連携
戦闘は佳境を迎えていた。
イエローチームは戦力の大半を戦線中央に集中投入し、首尾よく突破に成功したのだが、同時にレッドチームも両翼からの浸透に成功。フィールド中間付近はほぼ無人となり、双方のオフェンスが相手側陣地に殺到したのだ。
いまや勝負はどちらが先にディフェンスを殲滅するかの競争となり、さかんな撃ち合いが発生していた。
ゆきは積み上げられたタイヤの隙間から狙いをつけ、モッドTを速射した。発砲した時にはもう相手は木陰に隠れ――次の瞬間、隠れた場所の反対側からひょいと顔と銃口が現れた。
「わわっ!?」
BB弾は正確に隙間目がけて飛来した。どうにかヒットは免れたが、相当手練れのディフェンスがいるらしい。ありがたいことに後方から味方がやって来た。
「お、大きな木の所に一人います!」
「右奥の板塀にも多分入ってるよ!」
「えっ!?」
タイヤの縁から数瞬だけ右前方を偵察し、素早く隠れる。撃たれなかったが、確かに板塀の端が不自然にでこぼこしていた印象があった。教えてもらえなければ、待ち構える銃口の前に姿をさらけ出していただろう。
さらに一人の味方が駆けつけたが、ディフェンス側が隙を見せず、なかなかヒットが取れない。
「ラチが開かねぇ! 先に板塀さん崩しません!?」
「おっけ、俺が木の人、抑えます! 板塀はお二人で!」
「わ、わかりました! わたし攻めます!」
ゼスチャーで進行方向を示すと、味方二人は首肯し、フルオートによる制圧射撃を開始。射線を切る為、ゆきはタイヤから数メートル後退してから板塀に向けて弧を描くコースで走り出した。ほんの数秒で板塀の背後に潜む敵を視認できるはずだった。
「――!!」
カウントダウンのブザー音が疾走するゆきの耳に届いた。
短く四回、最後は長く一回。引き続ぐようにアナウンスが流れる。
『試合終了! 試合終了です。今回は時間切れ、引き分けとなりました。以上をもちまして午前の試合は終了となります。参加者の皆さんはお昼休憩に入ってください。なお、再開は午後一時半を予定しております』
フィールドは静寂に包まれる。いつの間にか足も止まっていた。呼吸だけが荒く、ゆきは覚束ない気持ちで立ちすくんでいた。
「あー、終わっちゃったじゃん!」
聞き覚えのある声を合図に張り詰めていた空気はふっと弛緩した。
攻防戦を演じていた者達は銃を下ろし、三々五々セーフティエリアへ歩き出す。援護してくれていた味方二人がゆきに笑いかけてきた。
「お疲れ様! 攻めきれなかったけど、いい感じの連携だったね」
「午後も声かけ合っていきましょう!」
「は、はい! よろしくおねひゃいします!!」
「うおーい、ゆっきー!」
引き上げる参加者達の中に手を振る咲美の姿があった。
「やっぱりさっきの声、咲美ちゃんだったんだね!」
「ちょっと悔しくてさ。ギリ追い着けると思ったのになー」
「それでどうだったの?」
「もちろん、ちはるんのカタキは取ったぜ!!」
この試合ではディフェンスに回った志穂を残し、ゆき、咲美、千晴の三人がオフェンスに参加していたのだが、敵陣地を目指す途中で敵のオフェンスに遭遇。お互い進撃を優先して積極的な交戦を避ける形になったのだが、敵の中にいたショットガン使いがすれ違いざまに千晴を撃ち、咲美はオフェンスを離脱して追撃をかけたのだ。
「咲美ちゃん、『やつはあたしの獲物だ! みんなは先に進め!!』って、漫画みたいだったよ」
「だって、同じショットガンナーと決闘するチャンスは逃せないじゃん? 最後は超接近戦になって、すげぇ面白かったぜ!!」
「あははは、咲美ちゃんらしい遊び方だよね!」
お喋りに興じつつ、ゆき達もセーフティエリアへ向う人の列に加わった。
□
昼休憩となった。
施設内は火気厳禁であり、バーベキューなどの調理はできない。参加者達はフィールドが提供する屋台に並ぶか、飲食物を持ち込む形となる。
すっかり汗をかいてしまった為、女性陣は着替えが最優先。最後に更衣室から戻った祥子はコスプレを解き、ラフな服装になっていた。テーブル席のベンチに座る部員達を見やり、祥子は満足気に笑った。
「うん、みんないい顔してるわ。楽しめてるみたいね!」
「「「「はい!」」」」
ゆきと志穂の間には大型のクーラーバッグがどんと鎮座している。
「じゃあ配膳しましょうか。ゆき、手伝ってもらえる?」
「うん!」
クーラーバッグから次々に取り出されていく大量のタッパー類に咲美は歓声を上げた。
「やったー! 志穂の飯は美味いんだよなー!!」
「えっ、これ自分で作ったんすか、志穂さん?」
千晴は眼を丸くした。中学男子的には料理とは親がやるもの、という認識なのだろう。
「そうよ。半分は私が作って――」
「残り半分はわたしが作ったよ!」
「うっそだろ……おまえ料理なんかできんのかよ?」
「こ、この位はできるよ!」
「ゆっきーの飯食べるのはじめてだから、めっちゃ楽しみだぜ!」
「う……志穂ちゃんのよりは落ちるかもだけど……」
「大丈夫よ、ゆき。ちゃんと美味しくできているわよ」
タッパーの中身はおにぎり、サンドイッチ、スパゲッティ、唐揚げ、卵焼き、春巻き、ハンバーグ、エビフライ、チーズちくわ、サラダにカットフルーツ等々。よくある〝運動会のお弁当〟といった趣だ。確かに凝ったものはないが、それでも作れない人には作れないのである。
「……」
「こういう話題だと祥子は黙るしかないよねー、食べ専だもん」
「う、うるさいわね、舞はカップ麺専門でしょうが!!」
「当然ですわ。あたくし生まれてこの方、お湯を注ぐ以外の調理はしたことありませんの」
「育ちがいいみたいな言い方するなっ!!」
「はっはっはっ、あたしは作ってないし作れないがな!!」
「自ら触れていくスタイル! お姉さん、あえてそこ避けてたのに……」
色とりどりの料理に埋め尽くされ、ゆき達のテーブルはすっかり華やいだ雰囲気となった。
「今宮先生が料理しないって、ちょっと意外です」
「大人になると色々忙しくってね! ほら、テストの準備とか」
「あっはっはっ、調理実習以外で君が料理してるとこなんか見たことないけどねー」
「だから、うるさいのよ、あんたはっ!!」
「おばちゃん、前に飯作ってくれたことあったよな。結構、美味かったけど」
「うっ! 確かに舞はたまーに料理してたわね……」
「ゆきも舞さんから教わったレシピがあるって言ってなかった?」
「うん、春巻きとかね。具沢山で美味しいんだよ!」
「おねーさん、作ること自体は嫌いじゃないのよ。でも……片付けが面倒くさい!!」
「「わかります!!」」




