応援
待ちかねたとばかりに正志が叫ぶ。
「うおっほぅーっ、美味そうでござる! 早く食べたいでござる! はーやくぅ!!」
「ちょっと待ってね、お兄ちゃん。咲美ちゃん、これお願い」
「はいはーい。って、あれっ?」
咲美はゆきから渡された箸と紙皿を正志にまわそうとしたが、なぜか彼の両手は既に食器で塞がっている。
「ゆっきー兄、もうカレー食ってるじゃん!?」
「屋台で買った飲み物でござる」
「いやいや、カレーじゃん!?」
「いかにも、飲み物でござる」
「ダメだ、志穂! 此奴一人で喰い尽す気だっ!!」
「あなたも大食いじゃないの。沢山あるから大丈夫よ……多分」
「フフフフ……拙者を侮ると後悔するでござるよ!!」
「あたしもここは譲らないぜ! いただきまーすっ!!」
なし崩し的に食事がはじまった。正志と咲美は言うに及ばす、全員が旺盛な食欲を見せた。散々動き回った後であり、すっかり空腹になっていたのだ。正志は唐揚げを三つまとめて口中へ放り込む。
「むむっ、これは美味なり!! 下味がしっかりつけてあってグー! でござるな。この唐揚げは志穂殿の作でござろう?」
「え? ええ、北海道風のザンギですが……」
「あははは、わたしのレパートリーはお兄ちゃんに把握されてるからね」
「ハンバーグもソースがまろやかでいい味ね! 桜井さん、これも手作りなの?」
「はい、母から教わったんです。ソースの隠し味に味噌が入ってて――」
「千晴くん、春巻き食べる? わたしが作ったやつだけど」
「ああ」
「あたし、次はエビフライにしよーっと!」
「あっ、ちょっと待ってね。タルタルソースがあるから」
「さすがゆきちゃん、準備万端だね~。現役JKの乙女感よ! まばゆい!!」
会話を弾ませながらどんどん箸は進み、お弁当は見事に平らげられてしまった。
「ふぃーっ、ご馳走様! 志穂ー、お茶ある?」
「はいはい、さすがに満腹みたいね。正志さんは足りましたか?」
「うむ、ちょうどいい塩梅だったござるよ」
「本当? お兄ちゃん」
「無論でござるよ。午後の試合を考慮し、ここは腹八分目に抑えるのがベスト!!」
「本当じゃなかった!?」
「正志君、そろそろ行こっか」
「おっと、そうですな。かたじけないでござる、舞殿」
舞と正志は揃って腰を上げた。
「おばちゃん、吉野先輩とどっか行くのか?」
「わかった、締めの飲み物を買うつもりだぞ、こいつら!!」
「ええっ、お兄ちゃんはわかるけど古館さんまで!?」
「あっはっはっ、違うわよ。作戦会議よ、作戦会議!」
レッドチーム三連勝の後、イエローチームが三連勝し返し、最後は引き分けというのが午前中の対戦成績だ。最初の勝利の後、イエローチームの参加者同士はお互い声を掛け合うようになった。命令系統がないサバゲでも積極的な情報交換をすれば、相互連携が機能しやすい。現状の勢い的にやや劣勢なのは、むしろレッドチームの方であった。
「故に有志が集い、作戦会議を開くこととあいなりまして候」
「貸し切りならともかく、定例会でこういう流れは珍しいわよね~」
「イエローチームがすっかり手強くなりましたからな。まるで別チームでござるよ。志穂殿は参謀としても極めて優秀でござるな!」
「い、いえ。チームの皆さんが協力してくださっているから……」
「確かにイエローチームはまとまりがよくなったわよね。みんな吉野さん達に触発されたのね、きっと」
「わたし達にですか?」
「大人はね、頑張っている子は応援したくなるのよ!」
戸惑うゆきに微笑みかけ、祥子は席を立つ。
「ありゃ? 珍しいね、祥子も参加するんだ?」
「まさか。私は更衣室に行くだけよ。次のコスプレの準備があるの」
祥子はベンチの下からダッフルバッグを引っ張り出す。どうやらレイラとは別の衣装が入っているらしい。
「超期待でござるな、デュフフフ!!」
「ま、祥子の遊び方はそっちだよね」
「作戦が決まったら教えて頂戴。キャラに反してなければ協力するわ」
「おっけーでございますよ、今宮先生!」
「じゃ、吉野さん。後はお願いね」
「あ、はい!」
大人達が去ると、ゆき達は誰からともなく額を寄せ合った。
「お願いされちゃったけど、どうすればいいかな?」
「祥子ちゃん先生ら、好き放題エンジョイしてるだけじゃん」
「おばちゃんはいっつもあんな調子っすけどね」
「お手本ということでいいんじゃないかしら。わたし達の顧問とインストラクターと先輩ですもの」
「そうだね! ええと、わたし午後はセミオート縛りでやってみようかな」
「えっ、なんで? フルオートで撃ちまくった方が楽じゃん」
「なんかね、モッドTの扱いが雑だったんだよ。9Lほど馴染んでないせいもあって、フルオートに頼っちゃっていたの」
「あの、志穂さん。俺単独行動いいっすか?」
千晴は待ち伏せからの狙撃をしてみたいらしい。意図を解すると志穂はタブレットPCにサバゲーランドの航空写真を表示し、潜伏に向いている場所を指し示した。
「自陣が北の時はこことここで、南の時はこっちと、この辺がいいと思うわ」
「なるほど……確かに射線も広く取れそうっすね」
「潜伏場所は味方に共有して、敵を誘因してもらいましょう」
「マジすか、ありがたいっす!」
「咲美、私ブリーチャー使ってみたいのよ。よければ銃を交換してもらえない?」
「いいよー。あたしもMP5の3バースト撃ってみたかったし」
「志穂ちゃんがショットガン!? 銃自体への興味ってこと?」
「それもあるけど、軽い銃で縦横無尽に走り回ってバン、ドバッツ! って、弾をばら撒くの、やってみたいのよ」
「やっぱり咲美ちゃんに憑依されてる!?」
「ゆっきー、あたし悪霊で確定なの?」
日は高く、お喋りの種が尽きないのはゆき達だけではない。そこかしこにエアガンやサバゲにまつわる話に興じる参加者達がいるのだ。セーフティーエリアはなごやかな喧噪に包まれていた。
「サバゲーランドの地面ってさ、あちこちBB弾だらけじゃん?」
「そうだね。インドアじゃないから綺麗に掃除するは難しいのかも」
「あれ、大丈夫なのかなー? 環境とかさ」
「ええと、バイオBB弾だからいつか分解されるはずだよ」
「いつかっていつさ?」
「え、ええっ? それは……いつかな? 志穂ちゃん」
「少なくとも年単位でしょうね。それこそ弾のある環境によるから何年とは明言されてないけど、メーカー側は分解することをちゃんと確認しているはずよ」
「えー、本当かー? 本当に分解されるか、時間をかけて一発一発ゆっくりと見守ったのかー?」
「咲美ちゃん、どこかの基礎化粧品じゃないんだから……」




