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世界の回り方も知らないまま

 少女と出会い、乗客の様子に興味を持ち、自我が芽生えたと言えるかもしれないこのような状態にならなければ、始まりについても終わりについてもなんとも思わないままだったかもしれません。しかし観覧車は既にザワザワとするような感情を抱いていました。それは不安、恐怖のようでした。



 そんな観覧車がふと気づくと、いつの間にか少女がゴンドラに乗っていました。ぼんやりと考え事をしていたせいでその日は彼女の乗車に気づかなかったのです。


 いつも独り言をつぶやいている少女ですが、その日は黙ったまま遠くを眺めていました。観覧車も彼女の視線をたどり、同じ方向に目を凝らしてみますが、少女がどこを見ているのかまでは分かりません。



 そうしてゴンドラが頂上にたどり着く頃、少女は不意に顔を上げました。

 その時観覧車と少女はまっすぐ目が合ったのです。



 それは有り得ないことでした。


 そもそも観覧車には目がなく、決まった視点もないのです。まわりのことやゴンドラ内などすべて、見ようとすれば見える、感じられる状態でしたが、「目が合う」などということはあるはずがありませんでした。


 それでも一点を見つめる彼女。

 その視線に耐えかねて、観覧車はゆっくり視線を外します。

 このような緊張感は初めてでした。



 少女の方はというと、目を逸らすでもなくそのまま観覧車を見つめ続け、やがてボソッとつぶやきました。


「ごめんね」



 話しかけてくるはずがないものが話しかけてきた……この事態に観覧車はどうしていいか分かりませんでした。想定外のことに動揺を隠すことができません。

 人間が本気で物に話しかけることなどあるはずがないと、自分に言い聞かせて冷静になろうとしても、実際目の前の少女は自分に話しかけてきたとしか思えません。


「ごめんね」とは何のことでしょうか。



 今、本気で声が届くようにと願って少女に話しかければ届いてしまうかもしれない……。しかしどこか、そうしない方が良いような気もしました。



 しばし沈黙が流れ……

 彼女はゆっくりと視線を窓の外に戻します。



 観覧車はホッとしたような、無視してしまって申し訳ないような気持ちになりました。


 人間と会話をすることは可能だったのか? 何か一瞬魔法のように、不思議なことが起こったのか? 観覧車には確かめようがないままでした。

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☆ ★ ☆ ★

こちらは以前投稿した短編小説です。宜しければ覗いていってください。

※リンク先はアルファポリスです。


↓人とロボットが共に暮らす世界を舞台にしたSF風ファンタジー
からくりの鼻唄

↓生き物たちが登場する童話風ファンタジー
月色の夏

↓夢の中をイメージした幻想系作品
ドッペルゲンガー




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