表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

1 われに返りました

前略

「よってお前との婚約は今をもって破棄とする。そして私はこのミレーナ・トウレー公爵令嬢を新たな婚約者として指名する」


「マイヘル! 嬉しい!」


「ミレーナ、きっと幸せに(中略)よ」


そんなこんなありまして、わたくし婚約破棄されました。あ、今もお花畑な茶番は進行中です。ちゃーらーって舞踏会の演奏まで始まってますわよ?

わたくしの周りだけ人が避けて通りますわよ。ええ。まぁいいのよ。わたくし嫌われていましたものね? ええ。


愛しの婚約者に婚約破棄されたショックでくらりと倒れたわたくしアルリア(舌かみそうな名前でごめんなさいね)は、そのまま誰に支えられるでもなく地面にばったり倒れましたわ。

一瞬気絶している間に、私はなんだかいろいろなことを思い出しました。


そうだわたくし、反抗児だった。

貴族教育で洗脳されきってて忘れてたわー。しっぱいしっぱい。うふふふ。でもでも! 失恋したおかげで思い出したわこの気持ち! 怪我の功名ね! くっ


すくと立ち上がって、会場の中心でまわりと私に見せつけるように、でもお互いしか見えていない感じで踊っているお花畑な二人、元婚約者と、急ごしらえで公爵家に養子になった元男爵令嬢に頭を下げて退出する。

今日は学園の卒業パーティーだったのだ。

おめでたい日におめでたくないことになっちゃった。あ、まだ胸がうずくわ。やだもーどうして恋心って一瞬で消えてしまわないのかしらね?

あんな不誠実男こっちから願い下げですーっ! ふん!


そりゃー私は、ちょーっと貴族教育の洗脳がかかりすぎてお高くとまったお嬢様でしたけど?

言ってることは正論ですし?

婚約者ないがしろにして浮気ざんまいなお二人をみんなで「キモイーキモイー(意訳)」と言い合っていたのは個人の恋愛観の問題ですし?

それで元男爵令嬢が女生徒たちからのけものにされるのは自業自得ですし?

殿下に対して「愛妾をめとるおつもりなのですか?」と聞いたとき、怒りと悲しみを込めないためにがんばってつめったーい無気質な声で言いはしましたけど、慰謝料もなしに、こっちのせいにして婚約破棄はないわー。


他の貴族の皆様も《王族相手では喧嘩売れない。それほどわたくしのこと好きじゃない。我が家の権勢が王子との婚姻で盛り返す見込みなくなっちゃって泥舟と見込んだ》がためにつめたいですわね。いいわよいいわよべっつにーわたくしだって好きでこんな貴族してるわけじゃないしー

権勢問題が暗礁(あんしょう)にのりあげたからには、むしろ親の洗脳も無効化ってことで? これからは好きにやってやるんだから!


今の貴族制度は王家に認められた家だけが目立っていますけれど、庶民のお金持ちの中には純然たる良心での慈善事業をしている方がたくさんいらしましてね、ええ、とっても立派なんですけれど、これが今ひとつ広がらないのですよ。

手広く人助けするには貴族の承認が必要で、その承認をえるためには賄賂(わいろ)が必要で、でも清廉潔白な慈善事業家はそういうのを嫌う傾向がありまして、清濁併(せいだくあわ)せのむ、の精神で賄賂もそつなくこなすような器用な方くらいしか活躍していないんですの。


そもそも慈善事業なのに税金とってこうとするお国もおかしいでしょう?

さらに賄賂まで要求するなんて悪徳でしょう?

もうわたくしムカついてムカついて、物心ついて貴族社会の勉強するにつれてどんどん反抗期こじらせていったんですけども「清濁併せのむ」精神がなければ成したいことも成せない。

敵を倒したければ外からよりも内からが効果的、という戦術をもとに貴族らしい貴族となって貴族社会での権勢を手に内部改革を! という説得に「それもそうね!」と素直に従って意気込んでいたのですが


気づけば私もほかのみなさんのように貴族としての見栄だとか、あるべきありかただとかが大事になっちゃって、しかも愛しの婚約者が他の女にうつつを抜かしているとあってはもうそれで頭いっぱいで。

あらあらすっかり改革のこと忘れてましたわーあははははは。


面白くもない不愉快な殿下たちのラブロマンス話を前略中略するくらいしか反抗心残ってませんでしたわ。しっぱいしっぱい。


でももう思い出しました!

そして学びました!


私に内部から攻撃するなんていう賢いからめ手はできない! 無理! 染まっちゃう!

ミイラ取りがミイラだわ!

方法を変えましょ!


「お父様ー!」


「あ、アルリア!? 貴族がそのような大きな声を出すものではないよ」


「うっさいですお父様。お父様のいう通りにがんばってもろくなことないのでもう私好きにやっちゃいますわ!」


「な、なんだ? なにがあった」


そそそっとパーティ会場の外からずっと私についてきてくれていた侍女がお父様に耳打ちする。


「は!? 婚約破棄!? 聞いていないぞ!? 陛下がそうおっしゃったのか!?」


「殿下ですお父様。でも陛下の承認済みだそうですわよ」


「な、なんという……私の努力が水の泡ではないか……」


「そういうわけで! 今のわたくしは社交場での笑い者! あれこれ画策すれば名誉回復もあるかもしれませんけれど? わたくしそういうの下手だと! 今回のことでよーくわかりましたの! なので遠慮なく、失恋の痛みで領地にひきこもることにいたしますわ! 領地ではもうわたくし好きにさせていただきますので、お父様、お父様ご不在の間はわたくしに全権をゆずると! 一筆くださいませ! さーさーさーさーさぁ! さぁ!」


ずずい、と執務室のテーブルに手をついてお父様につめよる。

お父様はへのへのした顔でがっくりと肩を落とした。


「すっかり元に戻ってしまって…私の努力が水の泡ではないか……」


言いつつ引き出しから書類を取り出し、万年筆を走らせる。

はい、一筆いただきましたー!


「ありがとお父様!」


「もう好きにしなさい……」


お父様が諦めたー! やったね!

うふふふ。


殿下はわたくしのことワガママだっておっしゃいましたけど、その通りわたくしワガママですの。


むくわれない子がいるのが気に入らない、発明家がつぶされていくのが気に入らない、芸術家の卵がなかなか育たないのも気に入らない、浮気が容認される愛妾なんて気に入らない、庶民に学びの場がすくないのも気に入らない、貴族女性はお茶会しながら裏工作が役目っていうのも気に入らないし、男しか当主になれないのも気に入らないんですの。


それ全部隠し通して、貴族らしい貴族していた滅私奉公な過去のわたくしをワガママと呼ぶのも気に入らないのですが

まぁわたくしの本質を見抜いていたということにして? 許して差し上げますわ、そこについてはね?


わたくし考えましたの。

我が家は仮にも公爵家。

王家の顔色をうかがう弱腰親父なお父様に遠慮して、今まで我慢してきましたけれど

ここは公爵家の強み《王家には逆らわない代わりに自治に関する変更は自由に行って良い(ただしやめろと言ったらやめろよな。アポなし視察も受け入れろよな)》を最大限に活用して、全部やってやろうじゃないの!

我が理想郷はここにあり!(予定)


一筆いただきましたように、お父様は弱腰なので、うらうらと尻叩いてれば勝手に丸くなって言う通りになってくれますわ!

王家からのチクチク攻撃「娘いま何してんの?」も適当にへこへこしながら踏ん張ってくださることでしょう!

まぁでもそれでも一応現公爵ですからね、あちらの不貞理由での婚約破棄なので慰謝料どうこうで反撃くらいするでしょう。そちらは任せました。

あなたの犠牲は忘れません。ありがとうお父様っ


さ、わたくしは楽しい領地改革ー!

行ってみよー!


「テルナ! 行くわよー!」


「はいお嬢様!」


わたくしが元気になって、わたくしの侍女テルナも嬉しそうですわ。

護衛のトマ、ジバも引き連れて、馬車に乗り込みました。

レッツゴー故郷!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ