臨する魔獣なのだろう。


 ユハの世界と来人の世界の違いは、生物に与える影響以外にもある。

 電子機器の誤作動、ノイズの多さが非常に多くなるのだ。

 それは遠隔操作が出来ないレベルである。

 精密なもの程、異常が増大する。

 もしも電子機器が正常動作するなら、来人以外の人間でも活動出来る時間内で中継基地を作り、そこからドローン等を飛ばして調査を行えば良かった。

 だが遠隔操縦は上手くいかず、記録情報もまともに取れない。

 結局、特異体質とも言える安鳥来人という個人に、どうにか記録可能なアナログ機器を持たせて、この世界の調査をさせているのだった。

 この辺の細かい経緯は、後々語るとしよう。


 ユハは、来人の事を「ライト」と呼んでいる。

 そちらの呼び方の方を気に入ったようだ。

 彼女は来人が何者なのかを知りたがった。

「俺はこの世界の住人じゃないよ」

「じゃあ、どうしてこの世界に来たの?」

「穴を通ってやって来たんだ。

 その穴がこっちの世界と俺の世界を繋げている。

 でも、どうしてそんな穴が開いたんだろう?

 人為的なのか、それとも自然現象なのか?

 こっちの世界は一体どうなっているのか?

 色々調べて欲しいって頼まれたから来たんだ」

「調べてどうするの?」

「どうするんだろうね?

 俺には詳しくは分からない」

 それは半分本当で、半分嘘である。

 日本政府は、たまたま見つかったこの穴を通った先の世界を、可能ならば領土や資源確保の地として活用したかった。

 だがこの世界は人間が長くは生きていけない。

 資源があっても、活用出来ないのだ。

 だから本音はこの地を日本領にしたいのだが、出来ないから、まずは学術調査的に調べて貰っているのである。


「ライトは私たちの世界を調べて、何か良い事あるの?」

 この問いには答えられる。

「良い仕事につける」

「仕事?」

 ちょっとピンと来ないようだった。

 というのも、来人が調査後に約束されているのは国家公務員。

 しかも異世界担当という事で、出世はしないが失業もしない、有効活用出来ない土地の監視役として生涯安くない給料を貰い続けられる職なのである。

 だから蝶々のようにフワフワと空を飛びながら、花の蜜や果実を集める生活をしていたユハには、「職業」としての公務員が伝達されても、全く理解出来ないものであった。

 だから易しい言葉と思念で伝える。

「この世界の事を調べる。

 安全だと分かる。

 そのご褒美で、一生働かなくても食べていけるようになる」

「ええー?

 働かないとダメですよ」

 ああ、この世界はそんな感じなんだ。

 ちょっと夢が壊れた感じがしたが、ユハに対しては誤解を解いておきたくなった。

「俺以外はこの世界に来られない。

 だから俺がこの世界を調べる事は、他の誰にも出来ない事なんだ。

 そんな仕事をした後だから、よくやったなって意味で、毎日ご褒美が貰えるようになるんだ」

「そっか。

 確かに危ない場所、ドラゴンとかがいっぱいいる場所で食べ物を集める人は、その分甘いのを貰えるからね。

 そんなもんなんだね」


 このユハの言葉に、来人は

(この世界にも社会のようなものがあるんだ。

 分業や、キツイ労働の対価は多くなるような、そういうものが存在するんだ)

 と考えた。

 今まで出会った者たちから情報が得られず、その者たちも自我が無いフワフワした存在だった為、もっと原始的な社会だとばかり思っていた。

 だが違うようだ。

 ユハと話す度に、ある部分では夢が壊れ、ある部分では興味をかき立てられる。

 ある部分は人類社会と全然違うし、ある部分は似ていたりする。


 ユハは名づけがされてから、よく喋るようになった。

 好奇心が旺盛になっている。

 この世界に関する知識は驚く程あった。

 どうしてそうなっているのか、聞けば大体教えてくれる。

 残念ながら、系統だった説明は出来ないようだが。

 逆に彼女が知らない、地球側の話をよく聞いて来る。

 彼女にとっても興味をかき立てる部分と、自分たちと変わらないと残念に感じる部分、更に「嫌だ」と感じる部分があったようだ。


「行ってみたいかも」

 ユハはそう言ったが、連れては行けない。

 残念な事に、この世界の生物が地球に行くと、心臓やあらゆる細胞が停止してしまい、即死してしまうのだ。

 それを伝えると、とても悔しそうな表情になる。

 段々と表情豊かになり

「可愛いな」

 と来人は感じるようになっていた。


「あ、皆のとこに着いたよ」

 ユハの仲間の住む「村」に到着した。

「村、だよな……」

 地球基準で言えば、高床式の住居が並ぶ村落であった。

 それが地球のものよりも高く、また登る為の階段も無い。

 空を飛ぶ彼女たちには不要だし、地上にいるより安全だからそうしたのだろう。

 そこは問題ではない。

 まるでゴーストタウンのように静まり返っているのが違和感の原因であった。


 だが、一人壮年の有翼人がやって来る。

 見ると頭上には輪が浮いていた。

(え? 天使?)

 来人は驚く。

 その天使長のような壮年男性は

「客人、私はこの者たちの(おさ)のヨハネス・グルーバーと言う。

 見るに貴方はこの世界の住人ではないようだが」

 そう話しかけて来た。


(名を持った存在が居たのか!)

(こちらの世界と、俺たちの地球とが違う世界だと分かる奴が居たのか!)

 来人には衝撃であった。

おまけ:

召喚、顕現可能時間。

ユタラプトル1頭を出すだけ→約6時間

3頭なら→約2時間

3頭を戦闘のように激しく使用→約10分

なので1頭だけ戦闘使用なら約30分


某ロボ超人の戦闘可能時間と大体同じ。

(つまり通常モードだと長持ちするが、戦闘モードだとあっという間に消耗してしまう)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 恐竜を使うというのはあまり見ない設定ですね。しっかり能力の縛りもあってどう物語が動いていくのか楽しみにしています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ