『パートナーと決意』
時は夕食、今日は僕等をもてなすという理由で宴会が開かれている。そんなに感謝されることをしたんだと、ここまできて初めてそう感じる。
テーブルにはたくさんの料理が並んでいて、みんなそこからバイキング形式で料理を持っていく感じだ。僕もなんかの木の実でできたパイを食べている。因みに僕とリッタのところにはひっきりなしに精霊の方々が話しに来たので、暇になったのはほんの10分前だ。
それからは3人でたわいもない話しをしながら、この極楽とも言える時間を過ごしていた。だが、そろそろこの楽しい時間も終わるだろう。
辺りにはお酒で酔い潰れた大人っぽい精霊たちがたくさんいる。もう地面に伏せって寝てる人までいるのだ。
僕らの話の時間ももう終わりかな。
そんな時に、ゆぅが僕に話を振った。
「コノハ! コノハに話しがあるのです。今日、わたしは1つ決心しました!」
「ん? 決心って?」
何かすごい事でも思いついたのかな。決心なんて僕の人生の内ではそうそうなかったし……でもゆぅの顔からは、それが違うと、相当大きな事を決心したんだと伝えてくる。ゆぅが僕に聞いてほしいと言っているんだ。真面目に聞く義務が僕にはあるのだろう。
僕に関係あろうがなかろうがしっかり聞かないとな。十中八九関係あるだろうけど。
「コノハ! わ、わたしの、わたしのパートナーになって下さい‼︎」
「ええ⁉︎」
「……へ?」
ものすごい速度で驚いたのは僕じゃなく、リッタだった。当の僕はと言うとその言葉の意味すら理解できていない。
パートナーってなんだろう? あの世界でそう言えば、まず間違いなく結婚を指すのであろう。でもゆぅが結婚なんて話をするだろうか?……ないな。じゃあパートナーって……あ!もう一つあった。けどこれも違うんだろうな。
僕に浮かんだもう一つの考えは、使い魔や使役獣、使役魔だ。まさかゆぅがこんなことを言うことはないし……そもそもリッタがあんなに驚いてるんだ。リッタのあんな顔は僕も見た事がない。心底驚いているようだ。
どちらにせよ相当なことを言われたんだな。もう少し話しを進めないと分からない……。そう思った時にゆぅがまた口を開いた。
「わたしは、私の生命を救ってくれた心葉にパートナーになって欲しいのです!」
「そ、それってどういう……?」
「心葉、もしかして知らないの?」
「え?」
僕の言葉に聞き返してきたのはリッタだ。
彼女が言うには、精霊族は一生のうちに1人、自分のパートナーを探すらしい。自分が本当に信頼している人をパートナーとして選び、一生を共にすると言う。べつにその人と必ずしも結ばれて結婚するという事ではないんだけどね。まぁほぼ結婚か……。精霊族の一生は長いから、それだけ重要な決断なんだと言っていた。
そして僕はそのパートナーとしてゆぅに選ばれたんだ。
「君は、ほんとに僕でいいの? ほんのすこし前に会ったばかりの僕で」
「そのほんのすこしの時間が、私は楽しかったです。一緒に話して、一緒に街をまわって、一緒に本を読みました。私と会って、私のせいで大怪我をして、それなのに私に優しくしてくれて、暖かさを感じたのです。私はコノハと一緒に生きたいです。だから、私の……いいえ、私をコノハのパートナーにして下さい!」
僕が感じた楽しさよりもずっと大きく楽しんで、僕の感じた時間よりもずっと長く感じていたんだろう。ほんとの事を言ってしまえば、僕は彼女の事を全く知らないし、彼女自身もまた、僕のことをほとんど知らない。それでも彼女は僕と生きたいと言ったんだ。なにも知らなくても、その一瞬で感じた想いを信じて僕にぶつけたんだ。改めて言う。僕も彼女の事をなにもわからない。でも僕も彼女と一緒にいたあの時間に、とても大きく深い想いを感じた。それは、彼女と共にいたいという思いでもあるだろう。
結婚だとかそう言うのは置いといて、今は3人で一緒に旅がしたい。リッタも同じだと思う。
だからこそ、僕はゆぅのパートナーになるんだ。
「ああ! もちろん。こんな僕で良ければ、よろしく頼むよ!」
「ほ、ほんとですか? 良かったです。これから宜しくお願いします」
「リッタ、構わないかな?」
「もちろんだよ! ユーがあぁ言ったのはとっても驚いたけどね。これからもよろしく!」
「よろしくお願いします、リッタ、コノハ!」
その時の彼女たちの笑顔は、魔族との出来事や書庫でのゆぅの話しを忘れさせるほどに輝いていた。
ふぅ、これで一件落着だ。
だけどそのあとに2人がしてた会話はすこし謎だな。
『パートナーでも、私は負けないからね‼︎』
『私だって、絶対に負けません‼︎』
別に喧嘩してた訳じゃないけど、何かで張り合っていた。僕が聞いても、
『『心葉は知らなくていい!』です!』だそうだ。
何を考えてるのか僕にはよく分からないよ…。まあそこまで気にしてはないけどね。これからも3人仲良くいけるといいな。
僕らはもう少し食べたり話したりしながら、その日が終わるまで過ごした。




