『勧誘と報酬』
僕らは騎士団の演習場に向かっている。なんでも騎士団長から直々に話しがあるとか。話しに興味はないけれど、騎士団の演習場が見れるのなら行ってみようかなと言う感覚だ。
何故だか話し相手が変わるたびに大げさになっているような気がするけど、気のせいかな? 精霊の村で英雄と呼ばれ、騎士団に英雄と呼ばれ、挙句の果てにはリッタとゆぅにも英雄と呼ばれている。大した事をしたわけでもないと自分で思っている分、他人から言われる事に疑問が湧いてくる。何より照れるしね……。
やっと到着だ。と言っても宿の隣にあるから大した距離でもない。精神的に結構疲れてはいるけども……。
さっきの騎士たちからもう情報が伝わったのか、演習場の門にはお出迎えと、一般市民を含む沢山の野次馬が来ていた。どうやら噂は国民にも広まっているようだ。
「ようこそ、王国騎士団演習場へ‼︎ 私はレイス・フレイド、王国騎士団長だ!」
「初めまして、三波 心葉です」
「リッタ・エルクストです」
「ユシア・シナ・リトレイナと申します」
「先日の悪魔討伐、お見事だった。あの魔族供を一人で倒すとはなんとも驚きだ! 無論、今回呼び出したのはそれについての話しをするためだ。まぁこんなところではなんだな。中で話すとしよう」
そうして僕らは演習場の大きな建物に案内される。そんなに格式ばった話しをするのかと少し不安にもなるが、もしかしたらと言うワクワク感が僕の心を軽くしているようだった。
「話しってなんなのでしょうか?」
長い廊下を歩きながらゆぅがそう小声で口にする。なんだろな、と返してそのまま歩き続ける。たしかになんだろうか? 気になるな。
やはり僕にはまだ少し不安がある。それもそのはず、僕は魔族を倒したのだ。それだけの力があるのならば、この国にとっても多少の脅威と言えよう。始末するのならこの機を逃す筈がない。
まぁそんな事は起こらないと思うけどね。
おっと、部屋に着いたようだ。
大きな机と椅子が並んだこの部屋は、おそらく騎士団長室だろう。机の上に大量の書類が置いてある。
僕らはふかふかそうな椅子に腰をかけた。同じように向かいにレイス団長が座る。
「まずは今一度、先日の件について感謝する。あの魔族二人は同盟国である『フレイジア』や、この国の複数の村を襲撃した者であった。我らも討伐隊を組み向かわせたところ、心葉殿に敗れた魔族が転がっていたという。これには私も本当に驚かされた。私ですら魔族2人を相手にするのは苦労するからな。それを一庶民がやったと考えると……少し寒気がするくらいだ」
「ハハハ、僕もまだいまいち受け止められてなくて」
とりあえず不安だった事が現実とならず、心の中でホッとする。両隣りにいる2人は少し緊張しているようだ。肩がガチガチに固まっていた。
そんな僕らをよそに、団長は話しを続ける。
「私もまだまだ修行が足りんと言う事だ。それでだ、ことに話しなんだが……単刀直入に言おう。心葉殿、我ら騎士団に入団してほしい! が、強制にとは言わん。嫌なら断ってくれて構わない」
騎士団かぁ。なんだかカッコいいな。男の子ならそういの、一度は夢見るよね。僕も例外じゃないけど、今の僕にはその申し出は受けられない。旅をしなければならないからだ。この旅には目的があるからな。目的がなかったら別だけどね。
そう思い、僕は断る旨を伝える。
「そうか……それは仕方がないな。だが、こちらとしてもその戦力を放って置くわけにはいかないのだ。悪魔と戦える数少ない戦力を。場合によっては敵にもなりかねんからな。そうならない事を心から願ってはいるがな」
「敵って……。でも、僕らもその場に居合わせた時に共闘とかはできますよ。協力はできると思います」
「おお、それは心強い!」
「僕自身、この力を使いこなせてる訳じゃないですが」
「それでも良いのだ。では、これを渡しておこう」
そうして手渡されたのは3つのお守りのようなものだった。騎士団のマークが付いている。それを見てゆぅが聞く。
「これは……?」
「これは騎士団の高位のものが持つ、身分証明のようなものだ。この3つは特殊団員の証、他の場所で何かが起こったらそれを見せれば騎士団として行動ができる。仲間として認められると言うことだな」
「そんなものを僕らに渡していいんですか⁉︎」
「勿論だ。それがあれば大抵の検問や、騎士団の施設も使用可能になる。せめてものお礼のつもりだ。受け取ってくれ」
レイスさんの話しによると、このお守りの地位は騎士団長の次の次くらいに当たるらしい。入団する訳でもなく、旅人として過ごしていいと言う。少し非正規な事だが、そこは騎士団長の権限だそうだ。それに僕らはそれに値することをしたらしい。……でもこれってうまく入団させられたって事なんじゃ……。ま、違うって言ってるしな! ありがたく受け取っておこう!
それとは別に、もう一つすごいことを聞かされてしまった。それは、僕達は国王様にも呼ばれていると言うことだ。僕の倒したあの悪魔は、さっき言われた通り、この王都にも、周辺の国にも多大な被害を及ぼしていて、下界に降りてくる魔族の中でも特にやっかいな奴らだったと言う。そんな敵を外部の者が倒したと国王様の耳にも勿論届き、結果として僕ら3人が呼ばれることとなった。
もう一度言うけど、そんなすごいことをしたつもりはない。でも断る訳にもいかないし、行けばなにかいいことがあるかもしれない。その逆も無きにしも非ずってとこだ。
団長さんがこんな感じならなんとかなりそうっちゃなりそうだよね! 言ってみるか、クラウス王城へ!
そのまま僕らは演習場を出て、レイスさんと共に城に向かった。大通りを真っ直ぐに進むだけだからそこまでの労力でもないんだけど……。はぁ……お腹すいた……。もう2時ぐらいの筈なんだけど昼食とってないんだよね。そろそろなんか食べたいな……。
空腹と戦いながら、僕らは大通りを進むのだった。




