後編
何が「あと5分」なのか。意味がわからず、僕は聞き返す。
「5分経ったら、どうなるのかな? お父さんかお母さんが、迎えにきてくれるの?」
彼女は首を横に振って、同じ言葉を繰り返す。
「あと5分なの」
「いや、だから、それじゃ伝わらないから……」
「あと5分なの」
僕が困った表情を見せても、少女の発言は変わらなかった。
こんな子供に関わるんじゃなかった。
僕は内心、憤慨すら覚えながら、
「そうかい。じゃあ、5分間、ここで頑張ってね」
と捨て台詞を吐いて、立ち去ることにした。
「……もう、あと4分なの」
最後に少女が、数字だけ変えた言葉を僕の背中に投げかけてきたけれど、僕は無視して、振り向かなかった。
「なんだったんだ、いったい……」
忘れてしまいたくて、首を横に振りながら。
僕は、路地裏の道を走っていた。もう早歩きでは間に合わないからだ。
あんな子供のことより、今夜のテレビについて考えよう。毎週のレギュラー放送ではなくスペシャル番組だけど、クラスの友だちもみんな見ると言っていたから、僕も見逃すわけにはいかず……。
ああ、次の角を曲がれば、もう僕の家はすぐそこだ!
そう思った瞬間。
突然、曲がり角の反対側から飛び出してきた青い軽トラック。前面のガラス窓越しに、運転手のおじさんがウトウトしているのが視界に入って……。
それが、最期に見た光景となった。
同時に頭をよぎったのは、「あの女の子は死神だったのか」という、妙な納得だった。
(「あと5分なの」完)