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チェック

 シューティングレンジは横に八名ほど並んで撃てる幅があった。詰めかけた参加者は順番にレンジを使い、愛銃の調整に余念がない。手前に設置されたテーブルに数丁を並べる者もいた。みんな手早く動作確認とホップの調整をしている。きびきびしていて迷いがない感じだ。


(手慣れているっていうか、強そうだなぁ……)


 逆に周囲からの視線も感じる。気のせいではなく、恐らくゆき達は注目されていた。9割方男性で構成された集団に制服姿のJKが混ざれば、物珍しがられてしまうのはある種必然であった。

 

 ふと、ここに自分がいていいのだろうか? とゆきは思ってしまった。もちろんいいに決まっているのだが、慣れない場所で知らない人達に囲まれていると、どうしても気後れが顔を出してしまう。

 

 ゆきがもたついている間に祥子はさっさと試射を済ませていた。


「吉野さん? みんな待っているから、あまり時間をかけないでね」

「は、はい! すみません」

「私は先にセーフティエリアに戻るわ。ここはお願いしていいかしら」

「わ、わかりました!」


 祥子が去るとゆきの横には咲美が並ぶ。


「んん? ゆっきー、顔つきカタいな?」

「あ……あははは、なんか大勢いるから緊張しちゃって」

「精々撃たれるだけじゃん。ドバババババ! ギャー!! みたいな」

「オーバーキル前提!? ……咲美ちゃんは陸上の大会の時とか緊張しなかったの?」

「ぜんぜん」

「すごいなぁ……。練習と違って観客も競争相手もいるのに」

「別にあたしがやることは同じじゃん? 急に『踊りながら走れ!』とか言われたら困るかもだけど」

「ううう……咲美ちゃんはそれでも困らない気がする……」

「あはは、かもねー」


 どうにかモッドTの動作を確かめ、ゆきは志穂と交代した。ほどなく咲美は千晴に席を譲る。

 志穂は千晴が構えた細長い銃――スコープとサイレンサー付きのボルトアクションライフル〝M24〟(例によって西京ムルイ製)――が気になるらしく、ちらちら視線を投げていた。


「なんすか? 志穂さん」

「あっ、ごめんなさい。私、ボルトアクションは撃ったことないのよ。射撃音が凄く静かだし……どんな感じなのかと思って」

「そっすか。俺はもういいんで、撃ってみたらどーすか」

「えっ? いいの!?」

「別にいいっすよ」


 無造作にM24を差し出す千晴。ぶっきらぼうだが、やはり根っこは親切なのだ。

 親戚だけあって古館さんと似てるのかも、とゆきは微笑ましい気持ちになった。


「志穂ちゃん、せっかくだし撃たせてもらいなよ!」

「俺の銃じゃねーけどな。おばちゃんが文句言うはずねーし、問題ないっすよ」

「そうね……ありがとう! よかったら、私のMP5も試射してね!」

「は? いや、俺は別に――」


 ろくに返事を聞かず、志穂はM24とMP5を交換する。早速ボルトを引くと驚愕の表情となった。


「――軽い!! ムルイのM24はエアコッキングのはずなのに、どうしてこんなに軽くボルトが引けるの!?」


 エアコッキングガンは手動でボルトやスライドを引き、バネを圧縮する。このバネの力がピストンを前進させ、発生するエア圧によってBB弾を飛ばす方式だ。手の力でバネを縮めるのだから、操作はそれなりに重くなるのが道理のはずだった。


「そいつはおばちゃんが改造(いじ)ってますから。俺はよくわかんねーけど、ストックの中にガスタンクとバッテリーが入ってるっす」

「もしかしてこれ、電磁弁カスタムなのっ!?」


 手中のM24をまじまじと見詰める志穂。

 改めて構えを取り、トリガーを引き絞るとくぐもった音がしてBB弾が発射された。弾道は綺麗に伸びてメタルターゲットの中心を捉えた。驚いたことに発射音より命中音の方が大きく聞こえる。


「うわ……こんなに静かだなんて……っ!!」


 これには理由がある。

 エアガンは主にエアコッキングガン、電動ガン、ガスガンに大別されるが、電磁弁カスタムは言わば電気とガスのハイブリット方式だ。このM24の場合、ボルトを引いて行なうのは弾の装填のみ。トリガーを引くとバッテリーからの電流によりガスタンクに装着された電磁弁が開き、ガスが噴出してBB弾を発射する。


 通常のエアコッキングガンはバネ圧で前進したピストンがシリンダー先端にぶつかり、衝突音が鳴る。ブローバック機能のないガスガンもハンマーを打ちつけてガスバルブを解放するから、若干の打撃音は出てしまう。ガスブローバックガンや電動ガンに至ってはメカノイズの塊で、銃口以外から発生する音の方が耳につくほどだ。


 しかしM24電磁弁カスタムから発生するのはガスの噴出音のみ。サイレンサーを装着し、ちょっと距離を取れば射撃音はほとんど聞こえなくなる。


 サバゲでは攻撃時の射撃音によって居場所が露呈し、生き残った敵から反撃されるケースが多々ある。だが千晴の銃なら相手側はどこから撃たれたのかまるでわからず、一方的に撃たれ続けて全滅することさえあり得るのだ。


 数発の試射を終えると、志穂は感動の面持ちになっていた。


「さすが舞さんのカスタムね。静かなだけじゃなくてボルトの動きも滑らかだし、よくあたるわ!!」

「ま、いいことばっかじゃないっすけど」

「どういうことかしら?」

「こいつは弾とガスとバッテリーを使います。どれがなくても撃てなくなるから管理が面倒だし、連射も効かないっす」

「なるほど、確かにそうね」


 付け加えるなら、志穂的には撃ちごたえのなさも残念なポイントだろう。あらゆる道具類に言えることだが、エアガンはどこでどう使いたいかによって最適な一丁が変わってしまうものなのだ。


 二人のやり取りを横合いから観察していた正志は深々と首肯した。


「うむ、これは千晴殿のファインプレーでござるな……」

「そうだよね。千晴くんって案外――」

「フフフフ……その調子で志穂殿をより深みに誘うでござるよ」

「おお? ゆっきー兄、めっちゃ悪い顔してるじゃん」

「まさに計画通り! ひとたび沼底まで堕ちればもはや脱出は不可能なりぃ、でござる!!」

「台無しだよ、お兄ちゃん!?」




   □




 次にゆき達が訪れたのは弾速チェックブースだった。

 危険防止の為、フィールドにはBB弾の最大初速が規定されている。参加者はブース内の係員に使いたい銃を提出し、初速を計測してもらうのだ。規定をオーバーした銃は不合格となり、使用不可。合格した銃にはチェック済みシールが貼られる。


 ゆきはモッドTと9Lの両方をチェックに出し、渡されたシールを丁寧に貼った。もしこれが剥がれてしまうと、再度チェックを受けて新しいシールをもらわなくてはならず、面倒なのだ。


 やはりここでも自分達は浮いている感じがする。ゆきは落ち着かない気分のまま、志穂達に声をかけた。


「みんな、ハンドガンもチェックしてもらった?」

「大丈夫よ、ゆき」

「あたしのグロっ子も問題ナッシング~」

「俺はM24しか使わねーから」

「勿論無論当の然、ベテランゲーマーに抜かりなし! 拙者の愛銃はオールグリーンでござるよっ!!」


 ぎっしりと銃が詰め込まれている巨大なガンケースを掲げ、妙なポーズをキメる正志。割とツボだったのか、千晴は吹き出した。


「ははっ! 吉野先輩もテンションガチ高っすね!」

「拙者2週間ぶりのサバゲで候! アゲていくのが武家の習いでござれば! ほーら、たぎってきた、たぎってきたぁ~っ!」


 ゆーらゆーらと奇妙なリズムで正志は身体を揺すり出す。まるでふしぎなおどりのようであった。


「ううう……ち、力が抜ける気がするよ……」

「ゆっきー兄、充分ひんぱんにサバゲしてるじゃん」

「まあ、その辺は正志さんの感覚だから……」

「――ちょっと、あなた達! チェックが終わったらいつまでもブース前にいない!! 邪魔でしょう!」

「す、すみません!!」


 ぴしりとした叱咤に、ゆきは飛び上がってしまった。

「ねぇ、千晴くん……」

「なんだよ、なんか怖いんだけど」

「君、志穂ちゃん達とわたしで言葉遣いが違うよね」

「そりゃ一応敬語使った方がいいだろ。おばちゃんとこの客だし、年上だし」

「だ、だから! わたしだって――」

「ゆきはともかく、いきなりタメ語はまずいだろ」

「……わたしは別なんだ?」

「まあな」

「わたしが千晴くんと一番親しいってこと……?」

「当たり前だろ。他はほとんど初対面じゃねーか」

「ふーん……それじゃあ、仕方がないよね。えへへへへ」

「なんで笑うんだよ、やっぱ怖いんだけど!?」

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― 新着の感想 ―
[一言] >「ふーん……それじゃあ、仕方がないよね。えへへへへ」 >「なんで笑うんだよ、やっぱ怖いんだけど!?」 ( ˘ω˘ )( ˘ω˘ )( ˘ω˘ )
[一言] 最後の描写がいいですねー。 若いですねー。 青いですねー。
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