『魔力武器と実験』
「まずはこの杖で試してみますね」
「おお、その杖か! 懐かしいな! それは俺が三年前ぐらいに作った杖でな。いい感じに出来ちゃいるんだが買い手がつかなくてな」
「それで残ってるんだ……」
「嬢ちゃん、痛い事をストレートに言うなぁ」
おっさんはリッタの一言にがっくりと肩を落とす。どんだけ自身があったんだよ……。
第一武器の説明を毎回受けていたんじゃ時間がかかってしまってしょうがない。だからこれで良かったんだよ! おっさんには少し静かになっててもらおう。
左手に杖を持ち、その杖に向けて右手を大きく開く。
やはり呪文は特にない為、無言のまま静かな時が流れていた。右手が静かに光り出し、さっきと同じようにだんだんと強い光となっていく。大きくなった光は僕の手から杖を覆い込み、さらに光度を増していく。
三回目と言うこともあって僕も少しコツを掴んできた。さっきよりも精度は上がっているはずだ。現に光の輝き方がさっきやった時よりもかなり安定している。
安定した光はより大きく強い光となって、最後にはパシュッと軽い音を立てて一瞬で弾けとんでしまった。成功だ!
「出来ました!」
「何度見てもすごいな、これ」
「多分さっきのやつよりも性能がいいと思いますよ!」
「ここまでくると俺には性能の良し悪しがよく分からん……」
「私も分かんなーい」
「わたしも分かりません」
「僕も感覚だけだどね」
なんだかリッタの分からないだけ違って聞こえたような……。いや、これは気にしないでおこう。うん、その方がいい!
それに人の事ばっか言ってらんないよ。僕もほとんど感覚だけなんだよなぁ。性能がいいだろうっていうただの勘かな。そもそも『パニッシュ』の性能ってなんだろう? 魔力を消すのに良いも悪いもないか……。
そんなことは置いといて、ようやく試作品の完成だ!
ちゃんと魔法が使えるといいな。リッタもゆぅも満足出来る結果になりますように!
願っているだけじゃしょうがない。
よし、さっそく試し打ちといきますか!
そう意気込んで、僕はリッタに杖を手渡した。おっさんの自信作がリッタの右手に装備される。
「さあ、魔法を使ってみて!」
「いくよ! 『フレイル』‼︎ 」
どうだ‼︎ いけるか‼︎
杖が軽く輝きだし、リッタの前に魔法陣が出現する。見慣れた星と円は静かに、だが壮大に見える。輝きながら回転する魔法陣の文字は、新たな光を生み出すとともに、小さな火の玉を作り出した。
これもまた成功したようだ。
「心葉、出来たよ! 魔法が消えないよ!」
リッタは魔法が使えることにとても喜んでいた。いつもの笑顔がさらに眩しくなる。炎天下の『フレイル』は、その暑さを更に強くするようにメラメラと燃え盛っていた。
そんな火の玉を見て、ゆぅも喜ぶ。
「これならわたしの弓でもちゃんと使えるのです!」
リッタと一緒に喜ぶゆぅ。彼女の笑顔もまた眩しいものだ。二人が喜んでくれることはとても嬉しい。
だけど一つだけ疑問が残ったままだ。
『フレイル』が発動したってことは『パニッシュ』は発動していないって事だ。
これは本当に成功なのか? たしかにパニッシュはかかっているはずだし……普通の魔法は……いや、まてよ?
僕が知っている魔法や魔力の付与は何もひとつじゃなかったはずだ! もしもこの世界での魔力付与が詠呪によって発動するものとすれば…………それだ!
「『フレイル』!」
「え? 急にどうしたの? ちょっ、なにこれ⁉︎」
「敵襲か⁉︎ ……な、なんだこれは⁉︎」
「コノハ、どうしたのですか!」
僕らの前に、リッタの出したものとは比べ物にならないほどのデカさの火の玉が出現したのだ。火の玉と言うには小さすぎるかもしれない。太陽の如く燃え盛る業火の塊。言葉にすればかなりの魔法に感じるが、それは確かに『フレイル』によるものだった。




