しゃばじぇちゃん
ご高覧ありがとうございます!!
本作は仲良しJKが楽しくサバゲをする(だけ)の素敵小説です。読んだその日から幸せいっぱい夢いっぱい、コレを選んだあなたはいい趣味してますよ! たぶん私の仲間だー!!
もしブクマ、評価など頂けましたら大変励みになりますので、よろしくお願いします。
名西女子高等学校は満開の桜に彩られていた。
入学後、最初のホームルームはお約束通りに自己紹介からはじまった。出身中学と名前を述べ、ついでに趣味を紹介。音楽鑑賞です。映画をたまに観ます。身体を動かすのが好きです。特にありません、などなど。
「ありがとう、柚木さん。次の人」
「はい……」
小さな声で答え、席を立つ。少しばかり手が震えていた。
「や、八代中学から来ました、吉野ゆきです。よろしくお願いします……」
これで最低限は喋った。このまま座っても、一応許されるはずだ。ゆきはもともと教室の隅にひっそりと生息するタイプである。いつもなら自ら余計な話などはじめたりはしない。
(ダメダメダメダメっ! それじゃ、ダメだよ。それじゃ、いつも通り。中学の時と同じじゃない――ううう、でも、踏ん切りが……)
担任教師の今宮祥子は苦笑を浮かべ、
「吉野さん、終わったなら座っていいのよ?」
「い、いえっ! あのまだっ……趣味というか……わ、わたしは」
すうっと息を吸い込み、思い切って叫ぶ。
「エアガンに興味があります! 誰か一緒にしゃばじぇ……サ、サバゲしてくれたら、嬉しいですっ!!」
□
キツかった。
地獄のような沈黙とクラスメートが醸す『――は!?』という空気もキツければ、先生が『は、はい。じゃあ、次の人』と笑顔を引きつらせながら流したのもキツかった。
結局、翌日の昼休みに至るまで誰も話しかけてくれなかったのは……まあ、いつものことなのだが。
(うう、やめればよかった……女子校でサバゲ仲間募集! とか、意味分かんないよね。は、はははは……はぁ~っ)
ゆきはのろのろと弁当包みを取り出した。
このやらかしは、残り三年間の学校生活にほとんど致命的な影響を及ぼす気が――
「おっ、自分の席にいるじゃーん!」
反応する間もなく、ゆきの机に購買パンがどっさり積み上げられた。前の机を椅子ごと回し、ゆきと対面して座り込んだのは、クラスメートの川本咲美だった。
パンの山をがばっと引き寄せ、咲美はにんまり笑う。
「あんた例のアレだよね? サバゲの子!!」
ぶっ、と教室の数箇所から吹き出す音が鳴った。ツボに入ってしまった幾人かの生徒達が肩を震わせ、必死に笑いを堪えている。ゆきは真っ赤になって、縮こまってしまう。
「い、いや……あれは……」
「めっちゃ噛んでたよねー、しゃばじぇって。あはは!」
カレーパンの包みを破り、咲美は勢いよく食べ始める。すっかり腰を据えるつもりのようだ。
「あの……川本さん」
「咲美でいーよ」
「さ、咲美……ちゃん」
「サバゲちゃんも食べなよ。昼休み終わっちゃうよ」
「うっ!? そ、その呼び方はちょっと……」
「しゃばじぇちゃんのがいい? 言いにくいが」
「違うよ、もっと嫌だよ!」
「ゆっきーならおけまる?」
「う、うん」
「んじゃ、ゆっきーで。よろしくぅ!」
元気よく喋る咲美に、ゆきは気圧されてしまう。
見かねたのか、別の生徒がやって来た。桜井志穂――入学式で答辞を読んでいた優等生だ。
「咲美、あなたなに絡んでるのよ。吉野さんはおとなしい人なんだから……」
「親睦を深めているだけじゃん、ズブっズブにね。なー、ゆっきー」
「ごめんなさいね、吉野さん。すぐ移動させるから」
「迷惑駐車みたいな対応するじゃん」
「実際、迷惑でしょう。ほら、咲美。早く立ちなさい」
「へーん、残念でしたー。あたしはゆっきーに誘われてここにいるんだからね!」
「え?」
ゆきにはまったく身に覚えがない。
「だってさ、サバゲだよサバゲ! あの自己紹介にはさすがのあたしもびびったね。冷静に考えてこの学校にサバゲやる子なんかいるわけないじゃん。バッカだなー、ゆっきーは」
「あはは……そ、そうだよね……」
「すでに学年中に知れ渡っているよ? 極道のサバゲ女、吉野ゆき! って」
「ううう……Vシネみたいだよぅ……」
「咲美、言い方! もっと配慮して喋りなさいよ」
「サバゲっておもちゃの鉄砲で撃ち合うやつだよね? 山とか走り回ってバンバン、うわー、やられたー、ゲットーってやつでしょ? まるで子供の遊びじゃん。マジバカみたい、あははははははははっ!」
「ちょ、咲美! いくらなんでも――」
ひとしきり笑った後、咲美は真顔になった。
「めっちゃ面白そうじゃん」
「「あれっ!?」」
会話の梯子をすぱーんと外され、ゆきと志穂は唱和してしまった。
「あたし、ゆっきーと一緒にサバゲやるよ。よろしく頼むぜ、相棒っ!!」
まさかの勧誘成功なのだった。
信じられない思いで、ゆきは差し出された咲美の手を見つめる。
「あれ? もしかして、あたしの手、猫臭い? うち、三匹飼っているからなー。大丈夫、怖くないよ?」
「に、匂いを警戒しているわけじゃないよ!」
「まさか入会金が先とか言わねーよな!? 布団も壺もBB弾も買わないからね!」
「いらないし、売らないよっ! BB弾はいるけど……じゃなくて! ほ、本当にやるの……?」
「うん」
「わたしと一緒にサバゲしてくれるの……?」
「おうっ! こちとらマジだぜ!」
開けっ広げに笑う咲美。信じがたい展開ではあるが、どうやら本気のようだ。
ゆきは視界がふわっと明るくなった気がした。
「……なに言ってるの、咲美。あなた、部活があるでしょう?」
「ないない。やらないから」
「え、ええええっ!? ちょっと本気なのっ!?」
「サバゲ、面白ソーネ! ワタシ、ソッチヤルヨー」
「なぜにカタコト!? 馬鹿もほどほどにしなさいっ!!」
近くに居た別の生徒達も話に加わった。咲美達と同じ中学出身のようだ。
「ね、ねぇ。川本さん、陸上辞めちゃうの?」
「うん」
「うっそ、短距離で全国行ったのに!? 決勝二位で表彰されてたじゃない、もったいないよ!」
「いやー、それほどでも。えへへへ」
「今は褒められてないのよっ!! 咲美、あなたいきなり……どうしてっ」
「うるさいなー。だったら、また志穂が走ればいいじゃん」
「わ、私は……あなたが走っていたから、マネージャーを……」
「どゆこと?」
「――とにかく、思いつきで馬鹿なことを言わないで頂戴! 本っ当に馬鹿なんだから!! 馬鹿馬鹿馬鹿、馬鹿咲美っ!」
「なにおぅ!? あたしだって、ちゃんと受験して入学したんだぞ! しかも補欠!」
「補欠は自慢にならないでしょうがっ!! ああ、もう……せっかく一緒の学校になれたのに!」
思いも寄らぬ大騒動。
もしかしてこれ、わたしのせい……? と、ひっそりパニくるゆき。
「ごちゃごちゃうるせーなっ!! あたしはゆっきーとサバゲするんだよっ!」
咲美はゆきをぐいと引き寄せ、固く抱き締めた。いきなりの濃厚接触にゆきは完全にフリーズする。
「さ、咲美ぃ!? なななな、なにをしているのよっ!?」
「おっと、近寄るな。こいつがどうなってもいいのかな? ほっぺた、むにむにしちゃうぞ!」
「ひ、人質なら私がやりますっ! ハグするなら私でしょ、そうでしょ、そうすべきでしょ!!」
「ええい、黙れ黙れ! お控えなすって聞きやがれっ!!」
ゆきを抱いたまま、咲美は見栄を切る。
「今日から我が名はサバゲマーン!! サバゲガール、サバイギャル!!」
「一つに決めて!?」
「こっから先は撃たれる覚悟のある奴だけ、文句を言いなっ!!」
いや、その理屈はおかしい――てか、なんだこの流れ?
咲美をのぞくクラス全員が共有した突っ込みは、誰の口からも発せられることはなく。
こうしてゆきは初めてのサバゲ仲間を得たのであった。
「こ、これでよかったのかなぁ……?」
「もちろんだよ、ゆっきー。勇気を出すって大切だよね!」
「綺麗にまとめないで!?」




