『魔力付与』
場所はまた武器屋『アイアン』に戻る。
僕らはあの店長を含め、アイアンの裏の鍛冶場にいたのだった。
「あの……ほんとにやるんですか?」
「おうよ、その力をどうかこの目で見てみたいからな!」
「うん! 私も見たい!」
「わたしも見たいのです!」
「はぁ……わかったよ」
この会話の通り、僕が武器に魔力を付与することになってしまったのだ。
正直言ってやりたくない……。この能力を人前で見せるのもあまり良くないだろうし、単純に疲れる。
だいたい何のためにこんなことをやってるのか……。僕らは買い物をしに来ただけなんだけどな。
まぁいいか。2人も見たいって言ってるし。
「じゃあいくよ!」
そう言って僕はおっさんに渡された剣に手をかざして魔力を込め始めた。
特に呪文がある訳ではないから無言の間が続く。
やがて僕の手が光りだし、それに続いて剣も光り輝く。光はだんだんと強くなり、一瞬だけかなり強く光ったと思ったらすぐに消えてしまった。
どうやらこれで終わりみたいだ。やっているのは僕だから、どうやらもなにもないんだけどね!
「これで完成だよ!」
「うむ、たしかに魔力は感じる。成功のようだな」
「うーん……よくわかんないや」
僕は剣を手にとって少し振り回してみせる。ただ見た目はそのままだから振り回しても何も分からない。
パニッシュって相手の魔力があってこそだからなぁ。持っても振り回しても意味がないんだよね。
「リッタ、魔力を確かめたいからここに何か魔法をだしてみて!」
「うん! じゃあフレイルでいくよ」
『フレイル』と唱えたリッタの手の上に、小さな火の玉が現れる。パニッシュの能力を見るのにはちょうどいい魔力の塊だ。
「パニッシュ!」
唱えると同時に剣が少し輝いて、銀色の刃がさらにギラギラと眩しい。
フレイルぐらいの魔法なら斬りつけるだけでも消滅する可能性があるから、ここは軽くかするだけにしておこう。
シュッ!!
空を切る音が聞こえ、小さな火の玉に少し切り込みが入った。
そして次の瞬間、
パリンッ!!
と、ガラスが割れるような音が響き、そこにあった小さな火の玉は弾けとんだのだった。
横の3人はというと口を開けたまま呆然と立ち尽くしていた。
信じてなかったのかなぁ……。
もしかしたらそうかもしれないぐらいの予想が見事に当たって驚いたのかもな。店長はともかくリッタやゆぅにもちゃんと見せたことはなかったから無理はないか。
そのまま少しの間、3人とも立ち尽くしたままでいたのだった。
3人が元に戻り、また僕は話し始める。
「これがパニッシュのこもった剣の力です。どうですか? 魔力が武器に込められること、納得できました?」
「あ、ああ。まさか本当に出来るとはな……。正直ほとんど信じていなかったんだが……すまん!」
「あ、いえいえ別にいいんですよ。そんなこと気にしてませんよ」
まったくだよね。これがあたりまえだと分かっていたら人前で簡単に話しはしなかったんだけど……もう手遅れだ。常識が欠けすぎてる……。そろそろ魔法書以外の本もあさってみようかな。
そんな事を考えていると、隣からリッタが話しかけてくる。
「ねえねえ心葉! この魔法、私の杖にもかけてよ!」
「わ、わたしの弓にもかけてほしいのです!」
まぁ2人の性格ならこうなるのはしょうがないよね。
「うん、もちろん! でも1つだけ気になる事があるんだけど」
そうだ、僕には1つ気になることがある。僕じゃない人がパニッシュの武器を使ったときのことについてだ。
「もし、リッタの杖にパニッシュを付与したらどうなると思う?」
「私の杖に? それならさっきの心葉のやったのと同じようになるんじゃないかな!」
「でもさ、パニッシュって魔法や魔力を消滅させる能力なんだよ。なんか引っかからない?」
「う〜ん……私には分からないや」
「坊主、お前さんの言いたいことはよく分かるぞ。つまり、パニッシュを付与した武器では他の魔法が使えなくなるんじゃないか、ってことだよな?」
「ええ、その通りです」
どうやらおっさんにはちゃんと伝わっていたらしい。さすがは武器屋の店主だ。こういった話には長けているな。
顔を見る限りではゆぅも分かってるっぽい。
「リッタが使うのは杖。魔法攻撃が主になるんだよ」
「あ! そーゆーことかぁ! 私が魔法を使えなくなっちゃうかもしれないってことなのかぁ!」
ありゃりゃ、今気づいたのか……。さっきのおっさんの話で分かってたかと思ったけど。
リッタってけっこう……。これ以上はよしておこう!
「どうなるかはわからないけど、きっと魔法が使えなくなると思う。僕がその武器を使うならまだしもね」
「正直なところ俺にも分かんねぇな。なんてったって前例がないからな!」
さて、どうしたものか……。
それぞれ何か考え始め、またもや静かな時間が流れ始めた。




