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戦い済んで

 午後の試合はフラッグ戦だけでなく、様々な形式で行なわれた。

 ゆき達にもなじみのある殲滅戦、少人数のキツネ役を大勢のハンター役が追うフォックスハンティング、マルタ城を舞台にした攻防戦。最後の試合はカウンター戦であった。

 

 これは自陣に交通量調査などで使う押込式のカウンターが設置されており、ヒットされてもこれを押せば何度でも復活できるというルールだ。

 撃っても撃っても敵の数が減らないので、終始壮絶な撃ち合いになりやすい。ただし復活する為には自陣まで駆け戻る必要があるから、真面目にやると体力がゴリゴリと削られてしまう。


 やがて戦い済んで日は暮れた。


 駐車場に残る車の数はめっきり減っている。

 荷物で一杯のラゲッジルームを見やり、祥子は志穂とゆきに呼びかけた。


「これで全部かしら。みんな、忘れ物はない?」

「……」

「少し待ってください。念の為、席と更衣室の確認を咲美に――」

「おっけー! 荷物もゴミもナッシング!!」

「――だそうです、祥子先生」

「はい、ご苦労様」


 バックドアが閉じられた。

 長い影を引き連れて駆け戻って来た咲美は、ゆきの顔を覗き込む。


「おーい、ゆっきー? 大丈夫かー?」

「ううう……」

「うむ、ぜんぜんだいじょばないな!」


 ゆきは疲労困憊に陥っていた。

 試合中は自分でも意外なほど動けていたのだが、終わった途端に脱力。一人では着替えすらままならないほどで、駐車場までは志穂がほとんど抱きかかえて来たのだ。


「ご、ごめんね、志穂ちゃん……」

「気にしなくていいわよ。でもここまで完全に電池切れになれるって、逆にすごいわよね」

「ゆっきー子供みたいじゃん、あははは!!」

「ううう……」

「咲美、からかわないであげて」

「反対側からあたしも支えてやろっか?」

「捕らえられた宇宙人みたくなるから、やめてよぅ……」

「仕方ないにゃあ。おじさんがおやつをあげよう」


 取り出されたのは小さめのチョコ菓子〝ミッド・カット〟だった。ウェハースが入っており、中央の溝から二つに分けられるのが特徴である。咲美はわざわざ袋を破り、中身をゆきに手渡してくれた。


「あ……ありがと、咲美ちゃん……」

「いいってことよ。備えあれば嬉しいなだぜ!」

「微妙に違うし、私のバッグに入ってたお菓子よね?」

「みんな、おっ疲れー!!」


 ぶんぶんと手を振りながら舞がやって来た。千晴と正志も一緒だ。


「あ……あい、お疲れ様でひゅ……」

「おいおい。おまえ、大丈夫かよ?」

「らいじょうぶ……ちゅかれただけ、らから……」

「うーむ、疲労で言語中枢の機能がストップ安でござるな。志穂殿、ご面倒をお掛けして申し訳ござらん」

「問題ありませんわ。この子、軽いですし」

「祥子、正志君のバスの時間があるからさ。私達はもう行くね」

「わかったわ、お疲れ様。もう暗くなるから運転には気をつけなさいよ」

「りょーかいです、今宮先生。お互い最後までご安全に!」


 挨拶が交わされている間にゆきの瞼は閉じかけていた。

 千晴は鼻を鳴らし、ゆきに顔を寄せる。


「立ったまま寝るなよ、バカ」

「あう?」

「体力ないくせにカウンター戦で頑張り過ぎなんだよ」

「らって、最後らったし……」

「別に次があるだろ」

「次……?」

「またやるんだろ、サバゲ」

「……うん」

「お、チョコ持ってるじゃねーか。食ってちょっとは回復しとけよ」

「……」


 ゆきはミッド・カットを咥え、片手を使って半分に割った。一つはそのまま咀嚼をはじめ、もう一つは千晴の口にぽんと放り込む。


「――!? な、な……!?」

「あははは! ちはるん、餌付けされてるじゃん!!」

「ゆ、ゆきっ!? あなた、意外と大胆なのね……!?」

「う?」


 きょとんとするゆき。本人的にはただのお裾分けだったのだが、こうまで思考力が低下していなければ手ずから食べさせるような真似はしなかっただろう。


「な、なるほど、ああやれば……ああっ、でもこれは私にはハードルが高い……っ!!」

「志穂? どしたの、おまえ?」

「なにやら納得と煩悶を往来しているようでござるな」

「ナチュラルにもてあそばれてるねー、青少年?」

「う、うるせーな! チョコもらっただけだろ!!」

「はいはい。んじゃ、帰りますか!」


 話を切り上げ、舞達は立ち去った。


「――吉野さんのシートベルトは大丈夫?」

「はい、私が締めました」


 祥子と志穂の会話が聞こえる。いつの間にか、ゆきは祥子の車に乗っていた。腰が深くシートに沈み、まるで身体ごと中に引き込まれそうな感覚があった。もはや睡魔に抗する術なく、車が駐車場を出る前にゆきの意識は落ちていた。

 

 結局、ゆきは自宅に到着するまで寝入ってしまい、途中のコンビニで志穂達が買い食いをした際にも目を覚まさなかった。ささやかな打ち上げに参加できなかったことをゆきは大いに悔しがる羽目になるのだが、実はそんな必要はなかった。


 これから取り返す機会はいくらでもある。ゆき達の高校生活はまだはじまったばかりだった。

「ゴールデンウィーク、終わっちゃったね。楽しかったなぁ……」

「しみじみしてるじゃん、ゆっきー」

「ずっとサバゲ三昧だったのに、しばらくできないから」

「なんで? 放課後、部活でやれるじゃん」

「――まさかと思うけど、あなた実力テストのこと忘れてない?」

「志穂がしつこく言ってたから覚えてるよー」

「じ、自信あるんだ……?」

「おいおい、ゆっきー。実力テストなんだから実力でいいんだよ。別に勉強する必要は――」

「「あるよ!!」」

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― 新着の感想 ―
[一言] お疲れ。 楽しいサバゲライフと高校生活を。
[一言] これはまたスッキリ大胆に締めましたね。 もう少しみんなの活躍を見たかった気もしますけど、だらだら伸ばす事にもなりかねないし、物語としては丁度良い具合ですかね。 誰も死なない、悲しくもならない…
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