『出発フレイジア』
次の日、ルナの王国宮廷魔術師の座を辞退する手続きはとても手間取ったけど、僕らの功績も汲み、何とか旅を再開出来る事になった。
「国王陛下があんな真っ青になるなんてねー。少し酷い事をしちゃったかな?」
「フレイジアにとっては大損害だしね。君も本当に辞めちゃって良かったの?」
「ボクの本職は研究者だから心葉達といた方が楽しいんだよ。それにフレイジアには優秀な騎士が沢山いるからね」
フレイジアには悪いけど、僕らも引けないからな。何としてでも抜ける必要があった。どうしようもないことだ。
フレイジアを出発してから、ずっとそんな会話をしていたが、リッタの疑問によってどこかに吹っ飛んでいった。
「そう言えば、聖域ってどこにあるの?」
「僕も気になってたんだよ、それ」
「わたしもなのです!」
三人で同時にルナの方を見つめる。えっへんと言わんばかりの表情の浮かべながら答えた。
「ふふふ、それはね、ここからずうっと東へ進んだところ、『レイガル渓谷』に入り口があるんだよ」
「レイガル渓谷⁉︎」
一人驚いたのはリッタだ。僕とゆぅはまったく分からず首を傾げる中、リッタだけあわあわしている。
リッタってずっと宿屋にいたから、かなりの情報通なんだよな。きっと今回もどっかで変な噂でも聞いた事があるんだろう。
予想通り、リッタは噂の内容をルナにぶつけた。
「レイガル渓谷って……行くと帰って来れないとか、人が消えるとか、ドラゴンの巣とか言われてるところだよね?」
「あー……それね。合ってると言えばあってるかな。ドラゴンの巣なのは確かだよ。でも後のやつはボクが流した噂だね。人が寄り付かないようにって。実際にはかなり安全なところだよ」
「はぁ……何度も聞いた噂だったから本気にしてたのに。ルナが流した噂だったんだ」
「いかにも得意そうだよねー」
「どういう意味だい、心葉?」
「そのまんまの意味だよ」
だって得意そうなんだもん。僕は割と本気でそう思ってる。ルナはそういう事を平気でやりそうだから怖いんだよな。
今日もまた、ぷくーっと膨れるルナを見て笑ってしまう。毎日のように膨れてるのは気のせいなのかな? リッタもゆぅもルナも膨れるのが相当好きらしい。
「そんな風に思ってたなんて、師匠はガッカリだよ。可愛い弟子が牙を剥いてくるなんてね!」
「師匠と言うか……もう妹のようにしか見えないけど」
「妹⁉︎ 愛人でもなく妹なの⁉︎ ボクやっぱり宮廷魔術師に戻ろうかな……」
「愛人じゃないのは確かだとして、それは困るよ」
ハハハと笑いながら、時間にして十日程かかる距離を、僕らは歩き続けるのだった。




