『約束』
僕の魔力『パニッシュ』については僕自身が強さを分かっていないのだ。ふと頭に流れ込んできて、僕はそれを叫んで魔力が魔法として出力されただけ。
魔法が消えた、魔力の反応が消えた、僕に分かるのはそのくらいだ。魔力や魔法による戦闘の多いこの世界であれば、確かに強いのかもしれないとは思うのだけど、いまいち実体が掴めない。
僕のアニメ知識の中でもこの系統の魔力は強い。全ての魔法攻撃を無効化してしまうからだ。大抵の魔法使いは何も出来ずにやられてしまうだろう。
だけど、1つだけ難点がある。
それは、戦闘経験が無ければ、魔法攻撃を無効化したところで何の意味もないことに他ならない。僕には戦闘経験がまるでない。実際、魔族と戦った時だって僕は何も出来ていない。中級魔法と上級魔法を放っただけだ。基礎能力の高い魔族にそんな攻撃が通じる訳ないし、剣などの武器で攻撃したってこともない。
何故奴らを倒せたのか不思議でしょうがないのだ。ほんとに僕が倒したのかな?
そんな風に思うことの方が多い。
ただ、この世界における僕の魔力の強さと、本当の力、能力がはっきりしないからなんとも言い難い。
もしもこの魔力に僕の思う以外の能力があったとすれば、また話は変わってくる。
僕が魔力をもう一度使えば何か分かるのだろうか? だが、もう一度使ったところで何も分からない可能性の方が高い。『パニッシュ』は目に見える効果がないからだ。僕が視認できたのは、魔法、魔力が消えるところだけだった。それに、攻防の力といった身体的能力が上昇低下するのは目で見て分かるものじゃない。
結局は、魔力の専門家に話を聞くとか、何度も使ってなんとなく理解するしかないのだ。それでさえも考察に過ぎない。だから、僕の魔力でありながらも、僕自身が魔力を理解するには及ばないのだ。
こんな事を思いながら、僕は次の言葉を待った。そして、彼女は多少の間をあけて、疑問を僕にぶつける。
「あのさ、心葉。君の言う、その『パニッシュ』って、ほんとに魔力なのかい?」
「え?」
ルナの疑問の意味がいまいち分からない。
本当に魔力なのかってどういうことだろ? 逆にだけど、魔力じゃなかったらなんなのだろうか。少なくとも僕はあれが自分の魔力だと思うけど……ルナはどう思ってるのかな?
ルナの考えはやっぱり僕の考えのはるか先をいっているようだった。
僕の魔力について、まだまだ解決しそうにない。もう僕の理解の域を超えているが、御構い無しにルナは話を続ける。
「だって、おかしいとは思わないかい? 君の魔力は、魔法やそれのもととなる魔力を破壊、無効化することなんだよね?」
「うん、そうだと思うけど……」
「それだと、魔力で魔力を破壊してるってことになるんだよ。強い魔力と弱い魔力がぶつかれば、弱い魔力が強い魔力に潰され、飲み込まれる」
「流石にそれぐらいはわかるよ。でも、魔力の効果が魔力を破壊する、だとすればおかしくはないんじゃないかな?」
「魔力は個人で波長が違うから、無差別に魔力を破壊できる能力なら、魔力自体がその力を精製するのは不可能なんだよ。自分が壊れてしまうからね。『パニッシュ』を魔力と考えるとどうしても矛盾しちゃうんだ」
なんだか魔力ばっかで分かりにくいけど、なんとなく言っていることはわかる。魔力が魔力を破壊する力を作りなんかしたら、自滅に等しいからね。確かに矛盾している。
でも、魔法とかそういうのって、難しいことは不思議な力でなんとかなっちゃうような気がするんだけど……。
それをルナに伝えてみたら、魔法も一定の理論の上で働くものなんだとか。
僕にはそんなこと一切分からないから、今は彼女の考えに納得するしかない。まぁ、ルナが間違ってることはないだろうしね。
そして、ルナはまだ話を続ける。
「うーん、もしかしたら、君の魔力には他の力があるのかもしれない。例えばだけど、相手の魔力を取り込むとか……」
「え⁉︎ そんなことできる魔力なんてそれこそなさそうだけど?」
「いやいや、それは出来るんだよ! 理論上では、相手の魔力に自分の魔力を完全にシンクロさせた状態になれば相手の魔力を奪うことができるんだ。そのためには吸収系の魔法と、魔力制御が必要だけどね」
「魔力の吸収かぁ……」
「もちろんどうだかはわからないよ?
魔族を倒せるほどの能力だし、もしかしたらもっと強い能力かもしれないんだ」
確かにそう言われてみるとそうだな。
魔族を倒せるぐらいの能力って考えればもっとすごい魔力っていう可能性がでてくる。
「君さえ良ければ、もっと試してみないかい? 君の魔力を」
「また使えるかなぁ?」
「使えるさ! 君が望めば魔力は答えてくれる。全ては君次第だよ!」
「うん、そうだよね! 僕ならできる!
じゃあやってみるよ!
『パニッシュ』‼︎」
しゅうぅぅぅ、、、パッ!
僕が唱えた瞬間、あの時と同じように僕の周りが眩く光輝き、弾けるようにして、その光は消える。
だが、消えたのは光だけじゃなかった。
僕の目の前にいた、ルナが消えてしまったのだ。
考えてみればその筈だ。ルナは自分の魔力でここへ来ている。その魔力を僕が消すなり奪うなりしてしまえば彼女は強制的にここから離脱させられる。
やった後に気づくのが僕の悪いところだな……。まぁ今日はルナもだけどね。
はぁ……。ため息をついて右手でガクリと下がった頭を抑えていると、急に僕の前に光が現れた。
その光は小さな粒のようで、すこしまばらに散らばっている。が、すぐに光の粒どうしで集まって、大きな光となり、何かを形作っていき、少し経ってそれが何か分かる。
女の子だ。それもルナと同じくらいの。
もうここまでくれば僕でも予想できるぞ! ルナがまたここへ来るんだ。
その考え通り、光は薄くなり、1人の女の子へと変わった。ルナだ。
そして彼女は、ここに出てきてそうそう喋り始めた。
「いやぁ〜、ぼくも魔力体だって忘れてたよぉ〜。これじゃあどうしようもないね〜」
「はは、たしかにお手上げだね……」
ほんとにお手上げだ。ルナがどうにもできないのだ。僕にどうにか出来るはずがない。
ま、この魔力の大体の能力は一応わかってはいるんだ。きっとなんとかなるさ!
そう僕が考えていると、彼女は急に笑いながら言い出した。
「はは、やっぱり君といると飽きることがないよ! うーん、ぼくも君のこともっと知りたくなっちゃった! どうだい、心葉? ぼくのところへ来る気はないかい?」
「君の……ところへ?」
「そう! ぼくは今『フレイジア』にいるんだ。訳あって今は国から離れられない。だから、ぼくを迎えに来てよ!
ぼくも君と一緒に旅をしたい! そしてもっと君の事を知りたいんだ!」
「僕と? いや、僕らと?」
「うん! だから、ぼくも連れてってよ‼︎」
僕らと旅がしたい、ルナはそう言っているのだ。主に魔力とかについての研究目的だろうけど、僕もルナが側にいてくれるととても助かる。と言うより、僕も彼女と共に旅をしたい!
いつか会いに行こうと思っていたけど、まさなこんな形で会いに行くことになるなんてな。
「うん! ルナ、君のところに行くよ! 旅はどうなるか分からないけど、絶対に君に会いに行く。約束するよ!」
旅については僕1人で決められる事じゃないけど、きっとあの2人も快く受け入れてくれるだろう。
よし! 次の目的地は『フレイジア』だな!
「じゃあ、ぼくも待ってるよ!」
こうして、僕の次の目的地が決まった。
『クラウス王国』の隣の国、『フレイジア』だ。
距離はいまいち分からないけど、大体5日あれば着くほどの位置にある。今までからの勘だけど。たぶんそのくらいだ。
と、もう時間が来てしまったようだ。
余分な話も結構したからなぁ……大分時間が経っていたようだ。
ルナの身体が少し光って薄くなっている。
「心葉、もう時間が来ちゃったみたいだね。また今度、次はフレイジアで会おう! ぼくはやる事があるから、君らはクラウス王国を満喫してからくるといいよ! それじゃあまたね、心葉!」
「うん、絶対に行く! それまで待ってて! 『フレイジア』でまた会おう、ルナ!」
彼女は笑いながら手を振って、光となり消えていった。
そして、僕はいつもと同じあの感覚に包まれる。
あたりが靄のようなもので何も見えなくなり、僕の意識は遠くへ行ってしまった。
「ふわぁぁ〜〜あ」
僕は、昨日とった、王都の宿屋で目を覚ました。
「ん、うんん……んん」
「ん?」
何故だか隣から変な声が聞こえる。
見てみるとそこには、僕が起きたせいで布団から身体が出てしまい、もがくようにして布団を手探りで探しているゆぅの姿があった。
はあぁぁ……結局こうなるのか……。




