『最悪との出会い』
僕はリッタに魔族の話をして、すぐにレーブンを出発した。レーブンを出てから、およそ一時間がたったところだ。
「わぁー、心葉! 森が見えてきたよ。森‼︎」
「けっこー大きい森だね。魔物がでないといいんだけど……」
「大丈夫だって。早く行こーよ!」
そう言ってリッタは走り出した。元気だなぁ。
森までの距離は1キロと少し。僕もリッタに追いつくように走る。
だが、そんな平和な空間に、それは突然起こった。
どごオォォオォオォォォン‼︎
爆発音だ!!
目に映る景色を見て、僕らは足を止める。
森の中央から大きく煙が出ているのだ。
「何が……起こったの……?」
「分からない……森が爆発した?」
リッタが僕の方に振り返り聞く。僕らが走り始めてからすぐだった。爆発音とともに、森中央の木々が吹っ飛ぶのが見えたのだ。驚くのも無理はない。
更にそこに重なるようにして聞こえる。
キャーーーーー‼︎‼︎
森の方からの悲鳴。間違いない! 女の子だ!
森よりはこっちに近い、そのぐらいの距離にいる。爆発音と悲鳴の間に少しの間があったこと。これが意味するのは、女の子自身に何かがあったということだ!
助けにいかなきゃ‼︎
「だれかいる! ううん、誰かが襲われてる‼︎」
「今の悲鳴、女の子だよ!」
「急ごう! 急がないと手遅れになるかもしれない! 走るんだ、リッタ!」
「うん‼︎」
僕もリッタも走る。全速力で走る!
なぜ僕はこんな事をしているのかな?
走る最中、ふとそんなことを考えてしまった。
僕は面倒ごとには首を突っ込まない人間だったはずだ。
なのに、なぜ僕は……?
でも足は動くのだ。考えて動いている訳じゃない。体が勝手に僕の足を動かしている。僕の中の何かが、女の子を助けようと、助けたいと思っているのだ!
リッタが僕に親切にしてくれたこと。その親切は、紛れもなく僕の生命を救った。してもらったことを他人にもする。そんな気持ちが僕の心のどこかにあるのかもしれない。いや、僕はもう既にその気持ちを自分の意志で行動に変えようとしているのだ。
何も迷うことはない!絶対に救ってみせる‼︎
僕は心にそう誓い、広い草原を悲鳴のした方向へと走り続けた。
森のすぐ手前に来た時、ついに悲鳴の正体がわかった。それは確かに女の子だった。白い髪の小さな女の子。女の子と、男2人。
やはり女の子が何者かに襲われているようだ。ここからじゃよく見えないが、男達の手に剣らしき武器がある。
もっと……もっと急がないと!
「まずい! 僕が先に行って男達の気をひく。リッタ、君はあの女の子を連れてなるべく遠くに逃げて!」
「うん、分かった。でも、絶対無茶はしないでね? 約束だよ?」
「君もあの子も絶対に守る‼︎ 約束するよ!」
僕は彼女にそう告げ、全速力よりももっと全速力で走る。もうすぐそこ、と言ったところで、3人も僕に気づいたようだ。
だけど、僕も気がついてしまった。僕らが今もっとも出会いたくなかったその相手に。
「な……⁉︎ なんで、なんでここに⁉︎」
振り返る男2人を見た僕は思わず声を上げ、足を止めてしまった。僕の目の前にいるそれは、人間とは違う、禍々しい何かだ。黒っぽい身体に黒い羽。闇を思わせるようなその姿は、まさに僕の知っている悪魔であった。




