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竜の魔法使いと魔王

作者: 片結 あるふ

 世界が暗転した。照りつける太陽と青空は赤い星の散る宵闇に変わった。

「驚いた」

「本当に見える境界はないんですね」

 ジークとレスファが口々に呟きながらアレイに一歩寄る。勇者の加護を信じてのその行為に、当のアレイは何も返さなかった。

「…………」

 アレイ。そう口に出そうとして、けれど言葉にするより先に目がそれを理解していた。理解が追い付いたのは恐らく俺一人だけで、屈強な戦士も神術の巫女も勇者の死を知る前に息絶えていた。


 身体が熱い。魔界に充満する魔屑とこれまでに蓄積してきた体内の魔屑、それらの影響を緩和していた勇者の加護が消失し想像以上の負荷に襲われた。

 やはりまだあの勇者はこの世界に対応できはしなかった。

 強靭な肉体を有するジークであっても勇者の加護がなくてはこの世界に蔓延る魔屑には耐えられず、勇者の加護のほかに神力を纏うレスファもそれを使いこなす域には至っていなかった。

 そうした仲間の事情を知っていながら、この世界に入ることを止めはしなかった。

 魔法使いである俺が勇者に対して力不足だなどと言うことはない。できることは精々、その亡骸をあるべき場所に埋めてやるくらいだろう。が、それも難しい。

 魔王と呼ばれる大男が虚空を裂いて姿を現す。正しく表すのなら、その場の魔屑で肉体を構築したのだろう。

「何時にもなく他愛ない首だな」

 仰々しい漆黒の鎧を纏い同色の大剣で亡骸から首を奪った大男が呟く。

「……それにしても、貴様は竜か」

 六芒星を宿す紫の瞳が竜眼を覗く。

「…………」

 見えていたものが霞み、見えるべきものだけが映る。竜眼の神秘である未来視を封じられた。

「勇者に与する魔法使いは決まって人間と魔族の配合種だ。大抵は淫魔の血筋になるが、よもや竜とは。あの気高き魔獣が人間に血を分けたのか」

「ならば何だと」

 未来視がなくとも竜の眷属として人とは比較にならない魔力がある。相手が魔王であっても傷の一つ程度つけてやれるだろうが、今の目的は魔王の討伐ではない。

「ならば、我が見てきた中で最強の魔法使いに違いあるまい。通りで今回は気味悪いほど身体が快調なわけだ」

 弄んでいた勇者の首を宙に放り大剣を二度三度と振り回し、戻ってきた首を握り潰す。

「ここまでに随分と魔法を使ったろう」

 魔法を使えば魔屑が生まれる。魔屑とは魔族を構成する要素であり、それを世界から消し去る方法は二つしかない。

 ひとつは勇者による魔族の殺害。

 もうひとつは魔王による魔法の行使。

 強力な魔法を使えばそれだけ多くの魔屑が生まれ、強力な魔族を勇者が狩ればそれだけ多くの魔屑を消し去ることができる。そして魔屑が多ければ多いほど魔王にとっては都合がいい。

「竜の魔法使いなぞ、強すぎたな。貴様の魔法では大抵の魔族を一撃で葬れる、そうなってしまえば勇者の一手は出番を失う」

 魔王などに言われずとも知っていることだ。

 魔法で魔族を葬れば世界に蔓延る魔屑は増す一方になり、そのうえ勇者は勇者としての鍛錬を積めない。まさに悪循環だ。

 だがそれでも。

「俺は気高き竜の眷属なんだよ。彼の魔王様に傷の一つも付ければ名誉だ」

 思ってもない言葉を口にしながら、身体を蝕む魔屑を操作する。

 あくまでも魔王討伐が目的であると思わせておくことが最重要になる。

「貴様のおかげでこの上なく快調な我にか」

 人が魔法を使う代償は世界に魔屑を放つことだ。しかし、魔族の血を有する魔法使いであればある程度は他の物を代償にもできる。

「竜の命を賭して、王を穿つ」

 はったりと同時に光を編む。大した威力のある魔法ではないがそれが可能であると見せることで発揮する脅威もある。

「面白い。精霊魔法の応用か」

「フェアリーなどと比べてくれるなよ」

 精霊。魔法を行使するのに命を代償としかできない長命の種族。命を削ることでのみ発現可能な魔法は一般に人の扱う魔法より強力なうえ魔屑を生み出すこともない。

 命を代償に放つ魔法はどれも大剣に止められ、挙句その斬撃を捌くにも魔法(いのち)を使うことになる。

「我に魔法を撃たせねば魔屑は減らんぞ」

「竜の叡智を侮るなよ」

 魔王の台詞を聞いて、事が順調に運ぶと確信した。

 そんな方法で魔屑を消すためにここに来たわけではない。

「ふん。余計な強がりを」

 未来視を封じられさえしなければ常に安全策を講じたうえで行動できたが仕方ない。未だに勇者の加護から解放された体内の魔屑を完全に制御できてはいないが、未来視無しで精霊魔法を使う以上いつ限界が来てもおかしくはない。

「俺が今までどれだけの魔屑を世に放ったと思う?」

 応えなど求めない時間稼ぎで、煽り文句だ。

「悪いが、ゼロだよ。俺が普通に魔法を使おうが勇者の加護のおかげで俺の中に戻ってきたからな」

 つまりそれが切り札。

 世界で唯一魔屑を己の意志で消費できる者、裏返せば魔屑の総量を管理できる者に対する脅威。

「貴様初めから……!」

 ようやく滑稽な顔が見れた。

 今まで勇者の加護によって放出を許されなかった魔屑。竜の眷属たる者として放つ随一の魔法。精霊を真似て放つ命を対価にする魔法。

 精霊魔法に関してはダメ押しでしかないが、これほどの魔屑が一瞬で放たれれば……。

「やってくれたな」

 赤い星の散る宵闇の空に光が差す。

 人界と魔界の境界が消えた証拠。

「こうなってしまえば魔屑の管理はできんぞ。人の生み出す魔屑はその場で魔族を生むことになる」

 魔屑の管理。憶測でしかなかった魔王という者の存在意義が裏付けされた。

「それが正しい。人の罪をこちらの世界に押し付け、あまつさえ人の贄まで出して便利に生きようなどと」

 最後の勇者とその仲間には損な役回りをしてもらう羽目になったが……。

「もはや魔王も自由。これまで通り人類のために働こうが、人類にこれまでの復讐をしようが勝手にするといい」

 大剣を地面に突き刺し、視線は首なしの勇者を見た。

「もとより人類のためにやっていたことではない。我にしかできぬことを初代勇者に託されただけのこと」

「稀に生まれてくる魔法を使えず魔屑を祓うことのできる人間。その初代がこの悪しき世界の創造者とは、後に生贄同然にこちらに出向くことになるのだから皮肉なものだな」

 魔族を生み出し人類を滅ぼそうとしているとされた魔王が人類のために存在していたことも十分に皮肉なものだが。

「貴様は何故世界を戻そうとする? 勇者という生贄制度を知ったというだけではないだろう」

 生贄制度とはよく言ったものだ。人界から魔王討伐という大義を掲げ魔界へ臨み、決して生きて帰ることはないのだから。

「俺が竜の血を継ぐ者だからだ。竜とは世界を渡り世界を正す生き物、この世界では魔族の同種扱いされたみたいだが……」

 魔王が竜の存在を知っていた以上、魔屑に適応した親父以外にもこの世界に足を踏み入れた竜は存在したのだろう。そして、魔屑の影響で魔族の同種となり勇者に屠られたか。

「世界を正すか。であればこの世界から人類が消え去るのも時間の問題だな」

「元より人が住まう世界ではない。存在しないはずの人間が存在し、魔法など使えぬ人間が魔法を使い、一つの世界が二分されていた。異常だったよ、この世界は」

 精霊の世界。それがあるべきこの世界だった。命を対価に花を咲かせるような、儚く美しい世界だった。

「我も魔族も、正しく消えるわけか」

「元居たはずの世界に帰れないならそうなるだろうな」

 俺の言葉に六芒星を輝かせる魔王。

「我の未来はどうだ」

 封じられた未来視を取り戻し、僅か先の未来を視る。

「旅は好きか」

 本当は未来など視ずとも、世界の過去を見たときからこの男の行く末は予見できていた。未来視を封じられた瞬間から強く映し出されていたこの男の過去を視たときからそれは確信していた。

 頷く大男に軽く手を差し伸べる。

「お前が守れなかった世界から正しに行くか」


 二度目の世界も失敗した元勇者を連れて、竜として世界を正す旅へ行く。

すみませんが一番書きたかったシーンだけ書きました。おれたた!

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