『罪悪感からの解放』
いつから気づいていたのか、何故気づかれてしまったのか、僕は自分の過去を振り返っていた。
「全部知ってるんだ。いや、知ってしまったと言った方がいい」
「何で……どこでそれを……」
言わなかった自分が悪い。バレたからと言って何も悪いことは無いけど、どこかに焦っている自分がいた。
今までの日常が壊れてしまうのではないか、リッタが、ゆぅが、ルナが僕から離れて行ってしまうのではないか。
彼女たちを信じきれない自分が憎い。
どんなに仲良くなっても……どんなにいつも側に居てくれたとしても、どうしても誰かを信じきる事が出来ない。
イジメを通して知ってしまった、人間の習性とでも言うのだろうか。今までずっと心の底に抑えこんで表に出さないようにしていた悲しみや寂しさが、こんな形で僕に影響していたなんて。
「君が魔族と戦った直後だと思う。君が真昼間から寝ているのに気づいたんだ。ボクも暇だったから驚かすつもりで夢の中に入ったけど、辿り着いたのは夢の中じゃない異空間だった」
「まさか、あの時の……‼︎」
「その通りだよ。君が神さまと呼んでたあの人と話している時、ボクはあそこにいたんだ。ずっと話しを聞いていたよ。君が異世界から来た事にも神が存在する事にも驚いた。全部知っていて、ううん、全部知ってるからこそ、君について行きたいと思ったんだ」
衝撃的なことが次々と出てきて、内側では不安や心配に駆られて心が締め付けられる気分なのに、表面では軽い笑顔で対応していた。
それに気づいた瞬間、僕の心は更に締め付けられた気がした。
「ボクは君から話してくれるのを待ってたんだよ?」
ルナは追い討ちをかけるように続ける。
「でも君は話してくれなかった。しょうがない事だけど、少し悲しかったよ」
そう言って俯くルナに、ごめんと声すらかけられず、ただただ次の言葉を待つだけだった。
「でもね、君が目を覚ました後、ボクも神さまと話したんだ。心葉の事を、君の過去を教えてくれた。だから君がずっと心配してる事だって知ってるし、その理由だって分かるよ。ボクやこの二人が離れていかないかと不安なんでしょ? ずっとそうやって思ってたから、ボク達に話してくれなかった。そうだよね?」
「うん、そうだよ……。君らが離れていくのが怖かった。だから話さなかったんだ。どうしても、どうしたって信じきる事が出来なかったんだ。本当にごめん」
ごめんと一言口にした時、僕の目から涙が溢れた。ずっと抱えてた悩みを初めて話したのだ。抑えていたものが溢れて出てきてしまった。
泣いて下を向く僕を、ルナが優しく撫でてくれる。顔が直接見えなかったが、横で彼女が微笑んでいる気がした。
「ボクはさ、神さまに話しを聞いてから、ずっと君の事を心配してたんだ。きっと君はボク達に隠し事をしている上に信用すら出来てないなんて自分を責めてるだろうから。
どうにか君をその悩みから解放してあげたかったんだよ。でもボクが普通に話しをしても、上辺だけの笑顔を浮かべて頑なに否定するでしょ? だからこうして二人が寝ている間に話そうと思ったんだ。
よく聞いて!
リッタもゆぅも絶対に君から離れない! ボクだって同じだよ!
みんな君の事が大好きだから!」
あの時と同じだった。初めてリッタに会って一緒に寝た時。彼女は僕に『もういなくならないよ。ずっと一緒にいる』と、そう言ってくれたあの時と。
ルナは僕を悩みや不安の渦から解放してくれた。今まで溜め込んできたもの、ずっと縛り続けてきた悲しみや不安や寂しさといった感情が一気に解き放たれ、大粒の涙となって心から出ていく。
大きな安心と共に、僕は彼女に頭を撫でられながら長いこと泣き続けたのだった。




