『人生の意味』
ここに来てから……気がついてからずっと怖かった。
何も知らない薄暗い場所にただ1人で立っていたこの状況が。
誰もいない、何も見えない、夢だと言う確証もない、そんなこの場所にどうしても恐怖という感情が込み上げる。
今だって怖い。怖くて怖くてたまらない。未だに全てが謎のままだから。
だけど、それ以上にワクワクしている自分がいる。
きっとこの場所が手紙の全てを語ってくれる気がして。
あんな意味不明な手紙のどこに興味が湧いたのか、どうしてワクワクなんてするのか、そんなことは分からない。
でも、意味不明だったからこそなのかもしれないとも思う。未知なるものは恐怖を与えると同時に、興味を与えるものだ。その未知なるものがなんなのか、僕は知りたい。
たとえそれが恐怖の塊だとしても、僕は僕自身の欲望に答えたい。
だから……僕はその扉をゆっくりと開いた。
ガチャ、、、、、、、、
煌の世界。
一言で表すのならそれが一番あっていると思う。
光、光、光。
光に満ち溢れているこの世界に、何故だか眩しいと思うことはなかった。
そして、引っ張られるようにその光へと向かって行く。
眩く光るこの世界に、床や壁なんてものはない。
何もない空間に足を乗せ、一歩、また一歩と煌世界を歩む。
なんだろうか。この光に包まれる感覚。
優しく、暖かく、とても心地いい。体を包むこの感覚が、瞼を閉じさせる。
瞼の裏に浮かんだ映像はどこか懐かしい。
そう、これは僕だ。僕の小学校の時の入学式。お母さんと手を繋いで、笑顔で立っている。
僕にもこんな時期があったんだな。いつからだろう? 1人でいる事に楽しみを感じるようになったのは。
嬉しいような悲しいような、そんな思い出だ。
お、映像が変わった。
これは、中3の時だ。初めて僕がアニメを見た日。あの時の事は鮮明に覚えている。
『君は、世界を全て信じる事が出来るか?』
こんなシーンから始まった。挫けそうになっていた少年と、主人公であるレイが話をしている所だ。
『世界を……?』
『君が見ているこの世界だ』
『僕は……僕は信じてるよ! だって僕の目で実際に見えてるから』
『……そうか。なら、目に見えない世界を信じる事は出来るか?』
『目に見えない世界?』
『#他人__ヒト__#の見ている世界だったり、本当にどこか目に見えない所にある世界。君が、君自身が見ているものとは違う世界だ。そんな世界での出来事やその世界に存在するもの全てを君は信じる事が出来るか?』
『それは……きっと僕には出来ないよ……。見えない世界なんて信じない。他人の世界は僕の見ている世界とは違うんだから。誰がどんな世界を見てたって僕には関係ないよ』
これが少年の答えだった。あの時の僕は、少年と全く同じ気持ちになった事を今でも覚えている。自分はいつも、これからもずっと1人なんだと。
でも、この後のレイの言葉が少年の考えを、僕の考えを、そして僕の人生を大きく変えた。
『そうか……。だが、これだけは覚えておくといい。
目に見えない世界、他人の見ている世界を信じて、それを自分も見ようとした時、君の見ている世界が大きく変わる。それは今までの世界とは違う、新しい世界だ。その世界は広い。どこまでも新しいもので溢れている筈だ。
そして、新しいものに触れる君も新しい君となる。その繰り返しで君は変化し続け、同じ君であり続けることはないだろう。
それが今の君に足りない変化し続けると言うことだ』
『変化し続けるだけなんて、それこそ生きている意味がないじゃないか!』
『その意味を探す為の人生を君が作り上げるんだ! 人生に意味なんてない! 見つかる事もない! だから作り上げるんだ! 意味があったと思える人生を!』
時間にすれば2.3分しかないこの会話が、レイの言葉が僕の人生を大きく変えたのだ。
小学校の頃からずっと1人で新しいものに触れず、ずっと同じまま、同じ考えで生きてきたそんな僕が、初めて他人の言葉に胸を打たれた瞬間だった。
僕が抱えていた疑問に、何のために生きているのだろうという疑問に、初めて答えをくれたのだ。
変化し続ける、新しくあり続ける、それ自体が人生というものなのだと。
まるで走馬灯のように流れている、記憶に新しいその出来事も、だんだんと薄れていく。
たった2つの映像が僕の人生のほとんどを埋めていたのかもしれない。少ないようで、小さいようで広くて大きい僕の人生だ。
この映像が消えたら、きっと戻れないんだろう。このまま意識が離れて行けば、もう目覚めることはないんだろう。
またも直感でしかないけれど、僕はそう感じた。
自分が消えてしまうという悲しみもなく、苦しいこともない。さっきまでの恐怖だって、ワクワクとかドキドキなんていう感情すらも今はもう存在しない。
全ての感覚が消えていき、何も感じることはない。
まるで、僕のすべてが光に奪われたかのように。
少しずつすぎる時間に、ただ身を任せるだけ。
そうして僕の意識は、ゆっくりと、だが確実に遠くへ行ってしまった。
もう何も考えることが出来ないほど遠くへ。
たった一粒の涙と共に。
次回もお楽しみ!