『消え行く希望』
あの街を目指しておよそ3時間、僕は歩きに歩いた。
その距離ざっと10キロ。はないだろうけど気持ち的にはそれぐらい歩いていた。気持ちだけで言えばさっきの夢の分も合わせて20キロにもなりそうだ。
かなり疲れて汗もダラダラ、少し文句も言いながらの3時間だったけど、意外と楽しくもあり、僕はようやくあの街に辿り着いたのだった。
うっわぁ~マジですか……異世界ヤベェな!
町に着いて、すぐに新しいものが目に入る。
街行く人たちを見てみれば、そこに居るのは人間じゃない。いや、人間と言うべきではあるかな?
人間の姿をした動物、獣人だ。そのほかエルフをはじめとする精霊系統の種族がいる。この世界でなんて呼ばれてるかはわからないけど、それらしい人がたくさんいるのだ。
アニメのような、漫画のような、ゲームのような世界がそこには存在していた。僕が知っている種族から、全く知らない種族まで、数えてみれば数十種類はありそうだ。
ようやく買えたRPGの中に入り込んだ感覚で、大通りを進んでいく。そこにはもちろん普通の人間もいるけれど、誰一人としてまともそうな人がいない。RPGの世界を考えると普通なのかもしれないが、何というか……サイズが違う。ガタイが良くて、身長も180くらいが平均かな?
出来ることなら誰かに助けを求めたい所だけど、話しかけられそうな人が誰もなぁ……。
僕はもとから少し人見知りだ。多少は改善されているけれど、慣れないとうまく会話ができない。まぁ慣れてても上手く出来る訳じゃないけどね。
普通の人でもダメなのに、こんなに威圧感があったら流石にどうしようもないよ……。
男は屈強な戦士みたいな感じがして、女の人たちはそうでもないけど、背中に武器を背負ってるから怖くて怖くて。日本での優しい暮らしのせいか、武器と言うものにとても恐怖感を感じた。
そんな異世界感丸出しの嬉しい街だけど、どうやらここでは僕が生き延びる術を見つけることは出来なそうだった。
はぁ……まったくなんなんだよ!
ここは冒険者たちの村なのか?
僕の駆け出しの村はラスダン手前の村なのか?
異世界初心者にこうも上級の試練を与えてくるとは。僕をここに送った奴は一体何を考えて……あれ? そういや誰がこんな事を……?
いろいろありすぎて、『誰が』のところを考えるのを忘れていた。その『誰』が分かるまで、きっと地球に帰る事は出来ないんだろうな。生きるのも不安なのに……。
親の為にも、僕の為にも、溜まってしまっているアニメの為にも僕は帰らなきゃならない。
だから何か……何かここで行動を起こさないと永遠に帰れなくなる。なんて、そんな事は百も承知だ。
でも、やっぱり僕にはそんな事は出来なかった。
日本はとてもいいところだったってすごく思う。
つまらないと感じる事が多いけど、あそこはなにかと初心者には優しい。少なくともここよりは……。
はぁ……みんな今頃なにしてるのかな?
必死になって僕をさがしているのだろうか。
誰にも助けを求められない僕は、ただ一人、道の端っこにしゃがみ込んで街行く人々を眺めているしかなかった。
奇跡が起こる事を信じて。
次回もお楽しみに!