第二話 仕事帰り
40分ほど歩いただろうか。やっと拠点についた。結構離れていたんだなと改めて思った。
ここにたどり着くまでにそこそこ強いモンスター2体にひっかかってしまった。しかしそこまでてこずることもなく、サクサクと倒すことができた。不思議なことに、今まで強いと思っていたやつがウイルスを討伐した後には簡単に倒せるようになっている。経験を積み、慣れてきているからだろうか。こんなまっとうではなさそうな仕事に慣れてきてしまったなんて。この仕事をしている人はゲーム廃人と同じではないか。
まあこの仕事は好きだから良いんだけどね。
この仕事が始まった時はうれしかった。あの頃は剣や銃を使って戦うというアクション系のものが好きな年ごろだったからなおさらうれしかった。
それを考えると、大佑のほうはこの仕事のことをどう思っているんだろう。俺と同じ時期に始まったって言ってたけど。自分と同じならやはりこの仕事が始まった時はうれしかったのだろうか。そして今でもこの仕事が好きなのだろうか。4年間一緒にやってきたが、こんな話はよく考えたらしたことなかったな。
「やっと着きましたね。意外と離れてたんですね。疲れているからなおさらそう感じます。」
卓也はつらいのを隠すように笑いながら言った。
「確かにそうだね。やたら離れてると感じてたけど疲れているからか。」
「書類制作なんて適当に済ませて帰ろうぜ。」
首に手を置き、頭を左右にコキコキ鳴らしながら大佑はだるそうに言った。
「だめですよ大佑さ…すぇ…先輩。書類はちゃんと書いとかないとあとでめんどくさいことになりますよ。
「……。」
大佑の心情が分かった。おそらく「先輩って呼ぶのにそんなに抵抗があるのかよ」と思ったのだろう。俺も一瞬そう思った。
「まあまあ卓也君の言ってることは正しいよ大佑。それに適当に書いても結局北村さんに書き直しって言われるだけだよ。」
「うっ…。すっかり忘れてた。」
「なんで大佑先輩はそんなに北村さんが嫌いなんですか?いい人なのに。」
「別に嫌ってはいないと思うよ。たぶんちょっと苦手なだけだよ。」
俺は苦笑しながら言った。まったくいい加減気を許せよ。北村さんいっつもあんなんだけど心の中では泣いてるかもしれないぞ。そのうち部屋の隅で本当に泣いちゃうかも。まあ今泣かされてんのは大佑のほうだけどね。
そんなことを考えていると卓也がアイテムポーチ、リュックをごそごそとしているのに気が付いた。彼は小さい声で1,2,3…と何かを数え、次に自分のアイテム欄を見た。そのあと少し考えてから「うへぇ~」と小さい声で言った。
「卓也君どうしたの?」
すると彼はこっちを見て苦笑しながら言った。
「いや~、はじめ46個あったポーションが19個になってて少し驚いて。」
「そんなに使ってたのか。それだけ今回のは強かったのか。」
「そうみたいですね。今までの恐竜型ウイルスはそこまで強くなかったのに。」
「ウイルスも進化してきてんじゃねえの?知らんけど。」
「可能性はゼロじゃないね。いまだにハッカーとしてウイルス作ってる人もいるらしいし。」
「とりあえずポーション買ってきますね。次回にしてもいいんですけど今回は早く終わって時間があまりまくってるので今のうちに買っときます。先に行ってていいですよ。」
「いや、待っとくよ。使ったのは君だけじゃないし。お金も払わないとだしね。」
「ええ~、待っとくのかよ。早く帰りたいんだけど。」
「そんなに時間かからないからいいじゃん。それに先に行ったら一人で北村さんに会うことになるよ。」
「…いじわる。」
そういうセリフはお前が言っても全然かわいくねえよ。
「じゃあ行ってきます。」
「うん、よろしく~。」
「4649~。」
?なんか違和感。
卓也は最寄りのショップに行ってポーションを買い始めた。
「…なあ大佑。」
「あっ?なんだよ。」
「お前この仕事のことどう思ってる?」
俺は先ほどの疑問をぶつけてみた。
「どうって…どういう意味?」
「俺はこの仕事が好きだ。お前はこの仕事好きか?それとも嫌いか?」
「……そんなこと考えたこともなかったな。俺は仕事の時はいつも早く帰りてえって思ってたけど…。まあ仕事というものは嫌いだがこの仕事は好きかな。ゲーム好きだし。好きなことを仕事にできるって幸せなことかも。あんな形でそうなったのは嫌だったけど。」
「まあどんな形であれ良かった。少なくとも俺はそう思う。」
「なんでこんな話し始めたんだよ。」
「4年間一緒にやってきてこんな話したことなかったなあと思って。」
そういうと大佑は少し考えた後に少しうなずいて言った。
「確かにそうだな。」
「でしょ。」
「不思議だな。たいていの人はそういう話は初めて会ったときにするのに。」
「俺たちが初めて会ったときはそんなこと話せるような状況じゃなかったからね。」
「主にお前がな。」
「え~、お互い様だろ?」
「いや、お前のほうが深刻だった。」
「そうかな~。」
俺は頭をポリポリとかきながら考えた。もしかしたら大佑の言ってることのほうが正しいのかもしれない。よく考えたら大佑と会うまでの記憶がほとんどない。記憶がはっきりし始めているのは大佑と会ってから1、2か月たったころぐらいからだ。それは大佑のおかげなのだろうか。
「お待たせしました。」
「何個買ったんだ。」
「17個です。」
「あれ、なんか少ないね。」
「さっき団体が買いに来たらしいですよ。」
「なんでだろう?」
「ただの買いだめじゃないですかね。別に珍しいことではないですから店長に聞くの忘れてました。」
「何やってんだよ。そういうのは話の流れでふつう聞くだろ。」
「う、うるさいですね。ちょっと抜けてただけですよ。」
「まあまあ。17個だったよね。それなら俺と大佑が1560リルずつ払うよ。」
「ええ~、今金欠なんだよ。なあ1300リルにしてくれよ。」
「君は年下の卓也君よりも少なく払おうとしてるのか。」
「先輩いいですよ。最近買うもの何もなくてお金たまってるんで。何なら先輩の分も僕が払いますよ。いつもお世話になってるし。」
「いや、そんなことしたら寝覚めが悪い。それに雪にも怒られちゃう。」
「えっ、雪先輩ですか?」
卓也は目を輝かせながら聞き返してきた。本当に雪によく反応するなあ。
俺には妹が3人いる。しかし残念ながら血はつながっていない。3姉妹のうちの長女が雪だ。雪と卓也は同じ学校に通っている。雪は高校2年で卓也の先輩だ。そして卓也は雪に熱を上げている。雪のほうはというと、卓也が告白してきたら付き合うつもりらしい。自分からは告白しないとこの前笑顔で言っていた。すごく好きというわけではなく、付き合ってあげてもいいよというスタンスらしい。しかしツンデレというわけではない。クールな小悪魔とでもいうべきだろうか。前に読んだ「屋上の〇ロリスト」の女の子みたいな感じだ。
俺はただの妹としか見ていない。あたりまえだよな。
ピピピッ
不意にそんな音がした。はて?なんだべ。
「先輩、それ鳴ってますよ。」
「え?」
俺は腰のあたりを見た。確かに厚さが1㎝、一辺が4㎝の六角形の箱のようなものが音を鳴らしながら震えている。
「本当だ。なんだろう。」
俺は腰からそれを取り、ある一辺についているボタンを押す。すると青い人型のホログラムが現れた。
「どうしたのツルメさん。」
「ふとあなたの顔が見たくなったと言ったら喜びますか。」
「まあうれしいけど本題はそうじゃないだろ。」
「その通りです。」
彼女は俺がチートバスターになった時にもらった高度なAIだ。名前はツルメ。初めて会ったときに名前の由来を聞いてみたところ、作った人がスルメが好きでそこからツルメになったとのことだ。はじめは冗談かと思っていたが後で作った人に聞いてみると本当にそうだった。なんともふざけた名前だろう。
「で、ご用件は?」
「三夏様が体調不良で早退したとのことです。今は大丈夫そうですが頭がいたいそうです。なるたけはやく帰ってきてと雪様がおっしゃっていました。」
「わかった。雪も早退したの?」
「いえ、早退したのは三夏様とうらら様です。うらら様が付き添いで早退し、雪様に連絡したらしいです。」
「なるほど。今日はもう上がるからすぐ帰ると伝えて。」
「承知しました。」
そう言ってツルメは消えた。
「三夏ちゃんが体調不良なんて珍しいね。大丈夫かな。」
柄にもなく大佑が心配そうに言った。
「たぶん大丈夫。でも書類制作とかは早めに終わらせて帰るよ。」
「そのほうがいい。」
そして俺らはゲートに向かった。