『大きな幸せ』
少し経って、やっとおっさんが口を開いた。
「坊主、1度試してみるか?」
「え? なにをです?」
「うちの店には長年売れてねぇ武器がわんさかあるからよ。その中の杖で試してみねぇかっつーことよ!」
「そんな、いいんですか?」
「ああ、もちろんだ! おまえさんは俺に面白えもんを見せてくれたからな。こんな常識をぶっ壊したような奴、俺も初めて出会ったんだ。そいつのためなら一肌脱がんとな!」
異世界に来てからどれくらいの時間が経ったのだろうか。1ヵ月は経ってないかな。
でも、たったそれだけの時間で僕は超人と化してしまったようだ。魔族を倒して、Aランクのモンスターを倒して、武器に魔力を付与した。僕自身ではなにもおかしな事はしてないと思う。いや、魔族を倒せたのは想定外だったけど。
どれもこれもアニメの主人公がやっていたことだ。
僕はまだまだ彼らには遠く及ばない。だけどこの世界でなら彼らのような存在に近づけるのかもしれない。きっと僕の思う主人公に着実に一歩ずつ近づいているんだろう。
さぁ、話を戻そう!
ええと確か試しに武器を使っていいって感じだったかな。ここはおっさんに甘えさせてもらおう。これからに活かせるかもしれないしね。
「それじゃあやってみましょう!」
「おう! 店から武器持ってくっから少し待ってろ!」
そう言っておっさんは店に入っていった。その背中は、ギンギンと照りつける日差しのせいで、汗びっしょりになっていた。今日はやたらと暑い。この世界にも四季があるのなら、さっさと秋になって欲しいものだね。
垂れる汗を拭きながら、おっさんが戻るのを待った。
またおっさんが戻ってくるまでリッタがずっと「まだかな? まだかな?」 って言っていたのに少し笑ってしまう。
汗で少し濡れている金色の短い髪が、太陽の光を反射してより一層キラキラとしている。笑顔と相まってとても可愛く輝いて見える。
ゆぅの長く白い髪も風邪に靡きながら、白く輝いていた。小さな体とその輝きが、彼女が精霊だと言う事を僕に再認識させる。
こんな幸せな日々をありがとうございます、神さま。
僕はおっさんが戻るまでの短な時間に、大きな幸せを感じていた。
そして、リッタのためにもゆぅのためにもどうにか魔法を使えるようにしたいと真剣にもしもの時の打開策を考えていたのだった。
少ししておっさんがいろんな武器を担いで戻ってきた。でかい図体なのは分かるけど……いったいいくつ持ってきたんだよ。試すだけなら1つでいいでしょ……。
「さあ、材料はいくらでもあるぞ! 存分に試してみるといい!」
「ありがたいんだけど、この数は多くないですかねぇ?」
「まぁ多いに越したことはないだろ? それに他にも試してもらい事があるんだが。お前さんなら出来そうな気がしてな」
やっぱりそういうことだったか……。提供して貰ってる以上文句は言えないしな。しょうがない……とことんやってみるか。
「分かりました。良いですよ。僕自身の勉強にもなるので」
「うっし! それなら早速始めるとするか! まだまだ昼前だ。時間ならいくらでもある」
「そうだよ、心葉! 時間ならいくらでもあるよ!」
「買い物はまた明日です!」
なんだかみんな意気投合してる?
僕だけ違うみたいだ。
さっきのおっさんの言葉で思い出したけど、今ってまだ昼前なんだよなぁ。何時までやるつもりなのかな? あんまり遅くまでやると精神的にも体力的にも持つ気がしないんだけどな……。
まぁこれもリッタとゆぅのためだ!
今日は頑張ろう!




