前編
行きたくもない進学塾からの帰り道。
急げば見たいテレビに間に合うと思って、通い慣れた裏通りを、僕は足早に歩いていた。
住宅街の狭い道路だが、一応は車も通れる広さだ。小さい頃によく遊んだ公園も、すぐ横にあって……。
ふと見れば、小さな女の子が一人、公園のブランコにポツンと腰掛けていた。
一年生か二年生くらいだろうか。おかっぱ頭で、白いシャツに赤いスカート。まるで小学校の怪談に出てきそうな格好であり、夜の街灯に照らされた姿は、いっそう不気味に感じる。でもその不気味さよりも、寂しげな雰囲気の方が妙に気になってしまった。
「こんな遅くに……」
夕方までは近所の子供で賑わう公園だが、もう誰もいない時間帯だ。この女の子は、どうして家に帰らないのだろう? お父さんかお母さんと待ち合わせでもしているのだろうか?
見知らぬ子供に関わっていられるほど、僕も暇ではないのだが……。「高学年はお兄さんお姉さんなのだから、低学年の面倒を見るように」というのは、小学校で何度も言われていた。それに従って、僕は公園に足を向けて、声をかけてみる。
「そこのキミ! どうしたの? 迷子かい?」
うつむいていた少女は顔を上げ、じっと僕の目を見つめる。
歳が離れているとはいえ、相手は女の子だ。ちょっと恥ずかしい。
そう感じていると、彼女は口を開いた。
「あと5分なの」