『ラストデイズ 4』
聖域と呼ばれる渓谷まで、およそあと二日というところまで来た。町がなければモンスターを狩って調理をし、寝床がないのなら野宿をする。
そんな意気込みで出てきたのだが、なかなかそういう場面に出くわす事はない。モンスターはいない、ちょうどいいところに町はある。冒険者というよりは旅人になっている気がする。危険がない事はいい事なんだろうけど……なんか釈然としない。
「はぁ……たまには魔獣の一匹でも出てこないかなぁ?」
「ハハハ、それは無理だろうね。魔族が暴れまわったお陰で魔のつく生き物は表へ出てこないよ」
「クソー、あいつらどこまで迷惑かけんだよ!」
「でもコノハとルナのお陰で近頃は平和なのです」
のほほんとした会話の中、魔獣が出ないことの何が迷惑なのかとずっとリッタが考え込んでいた。
実際悪い事なんてなに一つないんだけどね。平和ボケしてるからこんなことが言えるんだろう。
「そう言えばさ、リッタは世界が見たくて旅をしたかったんだよね?」
「うん、半分くらいあってるよ」
「半分?」
「えへへ、それはないしょ! もう私の夢なんて叶ったようなものだよ。心葉が居てくれて、ゆぅが居てくれて、ルナが居てくれて、私が欲しかったものはたくさん貰ったよ。見たい世界もたくさん見れた」
「まだ一ヶ月も経ってないんだけどな……」
「それでもいーの!」
「リッタがいいなら良かったよ」
天使の如き微笑みが、僕の心を完全に射抜く。僕は天使三人に囲まれてるんだ。改めてそう感じた。
これで何回同じことを考えたか分からないけど、僕は自分らしくやりたい事をやって生きてこうと思う。たとえ間違った選択をしたとしても、彼女たちなら止めてくれる。そう信じることにした。
「あと二日で聖龍にも会えるんだよなぁ。伝説の存在を目にできるんだもんな。なんだかワクワクしてきた!」
そう言って歩くスピードを上げる。
「コノハは聖龍に会って何をするのですか?」
「え?」
唐突なゆぅの質問ですぐに足が止まる。今さっき結論が出た筈なのに、そこを突かれると辛いものがある。
正直に言うならば今が一番良いタイミングだろう。だけど本当に言ってしまっていいのか……僕は少し考えた。
「僕は聖龍から魔法を教えてもらいたい。自分がもともといたところに一度戻るつもりだよ」
「コノハのいた国ですか。でも、それならゲートの魔法を使えばいいのではないのですか?」
少し捻ってはぐらかそうとした僕に、ゆぅの鋭い一撃がかまされる。
新たな言い訳を考えなければ。
「ゲートじゃ届かないくらいに遠いから。地図にも載ってなかったし……」
なんだか下らない言い訳だな。まあ嘘を言っている訳じゃないし、いいだろう。
「そんな事より、早く行こうよ! 聖域までもう少しだよ!」
「はい!」
「うん!」
強引に話しを片付ける僕だったが、横でやれやれと言った感じでルナが僕を見ていた。
今日もまた、何も起こらないまま一日が過ぎ去っていくのだった。