『僕らの1週間』
「うーん……これってボクがこれ以上教える事があるのかな……?」
煙も全て収まった頃、ルナはこう言った。
「僕は魔法がどういうものなのかよく分かってないんだよ。初級魔法とか中級魔法とかって言っても、どのくらいが普通なのかも知らないし……。あと実戦の時のこととかさ」
「約束も約束だし、もうちょっとボクに出来る範囲で教えていくよ。これでもまだボクと君との差は歴然だしね!
ボクは現実だととても凄い魔法使いなんだよ!」
「僕の今の魔法でも歴然の差か……。やっぱり上級者にはほど遠いんだ……」
ルナの言葉に少し悲しくなる。
「いやーそれでも君のその力は馬鹿げてると思うよ? ボクは魔法使いをもう十数年間やってるけど、君の話しが本当なら君は今日が初日なんだから。ボクは素晴らしい人材に巡り会えたと思ってるよ!」
「……なんだかそこまで言われると照れるな」
「だから、このルナお姉さんが君をとことん強くしてあげよう」
「お姉さんって……」
「3日! 3日で君は上級魔法を使えるようになる!
ううん、ボクが使えるようにする!」
自信満々に言い切った彼女は、さっきとは違ってどこかイキイキしていた。
3日後には上級魔法かぁ……。僕の異世界ライフはいい感じに狂ってるな……。
「次は聖属性と闇属性の魔法を使ってみよう。使い道としては聖属性が回復で闇属性が召喚だよ」
「召喚魔法かぁ……僕にも何か召喚できるかな。使い魔とか」
「できないこともないけど、君の魔力の量が分からないからね。召喚獣とかってこの世に出し続けるだけで結構な魔力を持ってかれちゃうんだ」
「魔力の量って調べられるの?」
「調べることはできるよ。できるけど……今の君には難しいかな。もっと上手く魔力をコントロールできないといけないからね」
うーむ、確かにそうだよな。僕はまだ魔力を自在に操ることが出来ない。さっきまでは何となくのイメージだけでどうにかなったけど、もっと細かくと言われるとそんな自信はない。
ルナが言うように「自分に翼があるとして、その翼を動かすような感じ」なんだけど、目に見えない、実際にはないものを動かそうとするのは難しい。その意味は分からないでもないんだけど、でも出来ない……。何か一回でも感覚が掴めればいいんだけどな。生命の危機に晒される……とか?
いやいや、それはダメだ。死んだら元も子もないし、とにかく練習あるのみだね。
でも一応他のやり方がないか聞いてみよう。
「他のやり方? ないこともないけど……」
「え⁉︎ あるの?」
「うん、まぁね。魔力を全部使い切ればいいんだよ。そうすればすぐにわかるよ!」
「あ、うん……」
だよね……それはそうだよね。でもあまりやりたくないな。ルナの眩しい笑顔が余計に怖い。
そういえば、魔力を使い切るのって危険なのかな? ふらふらしたり気絶したり、体が動かなくなったりするのはよくある話しだけど……なんだかルナの反応を見ると少し怖いんだよな。動けないときに何かされそうで……。
「魔力はね、全部使い切っても大丈夫なんだけど、回復するのにだいぶ時間がかかっちゃうんだ。それに結構な時間動けなくなるしね」
「なんだか思ってたよりは良かったよ。でもやっぱりやめておこうかな。特に動けなくなるのは怖い……あ、いや困るし!」
「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか!まぁ確かにちょっと楽しそうだけど……」
「絶対ダメだ ‼︎ 僕はやらないぞ!」
ここで倒れたら何されるかわかったもんじゃない。今日で会うのは二回目だけど、ルナの性格は分かってきているつもりだ。きっと動けなくなった僕の身体を……考えるだけでも怖い。リッタとは違う性格だけど、ミレナさんにはとても似てる。ほんとに困るよ。はぁ……なんだかしんどい。
それからも僕はいろんなことを覚えていった。まさか一晩でここまでいくとは思ってもいなかったけど、ルナのプロ級の指導のおかげで魔力を完璧にコントロールすることが出来るようになったのだ。
初級の魔法であれば、自由自在と言ったところだ。中級魔法はまだ少し細かな制御が難しい。
毎日毎日同じように過ごしていって、僕がこの世界に来てから1週間が経過した。
夢の中では魔法を覚えて、起きてる時にはリッタと魔法の勉強をしたりお店の手伝いをした。もちろん遊んだりもしていたが。
魔法の出来具合はというと、なんと上級魔法を少し使えるようになっていた。知識だって、馬鹿に出来ないぐらい増えている。
自分で言うのもなんだけど、1週間でこれならすごいんじゃないかなって思えるぐらいに毎日毎晩頑張った。頑張りすぎて、魔力の量を測ってもらうのを忘れていたくらいだ。
それなりに実戦練習もしたし、いろんな種類の魔法を使えるようにもした。
どれもこれもルナのおかげだ。いつかルナにもちゃんと会ってみたいな。




