『闇に立ち向かう光』
見たことはない。けど分かるんだよ、それが。黒っぽい色の顔に、背中に生えてる中くらいの羽。
日本人なら、いや地球上の誰が見てもあれは悪魔だと答えるだろう。
2人の悪魔は手に刀を持ち、白い髪の少女に今にも切り掛かりそうな雰囲気だ。
僕だって毎日魔法の練習をしているし、そのおかげで戦闘能力も上昇しているはず……。
だけどそれじゃ足りない。戦力に差がありすぎる!
おまけに僕には実践経験も大した武器もない。
ん? 大した武器? 武器自体ないじゃないか!
絶体絶命とはこのことだろうな。
今僕が行っても負けるだけだ。
負けるだけ……それは死である。そう分かってはいるんだ。
でもやらなきゃいけない! やらなきゃやられる、それが世の常‼︎ 少なくともリッタと少女は守らないと!
やるしかないんだ!
僕はまた歩みを進め、堂々と彼等の前に立った。
彼等の剣先が僕の喉元を掻き切らんとばかりに鋭く輝く。
少しの間をあけ、背の高い方の魔族が口を開いた。それに続けて、もう1人の少しゴツめの魔族も話しだす。
「わざわざ自分から来ようとは、良い心がけだ」
「貴様も我等魔族の餌となってもらおう」
言い終わると同時に、ゴツい方の魔族が前に出て僕に切りかかる。
くっ、速い!
4.5メートルの間を一瞬にして詰められるが、僕の反射神経も負けてはいない。
奴の剣をスレスレで躱してみせる。そしてそのまま大きく距離をとった。
ずっと1人でいたから……だからこそ鍛えられた部分がある。他人の言動を細かく分析することだ。
僕がそれを最も活かしていたのは人間関係なんかじゃなくアニメだった。
今までに100作品以上見て来たバトルものの主人公の動きや考え方の全てを分析してきたんだ。変なことをしていると思うけど、いかにして憧れの主人公に近づけるかが僕の全て、日常だった。
行動理念と実際にとった行動、剣の振り方、相手の行動の読み方、作戦の立て方、上げればキリがないけれど、全部自分のものにしたかったんだ。
そして、今までの分析で得た知識全てが僕の中に詰まっている。僕の実力じゃ実現できなくても、それに似た行動ならとれる!
だからこそ僕はこの絶体絶命の状態でも戦おうと思えるんだ。実際に剣が振れる訳じゃないし、相手の剣を避け続けられる訳でもない。
それでもリッタや白髪の女の子を守らなきゃいけないし、きっとあの主人公だってこうしただろうから。
奴は素早い動きで体制を整えてこちらの様子を伺っている。その姿勢に一切の無駄はなく見える。僕から仕掛けられる隙が存在しない。
だが僕にはそれがある。どうしても超えられない壁だ。相手に1つでも、ただの一瞬でも隙が生まれれば……。
奴はまたこっちに向かってくる。剣先は僕の喉元を正確に捉えていた。
僕だってそう簡単にやられるつもりはないんだ! 僕には魔法がある! 魔族は強弱を問わず聖属性の魔力魔法に弱いはず。逆を言えば聖属性の魔法ならいつもより倍以上の効果がある!
どうやったって相手を倒せない今、僕がとるべき行動は……時間稼ぎだ! みんなを逃して僕も逃げる‼︎
ルナとの練習はこの時のためのもの。
全身の魔力を右手に集中させる。そして呪文を唱えるのだ。
「光の壁よ、『ウォール』‼︎」
呪文と共にかざされた右手が眩く輝き、その手を中心として、ドーム状の光が僕を覆う。
聖属性初級魔法、『ウォール』だ。
カキンッと大きな音を立てて、頭上で剣が跳ね返った。その音の大きさが魔族の力の大きさを表している。たとえ武器が真剣でなく木の棒だったとしても、僕がくらえば致命傷になりかねない。
「クソッ、こいつ魔法使いか! また面倒な奴が相手だ。ケッ」
「そうとも言えんぞ? 魔力を多く宿す者は良い餌となる。所詮は人間だ。我等の敵ではあるまい」
ガキッ、ガゴンッ、と何度も切り掛かってくるが、魔法の壁の前では無意味だ。
だが僕もうかうかしているわけにはいかない。
もう一方の魔族は剣を鞘に納め、魔力を溜め始めている。魔属性だろうその魔力は混沌とした黒い光を放つ。
まずい! 奴が放つ前になにか撃たないと。
このままじゃ『ウォール』がもたない!
僕は右手に瞬間的に力を込め、『ウォール』の出力を上げて剣を弾く。
魔族はまっすぐ後ろに飛び距離をとるが、またすぐに体制を整えてしまう。
『ウォール』が消え、その剣が僕に向かってきたが、まだ僕の切り替えの早さが勝っていた。
「光の雨よ、『ライトレイン』!」
これまた初級魔法の『ライトレイン』だ。
悪魔どもの頭上に開かれた魔法陣が光に満ちる。
そこから出てくるは無数の矢の如き光。その光の雨は魔族に降り注ぐ。
ザザザザザ……ライトレインが魔族たちに次々と命中する。
僕を狙っていた剣も、今はこの光を切ることで手一杯と言った様子だ。
やるなら今しかない!
倒せることはありえなくとも逃げる時間稼ぎにはなるだろう。これが決まれば作戦成功と言ったところか。油断は禁物だが。
「大きな光の矢となせ、『ライトボルグ』‼︎」
僕は魔法の出力を上げ、より大きな光の矢を生み出す。ひとつひとつの矢がまとまり、大きな矢となって魔族を狙う。
その矢は確実に魔族を捉え猛スピードで進んで行く。
「いっけぇ‼︎」
ドゴン……『ライトボルグ』が魔族の元へ落ち、爆音が鳴り響く……。
……筈だった。筈だったのだ!
僕の見間違えとかでもなく、その大きな光は魔族の頭上で爆発した。
それも、もう片方の、魔力を溜めていた魔族の魔法によって。
光の大きな槍は巨大な闇に呑まれていた。
奴は、『ライトボルグ』が当たる寸前に魔法を発動させたのだ。『ライトボルグ』を飲み込むほどの魔法を。




