表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイバーアタック  作者: 文月獅狼
4/29

第三話 いろいろピンチ?

 さらに5分ほど歩くとゲートが見えてきた。「ゲート」というのはこのゲームの世界と現実の世界とをつなぐ唯一の道である。一般の人が使用しているVRゴーグルを使用する場合は、体は現実世界、精神はゲームの世界という風に体と精神は分かれる。しかしゲートを通ると、もといた世界(今の場合はゲームの世界)から体ごともう一つの世界(現実世界)に送られる。

 ゲートは、高さ2メートル、横幅1.2メートルの大きさだ。今は赤色になっている。ゲートの横にはインターフォンのような形のものがついている。ただ普通のインターフォンと違うのは、下のほうに縦4㎝、横2㎝の黒い板と赤いボタンがついていることだ。俺はスピーカーの部分に話しかけた。


「勇義、大佑、卓也です。今帰ってまいりました。」


 するとインターフォンから声が返ってきた。


「勇義くん、いつもより早いですが何かあったの?」


「今日の仕事は思っていた以上に早く終わったので早めに切り上げてきたんです。別に規則違反じゃないから大丈夫ですよね。」


「そうね。妹さんのことは聞いた?」


「そのこともあったので。」


「わかったわ。では指紋認証をお願いします。」


 俺らは言われた通り指紋認証をするために先ほど説明した黒い板に俺、大佑、卓也の順に親指をつけた。昔はグローブをつけていたからいちいち外さないといけなかったけど今では指ぬきグローブにしたから外さなくて済む。

 黒い板に水色の線が現れ、上から下、下から上に一回ずつ移動した。


「指紋認証完了。固有名『ユウギ』、No.0127を確認。固有名『ダイスケ』、No.0139を確認。固有名『タクヤ』、No.0245を確認。全員揃ってるね。ご無事で何より。おかえりなさい。ゲートの通行を許可します。」


「ありがとうございます。」


 そう言うとゲートは赤からだんだんと水色に変わった。水色になると通行を許可されたという意味でゲートを通れる。赤の時は通行を許可されていないという意味でゲートを通ることはできない。もし無理やり突破しようとして5秒以上入ろうとし続けたら、警告が出てくる。さらに10秒以上入ろうとし続けたら問答無用でそのアバターは消去されてしまう。これはチートバスターである俺らだけでなく、一般のプレイヤ―に対してもそうだ。ならこんな人目に付く場所に置くなって話なんだけどね。

 俺、卓也、大佑の順に入った。

ゲートをくぐると10秒ほどの待機時間が待っている。周りには黒のバックに白で数字やアルファベットが不規則に並んでいる。10秒たつと水色の縦15㎝、横30㎝の長方形が現れた。長方形には黒字で Real World と書かれてある。これが表示されると完全に現実世界とつながったことになる。これが表示される前に出ることはできない。だから10秒の空間の中をどんなに速く、どんなに移動しても出ることはできない。

むかし、大佑と全速力で走ってみたことがあるが、案の定出ることはできなかった。その時の俺らは負けず嫌いで、システムになんとかあらがおうといろんなことを試した。もう何も思いつかないときはひざまずいて「出してくれ~」と懇願したことさえあった(大佑が)。

10秒空間を出ると、そこはもう少し違和感を感じるゲームの世界ではなく、何年も住んで慣れた現実世界だった。

ゲートのすぐ右横には受付用の机があり、そこには受付かつ事務員の北村が座っていた。彼女はちょうど資料を読み終わったところだったらしく、ずれた資料を机にトントンとしてきれいにしながら「ふ~」と息を吐いていた。


「おかえりなさい、勇義君、卓也君。お疲れ様です。」


「ただいま。そちらこそお疲れ様です。」


「ただいま戻りました。」


 俺と卓也は挨拶を返したが、大佑は俺と卓也の後ろを一言もしゃべらずに通り過ぎた。そしてそのまま自分のロッカーのところまで行き、ロッカーのカギのダイヤルを回し始めた。卓也もそれに続いて自分のロッカーのところまで行った。


「まったく、相変わらずね。」


「あいつも本当に嫌ってるわけじゃないと思いますよ。だから気にしないでください。」


「そうね。そうするわ。」


 彼女は北村幸子。年齢はおそらく24才。女性に年齢を聞いていいものかと思い、訊ねたことは一度もない。黒いロングの髪は肩甲骨当たりまで伸びている。

 彼女は俺と大佑が出会ったころには大学生で、バイトとしてここに来ていた。彼女曰く、自分より年下の子が仕事で来ているのに対し、自分はバイトで来ているのが悔しかったとのこと。それで俺らに対抗心が芽生え、大学を卒業したころには正社員として雇われることになった。


「さっき読んでたのは何の資料ですか。」


 俺はごく自然なことを聞いたつもりだったが、彼女は「痛いところをついて来るな~」という風に苦笑いをし、縁が紺色のメガネを外しながら答えた。


「予算についてよ。まったく、いつも考えただけで頭痛くなるわ。」


「もうそんな時期でしたか。また面倒な時期になりましたね。」


「本当よ。毎回毎回この事務所をなくすっていう話が持ち上がるから嫌なのよね。」


「でも仕方ないですよ。この事務所が一番人が少ないんですから。」


 そう。この埼玉県さいたま市唯一のチートバスターの事務所であるここに配置されている人はとても少ない。俺、大佑、卓也、北村のほかに顔を合わせたことがあるのは3、4人ほどしかいない。実際のところの人数は知らないが、この大きさの事務所で見たことがあるのがそれくらいしかいないのだから、本当に少ないのかもしれない。


「それにしても、よ。県庁所在地にある唯一の事務所であるここをなくしたら埼玉は終わったも同然だわ。それに関東で1番よく働いているのはここなのに、ねぎらいの言葉もなく口を開けば閉鎖だ閉鎖だって。」


「1番目というのは言いすぎじゃないですか。」


「そんなことはないわ。ちゃんと労働時間とかほかの事務所と比べてみたんだから。」


 北村さんが言うからにはそうなんだろう。俺は心の中でそう思った。彼女が資料を読み落としたことは今までに片手で収まるほどしかしていない。それに俺はこんな話を聞いたことがある。人口の一番多い東京は仕事をしっかりこなしているように思えるが、実際のところは人数が多いのをいいことに仕事をしっかりとする人はほとんどいないという。それどころか統制がちゃんと取れていないらしい。


「でもどんだけ追い込まれても毎回この事務所を危機から救って守ってくれていますよね。本当に北村さんには感謝しています。」


「当り前よ。この事務所がなくなったら私も新しい職場を探さないといけないんだから。」


「アハハ。」


 なるほどそういう理由もあったのか。俺はそう思いながら自分のロッカーのところまで行った。カギのダイヤルを合わせながら考える。どんなにまじめで負けず嫌いな北村さんでもいつかはここを守り切れないかもしれない。そうなったら俺は他の事務所に行くのだろうか。大佑と卓也とも離れてしまうのか。二人はそうなったときどうするのだろうか。

それとも大学に通い、普通の仕事に就くのだろうか。今も一応大学に通ってはいるがそんなに頻繁にいっているわけではない。単位はちゃんと取れているから大学も順調ではあるからそこまで悩むことではないが。

そんなことを考えているうちに最後の一桁が合わさった。

今考えても仕方がない。そうなったときに考えることにしよう。そう思い、俺はヘルメットを脱いだ。すると前髪が視界に入ってきた。そろそろ髪を切るころだろうか。どうせなら全部切ってしまおうか。俺はそんなことを考えながら、ん?と思った。よく考えたらゲートを通ってからもずっとヘルメットをかぶっていたのか。北村さんは何も言わなかったが、気づいていないわけではあるまい。もしも本当に気づいていなかったのであらば、相当疲れているのだろう。

ホルスターから銃を抜き取り、背中の剣もとった。次にアーマーもとり、ロングコートを脱いだ。私服に着替えてから銃と剣以外をロッカーに入れる。銃と剣も一緒に入れたいが、規則で武器はみんな同じ場所に入れないといけない。ロッカーから10メートルほど離れている場所に武器を並べる。自分、大佑、卓也以外の武器はないからみんなまだ仕事中なのだろう。


「お疲れ様です。」


 小さい声でそう言ってから俺は丸テーブルのある場所に行った。自分のデスクは一応あるが、仕事帰りの書類制作はいつもここでやっている。みんなそんな感じだと思う。少なくとも大佑と卓也はそうしている。

 書類には、年月日・その時の仕事内容・行った場所・何時から何時まで働いたかなどを書かないといけない。そこまで面倒ではないが、大佑はいつも嫌がっている。何がそんなに嫌なんだろう。出会ったころからめんどくさがりだったから別にいいのだが。

 俺はそんなことを考えながらペンを走らせた。そして何か忘れているような気がして手を止めた。少し考えてからすぐに思い出す。


「しまった。三夏が早退したんだった。」


 予算の話を聞いてすっかり忘れていた。最近忘れっぽくなってる。二つの事柄があると後に聞いたほうを覚えて先に聞いたことを忘れてしまうことがしばしばある。若年性アルツハイマーだろうか。

 いやいや、今はそんなことより早く書類書いて帰らなきゃ。

 俺は書類を書く手を速めた。焦っているときほど間違いやすくなってしまう。人間って不思議だな。

 普段は10分ほどかかる書類を半分の5分で書き上げて北村さんに渡した。こんなに早く書けるんだと自分でも驚きながら早歩きで廊下に向かっていると


「勇義君。」


 と呼び止められた。後ろを振り返ると、北村が俺が書いた書類を片手にこっちを見ていた。


「なんでしょう。」


「名前がないよ。」


 おっとしまった。皆さんは、名前くらい書いてやれよ北村さんと思うかもしれないが、彼女はどんなミスでも彼女がなおすことはない。それは後々のトラブルを避けるためらしい。普段はしっかりしてるな~と感心するところだが、今の状況ではやめてほしい。

 俺は北村のところに行き、書類を受け取り、書類作成中の卓也の隣で立ったまま名前を書いた。


「あれ?卓也君、大佑は?」


「トイレに行きました。」


「あ、そうっすか。」


 書類書かずに帰ったのかと一瞬思った。


「お疲れ様です先輩。三夏ちゃんにお大事にと伝えてください。」


「お疲れ様。ありがとね。大佑にお疲れって伝えといて。」


「わかりました。」


 俺はそう告げると、今度は名前をちゃんと書いた書類を北村に渡した。今度はもう何もなかった。俺は「お疲れさまです」と北村に告げて廊下に出た。


どうでもいいことなのですが、「Mt.」や「Dr.」は「Mountain」と「Doctor」の略で、

「M」と「t」、「D」と「r」がともにもともとの単語に入っているのに、

「No.」は「Number」の略で「o」はなぜ入ってるのでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ