『手紙の示すもの』
「んん、ここは……どこだ?」
目の前の景色に軽く首を傾げる。景色、そんな綺麗なものじゃない。何もなく、ただ暗いだけの場所だ。
だいたい僕はこんなところで何してんだろう? 今の今までの記憶に靄がかかっているような感じ……。
頭の中がスッキリしないまま、僕は周囲を見回してみる。暗いのは暗いけど、自分から数メートルほどのものは確認できた。
えーっと、建物の中? 神殿みたいだ。
足元に引いてある不思議な模様を混ぜた線が、ここを神殿だと感じさせる。
だけど、どんなに考えてもその薄暗い場所に覚えはなく、音も温度も何も感じることのない空間に佇むだけだった。
やがて、だんだんと頭が回り始め、やっと記憶に辿り着く。
……あれ、僕はさっき寝たはずだよな?
瞼の裏に浮かんだのは自分の部屋、僕のベッドだった。
あっそうか、夢の中か! どう考えても夢だよな!
……でもなんかひっかかるなぁ。夢の中ってもっと意識が朦朧としてないか? これだけ意識がはっきりとしている夢を僕は知らない。それに夢の中でこれが夢だなんて気づくこともほとんどないし……。
抓ってみればわかるかな?
「おぉ?」
痛いようなそうでもないような……なんだろうこの感覚。なんかヒリヒリするような感じがあるんだけど、痛くはない。結構強く抓ってみたんだけど……どうなのかな?
例えるならば、肘の皮を本気で摘んだような感覚だ。
夢で自分を抓るなんて言う経験がないだけに、よく分からない。
まぁ痛い訳でもないし、夢だな。うん、夢だ!
このままつっ立っててもしょうがないし少し歩いてみるか。よく見えないから恐怖感が凄い。てゆうかこの夢ほんとに意識がしっかりしてんな。ここまで脳みそが快調なのは、現実でもそうそうない。
まったく、こんな夢始めてだ。
さっさと覚めてくんないかな。僕は薄暗いところはあまり好きじゃないんだ。
「……ん?」
なんだろう、あれは……?
建物の中を真っ直ぐと歩いていると、小さな光が遠くに見えてきた。暗く長いトンネルの中、遠くに見える出口のような、小さく、そして強く輝く光だ。
なんだかなぁ……どっかのアニメでありそうな展開だな。こんなシーンをしょっちゅう見たことがある。まさか夢の中で自分が同じ展開に巻き込まれるとは思ってもみなかったけどね。いや、アニメを見過ぎたせいかな。
そのうち夢の中で勇者になって魔王と戦ったりして。よし! 明日は絶対その夢を見よう!
それにしても周りが暗い。なんだか歩くたびに暗くなっていってるような……。そんな気さえする。
あの光、こっからじゃよくわからないな。光があること以外はまったくわからないし見えない。何か少しでも分かることと言うと、足下に何か線が引いてあって、横には柱が立ってるというぐらいかな。極至近距離にあるものしか見えない。
ってあれ? 柱とかあったっけ? なんにせよ暗いからちょっとの変化にも気づきにくい。柱って結構な変化だとも思うけどな……。ま、いっか。
あの光が見えるところまで、あと少しと言ったところか……。そのまま僕は光へと歩き続ける。
「これは……⁉︎」
『とびらを開けろ』
目の前にある#それ__・__#を見た瞬間、この言葉が頭をよぎった。
そこにあるのは間違いなく扉である。ただの扉、何でできているのかわからない、極普通で何の変哲も無い扉。
だが、そんな普通の扉に普通ではないなにかを感じるまでそう時間はかからなかった。
それは、その扉が……いや、扉だけがそこにあった事に他ならない。
この扉は壁と繋がっていなかったのだ。ただ1つの扉だけがそこにある。
僕は恐怖と疑問を感じつつ、扉の周りを一周しながら考える。
#とびら__・__#ってのはこれのことだったのか?
いやいや、そんなはずはないだろ。きっと手紙を見たせいで夢にでてきたんだな。きっとそうだ。
だけどやっぱり気になる。もしこの扉を開けたらどうなるんだろう?
ほんの1%の確率でも、あの手紙とこの夢のようなおかしな空間に繋がりがあるのなら……。
このとびらを開けたらあの手紙の意味が分かるかもしれない。なんの確証もないけれど、直感でそう思う。
もしも、きっと、そんな想いが募る中、僕が最後に思った事。
あの手紙の意味を知りたい‼︎
この時、僕の頭の中から、あの手紙が誰かによる悪戯だという考えは消え失せていた。
ぐっと唾を飲み、取手に手をかける。
「うっ‼︎ なんだこれは⁉︎」
ドアノブを回した瞬間、僕の目に光が飛び込んできた。
輝いているのだ!
取手が、扉自体が、扉の隙間が‼︎
わからない。何がなんだか理解できない。
でも、この光に感じた恐怖より僕の好奇心が大きかった。心の中に湧き出した不思議な感情。
僕は今、途轍もなくワクワクしている!
こんな夢の中のようで違うような奇妙な空間で、全く知らない建物の中で、得体の知れない扉に、得体の知れない光を前に、
僕はワクワクしているのだ!
次回もお楽しみに