表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイバーアタック  作者: 文月獅狼
7/29

第六話 待つしかないか

 朝7時に起床し、8時には家を出た。三夏は休むことにしたため、雪も三夏の面倒を見るために学校を休むことにした。こういう時は自分が休むべきだろうが、今日三夏が休むとは思ってなかったため、昨日大佑との仕事計画を組んでしまった。だから休むに休めぬ。

 きっと卓也は雪を見ることも、話しかけることもできなくて悲しむだろう。まあ彼のことだから三夏のお見舞いという名目で会いに来そうだが。

 うららは学校に行くため、一緒に家を出た。普段は三夏と一緒に行ってもらっているため、俺とは一緒に行かない。しかし今回のようなこともあるため、俺はヘルメットをもう一つ買っていた。ヘルメットをかぶるときのうららはとても楽しそうだった。おそらくうららがバイクに乗るのは久しぶりだったからだろう。彼女を後ろに乗せ、しっかりつかまっているのを確認してから出発した。

 三夏とうららの通う大中小学校は歩いて15分ほどのところにある。今回はバイクに乗っているため、7分ほどで着いた。俺はうららに言われて疑問に思いながらもバイクを学校から少し離れた場所に止めた。

学校に通う子供たちが通学路にちらほら見えた。校門にも少しいる。そして校門には明らかに子どもではない人がいた。三夏の担任の古見先生だ。朝の挨拶運動をやっているんだったな。三夏のことを話すのにちょうどよかった。


「じゃあ勇義にい行ってきます。仕事頑張ってね。」


 およ?

 不意にそんなことを言われて俺は去っていくうららの後ろ姿を見た。


「俺も古見先生に用があるから一緒に行くよ。」


 と言おうとしたが思いとどまった。今になってうららが少し遠くに止めてと言った理由が分かった。うららは年齢からして一緒にいるのを見られるのが恥ずかしいのだ。自分もうららくらいの頃は友人に親といるのを見られるのは恥ずかしかっただろう。まあもっとも、俺にはそんな余裕がなかった気がするが。

 うららもそういう年ごろになったんだな~としみじみと考えながら


「行ってらっしゃいうらら。先生の話はちゃんと聞けよ。そうすれば問題も解けるようになるから。」


 と言って見送った。うららが古見先生に挨拶をして、何やら話してから校門の中に入るのを確認してから俺は校門に近づいた。


「おはようございます古見先生。」


「あっ、おはようございます三夏ちゃんのお兄さん。うららさんに何か用ですか。」


「いえ違います。三夏のことを報告に。」


「あぁ、三夏ちゃんのことですか。今うららさんから聞きましたよ。」


「そのことをさっき話してたんですか。」


「えっ、どうして知ってるんですか?もしかして見てたんですか?だったらうららさんと一緒に来られたらよかったのに。」


「俺も最初はそうしようと思ったんですが、うららが嫌がっちゃったので。」


「喧嘩でもなさったんですか?」


「そうではないんです。うららがそういう年ごろになったものでして。」


「そういう年ごろ?…あぁなるほど。うららさんたしか五年生でしたよね。私にもそんな時期がありましたよ。これからいろいろ大変になるかもしれませんね。」


「雪には全然時期が来なかったらしいのでうららにはどう接していいのかわからなくなるかもしれません。」


「大丈夫ですよ。うららさんには勇義さんや雪さんみたいな理解者が周りにいるんですから。」


「だといいんですけどね…。三夏のことはもう聞いたんですよね?」


「はい、うららさんから。」


「ならもう行きますね。仕事があるので。」


「わかりました。お仕事頑張ってください。」


「ありがとうございます。それじゃあ。」


 そう言って手を振ってからバイクのところに戻った。エンジンを再びかけ、事務所に向かった。





 事務所の地下の昨日と同じところにバイクを止めてから上に上がるエレベーターに乗った。オレンジのランプが一度点滅してからドアが開いた。そして昨日と同じように長い廊下を渡った。今度は今川に会わぬようにと願いながら今川の部屋の扉を通り過ぎた。しかし今回は遭遇しなかった。俺は失礼だとはわかっていながらホッと息をついた。

できることなら今川と会うのは半年に一回ぐらいにしたい。ところで今川は俺に嫌われていることを知っているのだろうか?もうばれているならいっそのこと徹底的に嫌ったほうがいいのだろうか?

そんなことを考えているといつの間にかゲートのある部屋についていた。慣れると考え事をしながらたどり着けるようになるものなのか。しかしここまでの道のりは全く複雑ではない。長い廊下を渡って少し曲がるだけだ。だから慣れようが慣れるまいが考え事をしながらたどり着くのは簡単だな。

北村はデスクにはいない。トイレだろうか?そんなことを思いながら俺は自分のロッカーのところに行った。自分の隣のロッカーは大佑のものなのだが、開けた痕跡はない。まだ来ていないのか。また遅刻だろうか。そろそろちゃんとせんと首になるぞ。でもまあ今川さんのことだから


「遅刻くらい誰だってするよ。私だってする。君も一緒にどうだい?」


 とでも言うだろう。今川さんはトップだからいつ来てもいい。そのため今川さんはどれだけ遅く来ても遅刻扱いにならない。しかし、そんな人なのに人を従えられているところは素直にすごいと思う。果たして俺は大佑と卓也がついていきたいと思えるような人物なのだろうか。自分自身ではこんな人ならついていきたいなと思うような人物になっているつもりなのだが。

 ロッカーからアーマー、ロングコート、ヘルメット、ホルスターをとり、私服と荷物を押し込んだ。畳むべきなのだろうが、めんどくさい。左太ももにホルスターも巻き付けながらそんなどうでもいいことを考えていた。ロングコートを着て、アーマーをつけた。アーマーは胸、腕、膝という風に部分的につけている。そしてロングコートの太ももあたりにも少しつけている。本当は部分的ではなく、全身につけたほうが防御力が高いのだが、性能がいいとお値段も高くなる。オレニハタカスギル。

 ヘルメットを右手に持って、昨日書類を書いていたところに座った。と同時にツルメから着信があった。俺は腰から六角形を取ってボタンを押した。


「おはようございます、マスター。大佑様はまだいらっしゃってないみたいですね。」


「そうなんですよ。あいつは全く何をやっているんだか。どこで道草食ってるんだか。」


「あの方なら物理的に食べてそうですね。『今日の朝ごはん』なんて言いながら。」


「あぁ、確かにあり得る。」


 そう言うとツルメと俺はぷふっと笑いあった。

最近では笑うようになったな。時々だけど。

俺はしみじみそう思った。俺のところに初めて来たときはいかにも機械という感じだったのに。AIが学習して感情を得ることはないのかもしれない。しかしそれは不可能ではない。もしかしたらツルメは俺や俺の仲間、家族と過ごす中で『感情』というものを学習し、自分のものにしたのかも。

そうだとうれしいな。


「マスター。今日の仕事の『ファラマ』のことなのですが。」


 いきなり仕事の話をぶっこまれて俺は少し慌てた。姿勢を正し、ツルメの話に聞き入る。


「調べてみたところ、『ファラマ』は依然倒したチーターの『フェルマ』と同一人物でした。」


「フェルマ?」


 俺は頭の中から「フェルマ」についての記憶を引っ張り出そうとした。全員覚えているわけではないが、印象的な人は覚えている。

 フェルマ、フェルマ、フェルマ…。


「あっ。」


 思い出した。


「フェルマって、確か去年倒した爆弾魔か?」


「そうです、そのフェルマです。あの経験値を通常の3倍にするチートを使ったフェルマです。」


「懲りずにまたチート使ってるのか…。それで今回はどんなチートを?」


「今回のチートは爆弾を無限に使えるようにするチートです。」


「まだ爆弾使ってたのか。本当に爆破が好きだなこの人。いつか現実でもテロ起こすんじゃないかな。」


「一度精神科医に見てもらったほうがいいかもしれませんね。」


「そうですね。情報提供ありがとうございます。また後で。」


「はいマスター。」


 そう言い残してツルメは消えた。

 大佑はまだ来ていないが先に行くか。そう思って立ち上がったが、北村がいないことを思い出した。北村がいないとゲートをくぐれない。


「しょうがない。やはり待つか。」


 そう言って俺はまた腰かけた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ