『僕の魔力』
「『ブラストダークネス』術者を中心に魔法陣を展開、闇の広範囲魔力弾を射出する魔法だ。まさかここまで強力な初級魔法を放つとは考えもしなかったが、やはり人間。貧弱だ。我らの敵ではない」
「一瞬マジで死ぬかと思っちまったぜ。あんなんまともにくらったら体が崩壊しちまう。助かったぜ、ミド」
「カリゼ、貴様は油断しすぎだ」
二人の魔族、悪魔の名はミドとカリぜというらしい。魔法を使った方がミドだな。
まさか魔法を魔法で消し飛ばすとは思わなかった。僕が知らなすぎるだけなのかもしれないけど、こいつらかなりヤバい奴らだ。
特にミドという方の悪魔、大分強い魔法を使えるっぽい。気をつけないといけないな。だがそんなことを考えている暇はないのだ。今の自分には打つ手が全くない。
僕に使える魔法の中でも『ライトボルグ』はかなり強い方の魔法。それをいともあっさりと消し飛ばされてはこっちはもう攻撃の仕様がない。
今もうすでにミドは魔力をほとんど溜めきっている。カリゼの方も、剣を持ち直してしまった。
「貴様はなかなかに骨のある奴だ。だがまだまだだったな。我らに敵うほどの力を持っていない。次のこの一撃で終わらせてもらうぞ!」
ミドがそう言い呪文を唱え始め、魔法陣が展開される。だいぶ大きな魔法を放とうとしているようだ。詠唱にも魔法陣展開にも時間がかかっている。どんなに時間がかかったところで状況は変わらない。
僕はただただ死ぬのを待つだけだ。
本当にもう死ぬのかな?
こんな死に方でいいのかな?
今こんなところで死んでもいいのかな?
リッタはあの少女を連れて遠くに逃げた。
その後ろ姿は平原であるこの土地のどこを見渡しても見つからない。相当遠くへ行ったんだろう。
きっと僕が死んでも逃げ切れるんじゃないかな。
だからもう大丈夫……だよね?
ごめんね、リッタ。約束守れなくて。
こんなに早くさよならしちゃって。
ほんとうにごめん。
そう心の中で言った時だった。
「 心葉 ‼︎ 」
ハッとして目を開けると魔族の少し後ろの方に、リッタが立っている。
「心葉‼︎ 逃げて! こんなところでサヨナラは絶対にだめだからね! 私の夢を叶えてくれるんでしょ! だから絶対に負けちゃダメー‼︎」
その声が僕の心を呼び覚ます‼︎
なんで戻って来たんだよ。これじゃあ安心して死ねないじゃないか。いや、死んじゃいけないのか……。
そうだ、僕は誓ったはずだ。
彼女を守るって、彼女の夢を叶えてあげるって。こんなところでくたばってちゃいけないんだ。
あぁ、ミドの詠唱が終わった。魔法陣が光りだす。
この短い時間で僕が生き延びる方法。
探すんだ! 探すしかない‼︎ なんだ? なにができる?
進化? ……そんな難しく考えなくていい。
逃走?それも違う!
もっと簡単な方法があるじゃないか。
すぐに浮かぶこと……。
そうだよ、ミドの魔法を消し飛ばすほどのなにかを放てばいい。
僕にそんなことができるのか?
違う、出来る出来ないじゃない、やるんだ!やるしかないんだ! くそッ、やってやる‼︎
いつかルナは言っていた。
・・・
「君には固有魔力を感じるよ!」
「えっ⁉︎ 僕に固有魔力が?」
「うん。でもそれは今使えるものでも、今すぐに分かるものでもない。君は魔力がどういうものか分かるかい?」
「魔力……確か、使う人の気持ちが魔力の質に直結するって本で読んだ気がする」
「その通り! 魔力は君自身の気持ち……感情そのものなんだよ! 君の感情の変化によってその本質が変わるんだ。
君にある魔力。それは君の感情次第なんだよ! 何かに対して怒りを覚えたり、悲しみや苦しみの負の感情に飲まれたり。自分が窮地に立たされることだってあるかもしれない。そんな時に魔力は覚醒するんだ!」
「魔力が覚醒……」
「自分の意思の強さで魔力を覚醒することもできるし……言わば感情のコントロールだよ! もし君がこれから旅をしていくのなら、感情をコントロールすることを意識した方がいいね」
「感情のコントロールか。なんだか難しそうだな。でも頑張ってみるよ!」
「魔力覚醒に期待だね!」
・・・
今僕がやらなきゃならないこと。
魔力を目覚めさせる!
リッタを守りぬくために‼︎
少女を守りぬくために‼︎
僕は……やる‼︎
「『パニッシュ』‼︎」
ミドの放つ巨大な闇の塊が、カリゼの構える剣の切っ先が、僕に向かうその一瞬に僕は叫んでいた。
『パニッシュ』と。




